見出し画像

SF創作講座第7期 前半振り返り(前編)

 ゲンロンSF創作講座の第7期(2023-2014)を、6月から受講しています。最初の講義から3ヶ月が過ぎ、4回の講義とひらマン合同回が行われました。ここまでの個人的な振り返りを残しておこうと思います。


今回の受講の動機

 私は4、6期の受講生で、今期が3期目の受講となります。6期に引き続いて継続受講することにしたもっとも大きい理由は、最終課題を最後まで書き切ることができず、未完のまま提出してしまったためでいた。最終課題の中編を書き切っていれば、評価結果に関わらず次に進めていたはずですが、このまま終わるのは納得いかなかったのです。
 最終課題を完成させられなかったのは、二つ原因があると思っています。一つは公募共倒れ問題。じつは昨年末から今年の初め、つまり最終課題の時期は、創元SF短編賞にも、ゲンロンの最終課題にも、ハヤカワSFコンテストにも応募しようと目論んでいたのだけど、結局何も出せなかったこと。二つ目は最終課題執筆中に、ある場面を書くことができず、執筆が数日止まってしまったため。プロット上は段取りを決めてあったアクション場面でありながら、暴力を描くことに抵抗があった。それは必要な場面だったので、書いて切り抜ける必要があったと思うし、何らかの理由で執筆が止まった時の早期に手当てする方法を持っていないのも良くなかった。
 今期は、こうした問題をクリアして毎月の課題に取り組みたいと思っている(いた)。そして、自分で書き切ったと納得できる小説を書くことを目標にしたい。そのためには、自分なりの書き続けるための方法論(そんな立派なものではないかもしれないが)を確立することと、自分の得意技は何か、読者から見た強みや魅力は何か、作者として書きたいことは何かをはっきりさせることが必要だと思っていて……乗り越えていきたいところです。

自分の状況と課題

 しかし、「毎月の課題に」対して、すでに過去形で「取り組みたいと思っている(いた)」と言わなければならない事態が最初から生じています。いや、受講開始前から、が正しいだろうけど。主催する同人誌・V系SFアンソロジーがあり、参加する同人誌が複数あり、それらの原稿や編集作業に追われながら、何もかもが中途半端になっている。ついでに後半戦に入ってから〆切が迫ってくる公募にも出す気はあって失敗を繰り返す愚者になってしまう懸念があります。
 とは言え、その中で課題は梗概、実作、フラッシュフィクションすべて提出できたし、講座の外ではV系SFアンソロジー・1stシングル『絶唱』をまずは出せました。
 これまで書いた短編は講師からの評価もいただけず、自分でも欠点や課題の多い作品だと思うが、手を動かしたから分かったこともあり、リライトするための課題も見えてきたので、よい経験だったと思う。
 何より4回目の課題にして、ようやく梗概を選出いただいた。この機会に面白いものを書きたいと思う。
 けれど、その前に。過去作品について見えてきた課題とやらをそのまま放置したら何にもならないので、振り返っておきたいと思います。2作ともアップデートしてどこかに読めるようにする気満々である。

第1回「アーティフィシャル・ビースト」

 最初の課題『宇宙、または時間を扱うSF』に対する作品である『アーティフィシャル・ビースト』。
 宇宙を舞台にした、それも超光速航法を前提とした星間文明の世界を舞台にした小説である。この手の大風呂敷を正面から広げてくる受講生はあまりいないだろうという想定もあったし、何より、自分がこの路線で今の時点で何が書けるかを考えたかった。
 この作品は、実は4期第2回課題の『テルミドール』の300年後の続編になっています。設定の細部や固有名詞は違いますが。最初は同一人物を主人公にした別エピソードでいこうかと思っていたのですが、どうもしっくりこないので、主人公のジェンダーを女性から男性に変更し、息子だという設定にしたらこうなった次第。パートナーであるAIの銀葉《イン・イェ》の愛称がシルバーなのは、タニス・リー『銀色の恋人』オマージュ。人間の少女と男性型ロボットの恋愛もので、ロボットの名前がシルバーです。
 梗概段階から実作の執筆中まで、書きながら悩んでいたのは現代の宇宙SFとしてのリアリティ・レベルの問題だった。超光速航法というウソを前提にして、星間文明(銀河帝国とか銀河連邦とか)のあり方はどうなっていれば今時OKか。AIと人間の関係をどのようにするべきか。そして今作のメインテーマである異星生物および異星の生態系の設計と、異星生物と地球由来の生物との交合、生殖の可能性、さらにその前段としてコミュニケーションの可能性。コミュニケーション可能な程度に、外見や大きさや時間感覚をホモサピに寄せる必要がある。交配可能性を探り出すと、炭素系生物だとしてもゲノムとかタンパク質とかの基本の部分で共通であるのはご都合主義ではないか。遠宇宙への人間の進出が現実的ではない一方で、系外惑星が続々と発見され、生命の存在すら地球にいながらにして見つけ出そうとしている中で、よその星に出かけていってファーストコンタクトするという発想は説得力を持ち得るか。などなどの疑問が、サイエンスのリアルとフィクションの嘘の間《はざま》で渦巻きました。残念ながら未解決で曖昧なままの梗概と、そのまま誤魔化した実作になってしまいました。
 じっさい、梗概では小浜さん大森さんともに低評価で、何をしたいのか明確でないからアドバイスもできないというコメントもいただいた。
 結論としては、おそらく、当たり前だけど「自分がやりたいことに合わせて、リアリティレベルを調整すればよい」ということなのだと思う。
 ハードな異星生物SFである春暮康一『法治の獣』の表題作だって、人間が共感を抱きやすいもふもふのユニコーンだから話が成立しているのであって、その根本的なところは小説のための「嘘」である。あるいはル・グィンの『闇の左手』をはじめとしたハイニッシュ・ユニバースものだって、人間そっくりの人々がさまざまな星にいる理由づけは一応あったと思うけど、まさに人間のことを(特殊な設定を使って)語りたいから、人型であるというのが根本的な理由だろう。
 一方でAIの能力についても悩みどころなのだけど、これも、数百年~数千年の未来のコンピュータのことなど分かるわけはなく、現代の延長+想像力で自分の作品に合わせた答えを考えるしかない。『ハイペリオン』シリーズのテクノコアAIや『天冥の標』に出てくる連中の影響はあるのだけど、自分の中では、現在のAIを踏まえた人間と共存する姿みたいなことは考えていて(コンピュータが人類を支配するのはナンセンスだと思っている。もし人類を超えたなら、そんなつまらないことしないだろう?)、もっと追求したい。もうひとつレイと母親の関係は、『エイリアン4』のリプリーのグロテスクを踏まえたところがあるのだけれど、医療技術、生殖技術が発展した先の、長期タイムスパンでの家族の形や親子関係のあり方、遺伝子と文化資本を受け継ぐ血統みたいなことを考えていた。
 その物語で何を語りたいか、何を伝えたいか。異星生物とのコミュニケーションの話で、合成生物の話で、男性型アンドロイドと男性ホモサピの恋愛話で、AIと人間の対立と協調の話で、母と子の話。……のような未整理な物語になのだけど、書きながら気がついたあれこれを突き詰めて、いずれリライトを試みたい。それは、今と同じ姿をしているとは限らないけれど。

(後編に続く)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?