
AI革命の隠れた勝者?GE Vernovaの電力インフラ戦略を徹底解剖!
「AIブームの影の主役」— それがGE Vernova(GEV)である。
AIの進化がもたらすデータセンター需要の急拡大に伴い、電力インフラ銘柄への注目が高まっている。
特に、2024年にGEからスピンオフしたGEVは、電力の“つくる・送る”を支える企業として急成長。株価は上場以来堅調に推移し、市場はこの新興エネルギー大手の将来性を評価し始めている。
本記事では、GE Vernovaの成長戦略と、なぜ「AI時代の必須銘柄」と言われるのかを徹底解説する
GE Vernovaとは?なぜ注目されているのか?
GE Vernova(GEベルノバ)は、米ゼネラル・エレクトリック(GE)からスピンオフしたエネルギー事業会社であり、発電設備や電力インフラに特化した新しい企業である。
2024年4月に独立した公開企業となり、ガスタービンや風力タービン、送電網ソリューションなど、電力の「つくる・送る」ためのハードウェアとソフトウェアを幅広く提供している 。
130年以上の歴史を持つGEのエネルギー技術を基盤に、「世界を変えるエネルギーを(The energy to change the world)」という使命のもと、持続可能で安定した電力供給の実現を目指している。
GE Vernovaが今投資家の注目を集める理由は、そのビジネスがAI革命とエネルギー需要の高まりに深く関係しているからである。
生成AIやクラウドの普及によりデータセンターの建設ラッシュが起き、これまで停滞気味だった電力需要が再び拡大局面に入っている 。
実際、同社の技術は世界の発電量の約25%を占めるとも言われるほど広範に使われており 、AI時代の“電力インフラ銘柄”としてポジショニングされつつある。2024年の年間売上高は約349億ドルと前年比5%成長し 、受注残(バックログ)は1,190億ドルに達した 。
こうした規模感と成長余地から、GE VernovaはAIブームを支える隠れたキープレイヤーとして期待されている。
GE Vernovaの事業セグメントと成長の鍵
GE Vernovaは大きく3つの事業セグメントを持っている。それが「発電(Power)」、「風力(Wind)」、「電化(Electrification)」である 。
それぞれの内容と2024年の業績を見てみよう。
発電 (Power):
ガス火力発電設備を中心とするセグメントである。天然ガスや水素混焼可能なガスタービン、蒸気タービン、原子力関連サービス等を提供し、安定したベースロード電源(※)を支える。
2024年の売上高は約181億ドルと前年比4%増(成長率7%増)と堅調に拡大した 。同セグメントは受注も前年比25%増と好調で 、電力需要拡大を背景にガスタービンの新設・更新案件が増えていることが窺える。
※電力供給網における一日の需要の最低水準であるベースロード(基礎負荷)の要件を継続的に満たす信頼性の高い発電
風力 (Wind):
陸上・洋上の風力発電設備を扱うセグメントである。巨大な風車(風力タービン)やブレードを設計・製造し、再生可能エネルギーの主力を担う。
2024年の売上高は約97億ドルで前年比1%減と横ばいだった 。ただし営業損益は大きく改善している。
GE Vernovaは近年、不採算だった陸上風力事業の立て直しに注力しており、2024年には陸上風力部門でEBITDAマージン1桁台後半(およそ8%前後)の黒字化を達成した 。
一方で洋上風力ではブレードの不具合対応やプロジェクト遅延が響き、依然として課題が残る。
風力セグメント全体ではEBITDAは約5億8800万ドルの赤字だが、前年から損失幅をほぼ半減させており 、着実に採算改善が進んでいる。
電化 (Electrification):
グリッド(送配電網)や電力変換装置、蓄電・ソフトウェア等を含むセグメントである。
電力の安定供給や効率化に不可欠な変圧器・送電線制御システムや、再生エネを繋ぐための電力変換機器、さらには電力網をデジタル制御するソフトウェア(例: GridOS)まで手掛ける。
2024年の売上高は約75.5億ドルと前年から18%も成長し、3事業の中で最も高い伸び率を記録した 。
