中央線の彼女
中央線でドアの近くに追いやられていた彼女は、ひどく疲れた顔をしていた。茶色く染めた白髪混じりの髪を結い上げた彼女は、スマートフォンのメモアプリを見て悲しげな表情を浮かべている。
そこには、シャンパンコールの文字起こしが記されていた。何を言われた時にどのように返すかがしっかりと書かれているそのメモに、私は引き込まれてしまった。
メモアプリとボイスメモを行ったり来たりしながらコールを書き進める彼女の目は、どこか切なげだった。
メモが下の方までスクロールされると、コールの締めにはこう書いてあった。
「今日もおかまでよかった(よかった!)」
そこまで書き進めて、彼女は私と同じ新宿駅で降りた。
改札までの道、少し彼女の近くを歩いた。よく見ると手は骨張っていて大きく、ファンデーションが男性特有の脂性的な浮き方をしていた。
浮かない表情のまま、彼女は反対の東口へ歩いて行く。
名前も知らない、仕事も知らないけれど、何故か彼女の幸せを願っている自分がいた。