Op.8 色は違えど
Sonntag, Oktober 21
卒試まで100日を切った。
本当に学生じゃなくなるんだな。
小学生の頃は簡単に描けた10年後が、今じゃどんな景色かはもちろん、何色かも想像つかない。
あの頃は一寸先だった1年後が、大学4年の終盤に差し掛かった私には何万マイルも先に思える。
でも、1日は24時間で、1時間は60分で、1分は60秒であることに変わりはない。
悩んでる暇も、立ち止まってる暇もないんだ、本当は。
学生最後、人生最後、どっちか分からないけれど、今の自分にできる精一杯の共感を。
音楽が側にいてくれないと、私は死んでしまう。
「入院前に片付けて」と母に言われた勉強道具。
私はこれまで自分の部屋で勉強したことがない。向かう机はいつも食卓だ。
おかげでリビングには私の参考書や問題集、プリント類でできた要塞がそびえ立っている。
今日はその要塞を崩すことで半日使ってしまった。
勉強道具は積み上げただけの本の山ふたつと、箱ひとつに分かれている。
箱の中はごちゃごちゃしていて、カラフルなペンのセット、年賀状や昔のスケジュール帳、貰ったプレゼント類など、勉強に関係ないものも混ざっていた。
その中から拾い上げたsamantha vegaの長財布。たしか、中学2年の時に使い始めた。
このデザインはその頃の私にとってはどストライクだったんだろう。大学2年生になるまで、毎日使っていた。
持っていても使い道なんてないだろうし、お別れしよう。
一応程度に開けると、数枚のカードといっしょに見覚えのあるチケットが出てきた。
大学一年生の夏、ドイツのセミナーに参加した時のトラムのチケット。
たしか奥の2枚は、練習帰りにトラムのバス停(Haltestelle Marktplatz)で直射日光に晒されながら佇んでいた時、通りすがりの一見強面な体格の良いサングラスのおじさんが「使わないからあげるよ!」ってくれたものだ。
「そんな、申し訳ないです…」なんてドイツ語知らないから、分かりやすい困り顔で躊躇しつつも「Danke schön!」ってにこにこしながら受け取ってしまった。
なんでくれたんだろう。いつも理由を探してしまう。素直に「素敵な人だったなあ」ってほっこりして収めればいいものを。
もうひとつの懐かしいチケットは、ドイツに行った年の冬にドライブで行った、よみうりランドのナイトチケットだった。人生初、助手席。
ドライブデートも、観覧車も、よみうりランドも、この時が最後。
なんだかなあ。「大学生ってこういうことか」って思っちゃったな。
同じ大学生でも、音大生とキラキラ大学生じゃワケが違う。しかも1年と4年。そりゃ分からないや。
良くも悪くもスリル満点の、大好きな冬の空気を味わった一日だった。
今、彼はどこに住んで何の仕事に就いているんだろう。探る術もないし聞くほどでもない。けれど、関係が絶たれるって、ちょっと寂しい。
明日から二泊三日で入院する。練習できない環境に不安を抱かなくなったのはいつからだろうか。
今の私にとって、「練習できない」ことよりも「ピアノが弾けない」ことのほうが、よっぽど不安だ。
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