欧米で老朽化した送電網への投資需要が高まっていることや、再エネ普及に伴うグリッド強化のニーズ増加が背景にある。
実際、受注残高も前年比44%増と大きく積み上がっており 、電化セグメントはGE Vernovaの新たな成長エンジンとなっている。
各セグメントが独自の役割を持ち、全体として発電から送電までエネルギーバリューチェーンを網羅している点がGE Vernovaの強みである。それぞれの事業がバランスよく成長することで、同社はAI時代の電力需要拡大に対応できる体制を整えている。
AI市場と電力需要の関係
近年のAI(人工知能)ブームは、電力需要と表裏一体の関係にある。大規模な生成AIモデルの学習やクラウドサービスの拡大によって、データセンターの建設・拡張が世界中で加速している。
データセンターは膨大な電力を消費するため、「AI産業の成長=電力需要の増大」と言っても過言ではない。
具体的な数字を見てみる。
現在、データセンターは世界全体の電力消費の約1〜2%を占めるとされるが、この比率は2030年までに3〜4%へ拡大する見通しである。
特に生成AIの処理には大量の電力が必要であり、ある試算では2023年から2030年にかけてデータセンター電力需要が160%も増加するとされている。
米国では、2030年には国内電力の8%近くをデータセンターが消費するとの予測もあり、AI時代における電力インフラ拡充の必要性が改めて浮き彫りになっている。
こうした流れは、電力市場全体の成長予測にも反映されている。米国では、長年ほぼゼロ成長であった電力需要が、今後20年で50%増加に転じると予測されている。また、欧州においても、2030年代前半までに電力需要が5割拡大しうるとの試算がある。
世界全体で見ても、国際エネルギー機関(IEA)等の分析によれば2022年から2040年にかけて電力需要が50%以上伸びる可能性が高いとされている。
要するに、AIの普及やEV(電気自動車)など社会の電化が進むことで、今後数十年は電力需要が歴史的な拡大期に入る見通しである。
GE VernovaがAI市場で勝ち残る理由
それでは、数あるエネルギー関連企業の中で、なぜGE Vernovaが「AI関連銘柄」として有望視されるのか。
その理由として、以下のポイントが挙げられる。
1.ガスタービン技術による安定電力供給
AI用途を含むデータセンターは、24時間365日稼働を続けなければならない重要インフラであり、天候に左右されない安定電源が不可欠である。
GE Vernovaの強みである高効率ガスタービン発電は、まさにそのニーズに応えるものである。
同社の最新鋭ガスタービンは、単機で数百MW級の電力を安定供給でき、必要に応じて水素燃料やカーボンキャプチャーにも対応可能な設計となっている。実際に、米オハイオ州ではGE Vernovaの7HA型ガスタービンを用いた世界初の水素混焼発電所が稼働を開始している。
さらに、2025年以降も研究開発投資を拡大し、AIプログラムへの内部投資を2倍に増やす計画である。これにより、発電設備の効率向上やスマート運用(予知保全等)にAIを活用する取り組みを進めている。
2.再生可能エネルギーとの統合
ガス火力と並ぶ柱である風力発電や蓄電技術との組み合わせにより、GE Vernovaはクリーンエネルギーと信頼性の両立を図っている。
例えば、風力発電は天候によって出力が変動するが、必要に応じてガスタービンが即座にバックアップを提供することで、データセンター等への電力供給が途切れることを防ぐ。
また、同社の電化セグメントで提供するグリッドソリューション(例:電圧安定化装置FACTSなど)は、大量の再生可能エネルギーを電力網に組み込みつつ、電圧や周波数を安定させる役割を果たす。
これにより、AI時代に求められる「クリーンかつ安定した電力供給」をワンストップで実現できる体制を整えている。
3.戦略的なパートナーシップと投資
GE Vernovaは、市場の変化に対応した戦略的展開にも積極的である。
最近の例として、石油大手シェブロンや投資ファンドEngine No.1と提携し、米国でデータセンター向けに最大4GW(約400万世帯分)の専用発電所を開発する計画を発表している。
