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事業承継の全体像を読み解く#7/52

#7  事業承継における3サークルモデルでのアプローチ:家族経営の複雑性を解きほぐすフレームワーク

事業承継において、家族経営の特有の課題に対処するためのフレームワークとして「3サークルモデル(Three-Circle Model)」があります。このモデルは、家族経営、**所有(オーナーシップ)**という3つの要素を相互に関連付けながら考えることで、承継プロセスをより明確かつ効果的に進めるための道筋を提供します。本記事では、3サークルモデルを活用したアプローチについて解説します。


3サークルモデルとは?

3サークルモデルは、家族経営の企業が直面する複雑な関係を視覚化するために開発されたフレームワークです。企業内の人々が以下の3つの異なる「サークル」に属する場合、その交差点で生じる課題や役割を整理することを目的としています:

  1. 家族(Family)

    • 家族としての関係性や感情、価値観を含むサークル。

    • 結婚や相続など、家族特有の出来事が事業に影響を与える。

  2. 経営(Business)

    • 企業の日常業務や経営戦略、従業員との関係に関わるサークル。

    • 収益性や市場での競争力を高める活動が中心。

  3. 所有(Ownership)

    • 企業の株式や資産を保有することに関わるサークル。

    • 株主や所有権に関する決定が含まれる。

この3つのサークルが重なる部分に関係者が配置され、それぞれの役割や立場を整理することで、課題を明確にし、適切な解決策を見つける助けとなります。


3サークルモデルの重要性

1. 役割と責任の明確化

家族、経営、所有のどこに関与しているのかを明確にすることで、各メンバーの役割と責任を整理できます。

2. 家族経営の複雑性の可視化

家族関係と経営判断が交錯する課題を視覚化し、冷静に対応できる基盤を提供します。

3. 対立の回避

家族の感情的な問題や、経営と所有における利害の対立を防ぐための共通理解を促進します。

4. 承継プロセスの計画支援

後継者の育成、所有権の移行、経営体制の構築をバランス良く進めるためのガイドとして活用できます。


3サークルモデルでのアプローチ

1. 家族(Family)の視点

  • 課題

    • 家族の絆や価値観を維持しながら、事業承継を進める。

    • 家族間の対立を防ぐ。

  • 取り組み

    • ファミリーミーティングの実施

      • 家族全員で事業の将来について話し合う場を設ける。

    • ファミリー憲章の作成

      • 家族が共有する価値観やルールを文書化し、次世代に引き継ぐ。

    • 家族教育

      • 家族全体で経営や所有に関する基本知識を共有する場を設ける。

2. 経営(Business)の視点

  • 課題

    • 日常業務や収益性を維持しつつ、後継者を育成。

    • 従業員や顧客、取引先との関係を承継後も維持。

  • 取り組み

    • 後継者育成プログラム

      • 実務経験やリーダーシップ研修を通じて、後継者のスキルを向上。

    • 現経営者からの指導

      • メンターとして現経営者が後継者にアドバイスを提供。

    • 透明性のある意思決定

      • 重要な経営判断を組織全体で共有し、従業員の信頼を築く。

3. 所有(Ownership)の視点

  • 課題

    • 所有権移行に伴う税務や法務の問題。

    • 家族間での株式分配を巡る対立を防ぐ。

  • 取り組み

    • 株式移行計画

      • 贈与や相続を活用し、税負担を最小化する計画を立てる。

    • 事業承継税制の活用

      • 国の特例措置を活用して、税務負担を軽減。

    • 株主間合意の策定

      • 株主間でのルールを明確にし、所有権に関する争いを防ぐ。


3サークルの重なりで考える具体的な課題と解決策

家族 × 経営

  • 課題

    • 家族内の意見対立が経営に影響を与える。

  • 解決策

    • 家族メンバーに経営の役割を担わせる際、明確な役職や評価基準を設定。

家族 × 所有

  • 課題

    • 相続時の資産分配が不公平だと感じる家族が現れる。

  • 解決策

    • 早期から資産分配の計画を話し合い、全員が納得する合意を形成。

経営 × 所有

  • 課題

    • 株主(家族)が経営方針に不満を持つ。

  • 解決策

    • 定期的な株主会議を開催し、経営方針や業績を共有。


成功事例:3サークルモデルを活用した事業承継

ケース1:製造業A社

A社では、家族全員でファミリービジョンを作成し、ファミリーガバナンスを導入。後継者育成の計画を立てつつ、株式移行についても早期から弁護士と連携し、スムーズな承継を実現しました。

ケース2:農業B社

B社は、家族内で経営者と所有者を分け、役割を明確化。事業承継税制を活用して税務負担を軽減し、家族全体で一致団結して次世代への引き継ぎを完了しました。


3サークルモデルを成功させるためのポイント

  1. 全員参加の議論

    • 家族、経営、所有に関わる全員を巻き込み、共通理解を深める。

  2. 専門家の活用

    • 弁護士、税理士、コンサルタントなど、外部の専門家の意見を取り入れる。

  3. 柔軟性を持つ計画

    • 時代や事業環境の変化に対応できる柔軟なアプローチを採用。

  4. 透明性の確保

    • 意思決定や承継計画を家族やステークホルダーと共有し、信頼関係を構築。


まとめ

3サークルモデルは、事業承継を円滑に進めるための強力なツールです。家族、経営、所有の3つの視点をバランスよく考慮することで、関係者全員が納得できる承継計画を立てることができます。

このモデルを活用しながら、家族経営特有の複雑性を整理し、持続可能な成長を実現しましょう。外部専門家の助けを借りることも、承継プロセスを成功させるための鍵となります。

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