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才能がある人ってどんな人?

みんなそれぞれに生まれ持った、『セッティング』というものがあります。

人それぞれ骨格が違って、筋肉の付き方も違います。私たちは、その人オリジナルの体の作りと、その機能のことを『セッティング』と呼んでいます。

「才能がある人」とは、オリジナルなままのセッティングを、本能のままに使えている人のことです。つまり、あるがままに本能に身を委ねることができる人です。

なんだそんなこと?と思うかもしれませんが、これが実は稀なことなんです。私たちは普段、周りから様々な影響を受けて、本来ではない不自然な動きを身につけてしまっています。立ち方、座り方、歩き方を見ても、人それぞれに癖がありますよね。少しでも本能に逆らうような動きをすると、セッティングは歪んでしまいます。整体などで、定期的に歪みを治してもらっている人も多いと思います。

オリジナルなセッティングであるということは、体のバランスが本能のままに保たれている状態である、とも言えます。

若い才能のある音楽家や、神童と呼ばれるような天才音楽家は、まだ何も影響を受けることなく、自然なセッティングのままに本能で演奏している子たちです。感じるがままに伸び伸び演奏をしているように見えます。

そういう子たちを指導していくというのは本当にデリケートなことです。イリヤンは「生徒さんたちのセッティングはあるがままにPRESERVE(保護、保存、守る)されなくてはいけない。」とよく言っています。

たった1回のレッスンでも、その本能を摘み取るような指導を受けてしまうと、いとも簡単にバランスは崩れてしまいます。型にはめるような指導がそうです。正しいフォームと一言で言っても、人それぞれのセッティングに合ったフォームがあります。みんなに通用するフォームというのはありません。

音楽の部活動などで、みんな同じような姿勢で、同じような動きをさせられているのをよく見かけます。それはある意味、子供たちから、自然なセッティングや、本能のままの動きを奪うことでもあります。なんでこんなことになっちゃったの?みたいな不自然な子供を見ると切なくなります。

何か自然ではないことを意図的にやろうとすると、バランスは崩れてしまいます。指導する側は、その子に備わったセッティングを「あるがままにしておく」ということに注意深くある必要があります。「こうでなくてはいけない」、と生徒を一般化して、コントロールしようとするのは指導者のエゴです。

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では、才能に任せて、本能のままに自然なセッティングでいれば音楽家として伸びていけるか、というとそうではありません。才能だけでは音楽家にはなれません。

誰に教わったわけでもなく、生まれながらに天才歌手、と言われる人もいます。けれどもその多くが、些細なことをきっかけにバランスを崩して歌えなくなってしまいます。才能というのは、そのままにしておくと、早かれ遅かれいつかは崩れるものです。才能だけに任せてしまうということは、脆く壊れやすい、ということでもあるんです。

だからこそ、いとも簡単に起こり得る「セッティングの崩壊」を未然に防いでいくことは、音楽家にとってとても大事なことです。ではそのために必要なことはなんでしょうか?

それは自分の体の感覚を研ぎ澄ましながら、「体の使い方」を覚えていくことです。『体を使う』ということは、体に正しい方向付けをしていくことです。決して、体を動かそうとコントロールすることではありません。そのプロセスは、生まれ持った自分のセッティングに気づいていくこと、とも言えます。「体ってこういうふうにできてるんだな、自然に動いてるときってこういう感覚なんだな、こういうふうに動くのが自然なんだな」、と静かに思い出していく、そんなイメージです。

本能を使って演奏していくためには、その人が生まれもったセッティングの状態である、とうことが必要です。セッティングがズレていると、本能とも繋がれない、ということなんですよね。

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では一度歪んでしまったセッティングを取り戻していくことは可能なのでしょうか?

それは不可能とは言いませんが、とても難しいことです。時間もかかります。ある程度音楽を学んできた人の場合、誰しもが多かれ少なかれ、どこか不自然な癖を持っています。そこからの学びは、ある意味癖との闘いです。

今まで当たり前だと思っていた感覚が、不自然なものだと気づくこと。不慣れに感じてしまうことが、本来の自然な動きだと気づくこと。その感覚の歪みを修正していく練習というのは、骨の折れるプロセスです。それは感覚を覚え直す作業です。

やろうとしてもなかなか思う通りにできない。
たとえできたとしても、なんでそれができてるかわからない。
一度できたことを考えながらやろうとすると、またそこでバランスが崩れてしまう。

最初はそれの繰り返しなんですよね。悩ましい状況なのはよくわかります。

だからこそ、大人になってから伸びていこうと思うと、今までの学び方と発想を変えて、違う視点から学び直していかなくてはいけない、ということなんです。

音楽を学ぶことは、本能を取り戻していくこと。本来の自分に還っていくことです。変わろう!と奮起するのではなく、あるがままの自分を受け入れたとき、本当の意味で人は変わっていけるんだと思います。

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