キャリア戦略を立てる
あれもこれもイヤ、でも欲しいものはある――「どっちつかず」な転職者のキャリア戦略
学生の就職相談や、転職希望者のキャリア相談をしていると、こんな声を耳にすることがあります。
「高収入の仕事がいいけど、残業が多いのはイヤ。」
「裁量のあるポジションが魅力的だけど、責任が重いのはちょっと…。」
「新しいことに挑戦したいけど、今の生活は失いたくない。」
このような「どっちつかず」の状態に陥っている人は少なくありません。
そして、こうしたキャリア支援に苦戦しているキャリア支援者からもよく相談を受けます。
一見すると優柔不断に見えるこの状態ですが、実はその背後には「価値観」と「不安」が複雑に絡み合っています。そんな状況を整理し、明確なキャリア戦略を立てるためには、どうすればいいのでしょうか?
①現状を受け止め、「矛盾」にタイトルをつけてみる
私はよく、ご自身のこれまでの印象深かった出来事や、今の悩みにタイトルをつけてもらうことがあります。
今回でいうと「どっちつかずの気持ち」にタイトルをつけてもらいます。
たとえば、「挑戦したいけど、失うことが怖い」なら、それは「挑戦欲求と安定志向のジレンマ」と名付けられるかもしれません。
このプロセスの目的は、自分の抱える矛盾を「問題」として捉えるのではなく、「自然な心の動き」として受け入れることにあります。
「矛盾している自分」を責めるのではなく、または実現可能性とかメリットデメリットで論理的に片付けるだけでなく、その背景にある価値観や感情を整理することがとても大切なんです。
②欲しいものリストとイヤなことリストに分ける
次に、「欲しいもの」と「イヤなこと」をリスト化してみます。
例
欲しいものリスト
高収入
成長できる環境
ワークライフバランス
イヤなことリスト
過度な残業
過剰なプレッシャー
チームの不和
このリストを作ることで、自分が本当に大切にしたいこと(価値観)と、避けたいリスク(不安)が明確になります。
③リストの中身をさらに分類して、分析する
さらにこのリストを共通項などで分類してみます。
金銭的報酬系・精神的報酬の安定系・喜び系・自分にできるか自信がある系、、、などの箱に分類してみます。何の箱にどれだけの想いが詰まっているかが分かってきます。
ポイントは、「欲しいもの」と「イヤなこと」を天秤にかけるのではなく、まず「欲しいもの」を軸に考えることです。そのうえで、「イヤなこと」をどれだけ受け入れられるかを検討します。
④目的思考で、代替案を検討する
たとえば「18時30分までに保育園にお迎えに行かないとならないから、時短勤務しかできない」ではなく、「18時30分にお迎えが間に合う勤務地(保育園と職場の距離が近い)」や「在宅勤務可能な仕事」を選ぶのも1つ。また「19時まで延長保育を検討する」のも1つ。
時短勤務に固執しすぎず、何の目的で何を得たいためのその条件なのかを冷静に考えましょう。
また、トレードオフの受け入れ方を考えてみるのも良いでしょう。
すべての希望を叶える「完璧な職場」は存在しませんので、どのトレードオフを受け入れるかを自分で決めることです。
たとえば、「高収入」を得たいなら、ある程度の残業は避けられないかもしれません。「いくらのどういう仕事なら、何時間まで許容できる」のか。
医療現場で働きたい看護師の「在宅リモート勤務」はなかなか難しいように感じます。ただし、オンライン相談や看護師教育などの仕事は在宅勤務で可能です。その許容できる範囲を具体化することで、自分の新しい働き方を得ることができるでしょう。
「週2回までの残業ならOK」といったように条件を具体化しましょう。
⑤小さな実験をしてみる
いきなり大きな決断を下すのは怖いものです。そこで、転職活動やスキルアップの一環として「小さな実験」をしてみましょう。
業界研究のためにインターンシップに参加する
副業や短期アルバイトなどで経験してみる
興味のある会社の社員とカジュアル面談をする
このような小さな行動は、不安を和らげ、キャリア戦略の選択肢を増やす手助けになります。モヤモヤしたまま時間だけが経過するのではなく、まずは行動を何かしら始めて、その上でまた考えを練っていくと良いと思います。
⑥第三者の視点を取り入れる
キャリアコンサルタントや信頼できる友人など、第三者の視点を取り入れることも効果的です。自分では気づかない視点や可能性を教えてくれることがあります。また、「どっちつかず」の状態を誰かに話すことで、自分の考えが整理されることもよくあります。
⑦未来の自分を想像してみる
最後に、「5年後の自分」を想像してみてください。
そのとき、どんな生活を送り、どんな気持ちで働いていたいでしょうか?
未来のビジョンを描くことで、今の「どっちつかず」の状態に一歩踏み出す力を与えることができるでしょう。
「あれもこれもイヤ」と思うのは、実は自分が大切にしている価値観に気づくチャンスです。そして、「これは欲しい」という気持ちは、あなたの未来へのヒントです。どっちつかずの状態を整理し、一歩ずつ進むことで、自分にとって最適なキャリア戦略が見えてくるはずです。
魅力的な条件・手段ばかりに振り回されず、目的や自分の価値観や感情、中長期のキャリアビジョンに焦点を置いて整理してみてください。