ゴールを描く難しさ
キャリア支援を行っていて「あなたはどうしたい?」という質問に
すごく苦戦している人がとても多い印象です。
学校教育では、教科書の内容に従い、公式や知識を覚えるだけで高得点が取れることが多いです。学年が上がるにつれ、その知識を応用して論述する機会が増えますが、それでも試験は、出題者の意図に沿った正解を見つけることが求められます。
そして、社会に出ると、マニュアルに従って決められた手順をこなし、上司や会社の評価基準に基づいてキャリアを積んでいくことが一般的です。
このような環境に慣れてしまうと、「正解を見つける」「調べて探す」ことが癖になり、特に正解のない問題に直面したときに苦労することが多くなります。
たとえば、「どんなキャリアを築きたいのか」や「将来どうなりたいのか」という価値観やビジョンに関する質問は、正解がないため、
お勉強をしっかりやってきた人ほど、難しいと答える人が多いように感じます。
ビジネスにおいては、ある程度の正解があります。
顧客に選ばれ、利益を出し続けるためにどうするべきか、といった質問には、マーケットリサーチやデータ分析によって「正しい」答えを導き出すことが可能です。
また、結果も数字で評価されやすいため、「成功」「失敗」が明確です。
このような経験を重ねるうちに、評価を得るために正解を探す思考癖が強化されます。
一方で、「どんなキャリアを築きたい?」というオープンクエスチョンは、答えが自由すぎて途方に暮れる人が多いです。これまで、「与えられたゴール」に向けて「どう行動するか」を考えることは多く経験してきたかもしれませんが、自分自身で「ゴール自体を設定する」経験が少ないため、このプロセスに慣れていないのです。また、キャリアの「正解」や理想の働き方は人それぞれ異なり、社会や仕事のあり方も多様化しているため、以前のように「これが正しい」と言い切れるものがなくなっています。
特にクリエイティブ要素の強い部署の方は、この部署でやっていきたいとは思うものの、必要要件(どういうスキルがあったら良いのか)が分からない、何を目指すべきかキャリア戦略を立てられないと言う人が多い印象です。営業よりもゴール成果が予測しづらいからでしょう。
こうした背景から、「キャリアの教科書をください」「正解のゴールをください」といった相談が増えています。セッションやワークショップをしていても、「これで良いですか?」「私の考え方は合っていますか?」と何度も確認されることがよくあります。
冷たいように感じるかもしれませんが、私はどちらでも良いんです。「自由に思った定義で書いて良いですよ」「あなたがスッキリすることが1番です」と回答しちゃうんですが、「え?どうしよう」と困ってしまうので、丁寧に人ごとに解説を添えていきます。
「私のやりたいことを教えてください」と言われることすらありますが、それは本来、他人が決めることではありません。
ここで大事なポイントをいくつかお伝えします。
キャリアに正解はない もし正解があるとすれば、それは「昨日よりも今日、今日よりも明日、自分にとって納得できる日々を増やしていくこと」です。唯一の正解を探すのではなく、より自分らしい選択を重ねていくことが大切です。
比較は不要 キャリアは他人と比較して勝ち負けを決めるものではありません。私たちはそれぞれ異なるフィールドで自分自身を生きているため、誰かと競争する必要はないのです。比較するならば、昨日の自分と比べて成長しているかどうかがポイントです。仮に今日の自分が「負けた」と感じたとしても、それもまた素敵な経験でしょう。負けを楽しめる人生こそ、豊かじゃないかなとも思います。
「あるべき」ではなく「こうなったら良いな」で考える 社会的な役割や年齢に縛られ、「こうあるべき」と自分に厳しくなることは多いですが、時には「まぁ良いか」と肩の力を抜くことも重要です。完璧を求めすぎず、もっと自由に「こうだったら良いな」を描くことで、選択肢は広がります。
自分で考えるトレーニングをする これまで重大な選択を自分でしてこなかった人も、訓練次第で必ず上手くなります。若手経営者・上級管理職の相談でも非常に多いですが、失敗を恐れず、試行錯誤を繰り返すことで、何が大切か、どう考えるべきかが徐々に見えてきます。キャリア相談では、いきなり「正解をください」ではなく、「多様な考え方」を学ぶことが重要です。不安があるならば、リスクを整理し、安心できる策を取れば良いでしょう。管理できるのはリスクのみ。未来は誰もわかりませんのでやりながらまた考え、相談の機会を作ると良いです。
結局のところ、キャリアのゴールを描くには、自分で考え続ける力・実践してみてのポジティブな検証力が必要です。その力を育てていけば、自分で納得した道を切り拓けるようになると思います。
その「考え方」は多様にあるので、それをキャリア研修やプロとの相談で学ぶことをお勧めします。
そこに参加すれば、「自分の正解を与えられる」わけではなく「自ら考えを深める機会が得られる」という点に注意して臨むと良いでしょう。