以上のように、GE Vernovaは発電から送電、再エネまでカバーする総合力と、AI時代の需要にマッチした技術・戦略を備えているため、市場で勝ち残るポテンシャルが高いと言える。
リスクと課題
一方で、GE Vernovaが直面するリスクや課題にも目を向ける必要がある。
1.風力発電事業の収益性
上述の通り、風力セグメントは依然として赤字であり、特に洋上風力におけるコスト増大や技術トラブルが懸念材料となっている。
風力業界全体でブレードの不具合やサプライチェーンの課題が報告されており、GE Vernovaもその影響を受けている。
今後、安定的に利益を確保するためには、更なるコスト削減と製品の信頼性向上が不可欠である。
2.規制・政策の影響
エネルギー産業は各国政府の政策に大きく左右される。再生可能エネルギーへの補助金、炭素税、電力市場の規制緩和・強化など、政治的な環境変化がGE Vernovaの事業環境を変動させる可能性がある。
例えば、温暖化対策の強化によりガス火力への逆風が強まる一方、エネルギー安全保障の観点から国内発電投資が促進される可能性もある。シナリオによって、GE Vernovaにとって追い風にも向かい風にもなり得る。
特に、2025年には米国大統領選挙の結果としてトランプ政権が再登場したことで、エネルギー政策が大きく変化する可能性がある。
トランプ氏のエネルギー政策は、化石燃料の推進と規制緩和を重視する傾向があり、再生可能エネルギーへの補助金縮小や環境規制の撤廃が進む可能性がある。
これにより、GE Vernovaの風力・電化セグメントの成長に影響を及ぼす一方、ガス火力事業にとっては追い風となる可能性がある。企業戦略の柔軟性が問われる局面である。
3.技術革新の必要性
エネルギー技術の競争は激化しており、他社も次世代技術への投資を強化している。GE Vernovaにとっても、蓄電池、スマートグリッド、小型モジュール炉(SMR)などの新興代替技術に対抗するための革新が求められる。
現在はガスタービンが収益の主力であるが、長期的にはカーボンニュートラルを見据えた燃料転換(アンモニア燃焼技術の開発など)や、より高度なAI活用による効率化で競争優位性を維持する必要がある。技術投資を怠れば、将来的な競争力低下につながるリスクがある。
上場後の株価動向とバリュエーション
GE Vernova(GEV)は、2024年4月のスピンオフ以来、株価が堅調に推移している。上場直後の初値は約115ドルで、翌日には136.75ドルまで上昇した。
その後も上昇を続け、2025年2月26日時点での株価は335.99ドルとなっており、上場時から約192%の上昇となっている。
現在のバリュエーション指標として、GE Vernovaの株価収益率(PER)は56.33倍、株価純資産倍率(PBR)は9.18倍となっている。
これは、同社の成長性や市場での期待が反映された結果である。また、JPモルガンはGE Vernovaの投資判断を「オーバーウェイト」とし、目標株価を436ドルに設定している。
GE VernovaはAI投資家にとって「買い」か
GE Vernova(GEV)は、AI時代の電力需要拡大という追い風を受け、着実に成長基盤を固めつつある。
発電・風力・電化のバランスの取れた事業ポートフォリオを背景に、売上・受注は増加傾向にあり、収益性も改善してきている。
特に電力インフラ需要の高まりは構造的なものであり、データセンターやEVといったトレンドが続く限り、GE Vernovaの市場環境には追い風が吹き続けるだろう。
もっとも、投資判断として「即買い」と飛びつく前に、上述した風力事業の課題や政策リスクにも留意する必要がある。
重工業企業であるがゆえに業績の変動要因は多く、株価の値動きもAI純粋プレーヤー(例えば半導体企業など)とは異なる性質を持つ。
しかし、AI革命を支える“縁の下の力持ち”として電力インフラの重要性が増す中、GE Vernovaは長期視点では十分に検討に値する銘柄である。
同社が持つ技術力と世界的な顧客基盤、そしてエネルギー転換時代における不可欠な役割を考えれば、AIに間接的に投資する手段の一つとして「買い候補」として注目しておく価値はあるだろう。
著者も、市場全体が急落するタイミングでの購入を検討している。
おしまい