空飛ぶストレート
渾身の力をこめて投げたストレートを、相手校のバッターがライトスタンドへ運ぶ。
相手側のアルプススタンドで、彼の母親は涙をぬぐい、父親は肩を抱く。
今夜の熱闘甲子園で映像が使われそうなシーンだ。
あと何球投げれば終わるのか。
毎日毎日、どれだけ球を投げ続ければこの監獄から出ることを許されるのか。
まだ四回表だ。グランド整備すら始まらない。
天を仰ぐと、光が目に入る。
視界が大きく揺れて、膝の力が抜け、マウンドから崩れ落ちた。土のにおいがする。
歓声に湧く場内が一気に静まり返り、次の瞬間悲鳴に変わる。
*
目を覚ますと、まるで胎内に戻ったようだった。
あたたかいものに包まれている。
嗅ぎなれたグラブのにおいがする。
急に体を包んでいたものから解き放たれる。
ライトスタンド、一塁側応援席、アルプススタンド、キャッチャー、塁審、ホームと視界が映り変わる。
放物線状に描かれた景色。
眼下には緑、雨上がりの空には虹がかかる。
最期に夢を見て虹をわたる。