ずっと鳥のままでもよかったのに(2024年1月14日)
昨夜23時頃から外でピーピーと電子音が鳴り続けていた。結局そのピーピーは夜通し止まず、音に敏感なタイプの私は夜中に何度も起きてしまい、朝にはぐったりとしていた。
音の出どころはおそらく隣の一戸建てだ。泊まりがけで留守にしているタイミングで火災報知器のようなものが鳴ってしまったのだろうか。「騒音 通報」と検索したり、もう誰か近所の人が通報したかなあとか言っていたら、午前11時くらいに音が急にぴたりと止まった。あれほど何時間もピーピーを煩わしく思っていたのに、いざピーピーが聞こえないとなると耳が探してしまう。しゃっくりが止まったときみたいに。
それで母方の祖母のことを思い出した。あるとき祖母宅の火災報知器が、何かの手違いで一日に何度かピッと鳴るようになっていたらしい。祖母は天井裏に小鳥が迷い込んでしまったと思って、たまにピッというと「はーい」と返事をしたり、朝にはみずから声をかけていた。結局、私の父が調べて火災報知器であることを突き止めたのだった。そのエピソードを聞いて笑うみんなと一緒に祖母も笑っていたけれど、老後の一人暮らしのさみしさを私なりに想像して、ずっと鳥のままでもよかったのにと思った。
風邪なのか花粉症なのか、鼻水が出たり鼻詰まりが苦しく、鼻が通ったと思えば乾燥しているのか空気を吸うだけで痛い。それにピーピーの寝不足が重なり、なんだかぼんやりしている日曜日だ。
前日いちにち元気がなく、ずっと素っ気なかった連れあいに「今日は元気でた?」と聞くと「ちょっとだけ」と答えながらコーヒーを淹れてくれた。昨日の私が彼の態度から心を避難させるためにキッチンに逃げ込んで作ったアップルパイをあたためて食べた。
午後。いらなくなった服を売っちゃおうとふたりで数着選び、袋に入れた。古着屋に長居するのが得意な連れあいに店まで持ってってもらおうとすると「なんか眠い、一緒に行かないとおれ寝ちゃう、道端で寝ちゃう」と突然甘えだした。昨日は不機嫌に私の存在をガン無視していたというのに、あまりにも差が激しい。心が生ものであることがよくわかる。秒刻みに色を変え、ぐずぐずに腐ったりしおしおになったり、かと思えば唐突にぷるんとみずみずしくなったりする。
私はあんまり買う気のない古着を見ながら査定を待つのがどうしてもいやだったので、今日はもう売りに行くのをやめにした。
おのれの眠さを断ち切るため無理やりランニングをしに出た彼が、帰ってくるなり「シャワー浴びようかな」「ベタベタしてなんか気持ち悪いし寝る前に入るのめんどくさくなっちゃうし○#△.〒%,=*……」と急に早口になって自分の状態をすべて言葉にしてきたので笑った。走ってからだが興奮状態になり、それにつられてすこし心にもハリが出たならよかったよねえ。
晩ごはんは奮発した刺身盛りを買ってきて手巻き寿司をした。結婚記念日の前祝いなのだった。2周年の今回は、もう長いこと連れあいが抱えているつらさ(仕事を辞めたい)をなかったことにして急に盛り上がれるわけもなく、このようにささやかな祝福となった。なんとか、はやく大丈夫になりますように。
【よかったらお読みくださいシリーズ】
▼日記以外の読み物
▼はじめて自作の日記本『不在日記』を発売しました!(在庫僅少)
▼写真家の服部健太郎さんとやっている聞き書きプロジェクト
▼友人ふたりと読んだ本について書いている共同マガジン