異世界サイコロ旅行 第四投
魔法じゃないよ、魔術だよ
たっぷりしがみついていたら、恥ずかしそうにモゾモゾしだした天使ちゃん。
「立てますか?」
う~ん、オークのせいで腰抜けてるし、いまだに耳の奥が痛くて平衡感覚が怪しい。
「ごめんだけど、さっきのオーク? のせいでいまだに世界がぐわんぐわんしてて、上手く歩けそうにないの」
抱擁から解放してあげて初めて顔をよく見たら……え? え? え?
さらっさらっでセミロングのシルバーブロンドでアシンメトリーの髪、色白の肌に白い長めのマント。
でも全体的にすごい華奢で清潔感に溢れてる。
「ボ……ボクの顔に何か付いてますか?」
きたコレーーっ!! 皆さんっ! ボクっ娘! ボクっ娘きました! 初めて見ました!
電撃ショックがビビビと来て、反射的に脳内トレース開始!
ふんふん。なるほど。ファンタジー定番のエルフかってレベルで色薄いねー。めっちゃ強いのにそんな可愛いぱっちりお目々とかギャップ萌えで反則でしょう。
ゲームにしかなさそうな紙装甲の姫騎士服着て、かーーっ、指なっが。腕ほっそ。スタイルいーな、何頭身あんの?
軽く計算させて。40秒で計算するから。これは東洋の計算機だよパチパチパt……。
あれ? 顔も耳も真っ赤でどうしたの? ガン見しちゃったから? ごめんね、だってあなたすごく可愛いんだもん。
「あの……とりあえずここから離れましょう。この辺りは魔物が居て危ないんです。移動しながら話しませんか。向こうにパーティメンバーがいます」
そう言いながら真っ赤な顔を隠すようにして散らばった荷物殆ど集めてくれてる。
私だってヒキガエルよろしく這いつくばって荷物を集めようとしたよ。花も恥じらう16歳乙女ですけど、何か?
ん? 草の陰にいるのは……猫ちゃんだ。じーっとこっちを見てしっぽペンペンしてて可愛い。この娘に付いてきたのかな。
剣とかビームとか、あれってエクスカリバーじゃね? 色々気になるけど、常識人の私は空気読みますよ?
命の恩人に対していきなり根掘り葉掘り聞いたりしませんよー。
!!
ちょまっ!! それは……!!
「へぇ、スケッチブックに絵を描いているんですか。どんな絵を……」
「ダッ、ダメェッ。世界の深淵を覗いてはダメェッ……」
刹那の時間。世界がスローモーションになる。私の体の内側から得体の知れない何かが湧きあがり駆け巡る。体の主導権を奪われ、体が勝手に動き出して………………。気が付けば、私の手にはスケッチブック。そしてボクっ娘が倒れている。ほっぺに私の靴裏の跡を付けて……。
「だっ、大丈夫!?」
「……たんですね……」
「え!?」
「……立てたんですね……、ガクッ」
「あっ……」
猫ちゃんが大きなあくびを一つして、ため息と同時に白い目で私を見る。目は口程に物を言うのは万物共通なんだね。
上半身を起こしたボクっ娘ちゃんが優しく言う。
「す、すみませんでした。大事なものを勝手に」
「違うの! 悪いのは私なの!」
き、気まずい。助けてくれた人になんてことを……。
「ニ゛ャーッ!」
そんなやり取りを続けてたら、猫ちゃんが突然叫んだの。
花を踏んだら蜜を集めてた蜂に刺されたみたい。怒って蜂に猫パンチするんだけど、届かないし、蜂にまた刺されるし。
可笑しくて2人で笑っちゃってさ、おかげでちょっと落ち着いた。
「助けてくれてありがとう! 私は、エクシア・スコールズ。みんなは、『えくすこ』って呼ぶよ」
「ボクは、あ、アーシャ! ……です」
「アーシャちゃんね。あーちゃんって呼んでもいい?」
「あ、あーちゃん!? い、いいですよ……」
「私の事は『えくすこ』って呼んで。敬語はなしね」
「え、えくっ……?」
蜂に刺された猫ちゃんが左目を腫らして帰ってきた。蜂に負けてなんだか落ち込んでる。
「おいで、カリバー君」
あーちゃんは優しく声をかけると私とガリバー君を少し近くに寄せた。
「傷つき者に癒しあれ。憂いある者に安らぎあれ。リジェネレーション!」
あーちゃんの足元に薄っすらと魔法陣が浮かび上がる。こっちの世界に飛ばされた時のとはちょっと違って、なんだか温かい光。
魔法陣が時計回りに強く光出して……。 ……。 ん? お、遅い。 まだ半分行ってないよ。
あーちゃんは手を組んだまま。えっ、こういうのって、魔法陣が出てきたら、ド派手なエフェクトで光がパッと溢れて効果発揮するんじゃないの?
……。
……。
……、猫ちゃん手で痛いところさすってる。あの毛並みメインクーンっていうんだっけ?
……。
たっぷり40秒はかかりました。もっとかな? 光が全周に到達したところで魔法陣から、ド派手なエフェクトで光がパッと溢れて私にも向かって、うわぁきたぁっ。
ちょっと突然でびっくりしたけど、光を受けるとだんだん体の緊張が解れていくような気がする。温泉に入って血行が良くなったような感覚っていうのかな?
何かが私の中を廻っているの。何かは解らないけど、何かがっていうのは解るそんな感じ。
「これで少しづつ体の調子も良くなりま……なるよ。最初のうちは肩貸すから掴まって? お……おねぇちゃん」
お、おねぇちゃん!? 一人っ子の私が憧れてた甘美な響きを真っ赤な顔して選択して来おったわ!
「ありがとう。それじゃ遠慮なく、肩借りるね」
ゆっくり、一歩一歩。水場を避けて移動し始めた。
「ところで、この猫ちゃんは?」
「あ、その子はカリバー君。一応妖精らしいよ?」
それって、猫型妖精ってこと? あ、あぁ、そういえば猫の妖精はケット・シーって言うんだっけ?
やっぱりこの世界には妖精がいるのね。それにカリバー君のカリバーって、やっぱりエクスカリバーの事なのかな?
「それにさっきのは魔法なの?」
「ま、魔術だよ、おねぇちゃん。 魔術は魔法と違って、EXCを燃やしてASICと簡単な呪文で発動させるんだ」
常識人がどうとかいう設定は飛んでった。いや、常識人は恩人蹴り倒したりしないよね……。んで、今なんて? これはもう、あーちゃんを質問攻めにするしかない。
@えくすこプロジェクト
挿絵はハンバーグ師匠の作画です。