○○坂48
勤め先が病院なので、医師や看護師、薬剤師、検査技師、医療事務の方、施設管理係などなどいろいろな職種の方と話す機会が多い。長く勤めていると、プライベートで親しいわけではないけれど、ちょっとした仕事の合間に交わす言葉で、親しみを覚える人とそうでない人がいるのに気づく。
親しみを感じる人とは、ごく短い会話でも自然とやりとりが弾んだりして、楽しい気持ちになる。誰とでもそういう会話ができる人間力のある方もいるが、やはり相性で打ち解ける、打ち解けないパターンがある人の方が多い。私も後者だ。
そんなたくさんの人がいる中で、人と会話をするとき、無表情な表情を崩さない女性の看護師の方がいる。周りの人からは、ちょっとその計り知れない感じが恐れられていて、とっつきにくい人、と思われている。それでも、仕事ができるので、かなり前に病棟の師長となったのだったが、地位が上がってからは、ますます周りの人から恐れられるようになった。
その方と私は、かなり昔に、重大な医療事故の問題で、病院の幹部に連れられて、一緒に公の場で事故報告をしたことがあり、その時以来、すれ違う瞬間に言葉を交わしたり、ちょっとした合間に雑談をしたりするようになった。その方は、歳を重ねても無表情で、周りの方からは相変わらず恐れられていたため、私がその方と打ち解けた様子でしゃべっているのを、いろんな方から不思議がられることがよくあるのだった。
しかし、この無表情な看護師さん、見た目にはものすごくクールなのだが、話してみると、言葉のセンスが半端なく、話していて私が声を上げて笑ってしまうような瞬間が何回もある人なのだった。最近も、髪を切った私に遠くから気づき、声をかけてきた。
「やだぁ、髪を切ったの?可愛い〜!何坂?何坂?」と、口元は笑っているのに、目は無表情なまま言っている。
「何坂?」というのは、「いい歳して欅坂46とか桜坂なんとか、とかを気取ってるんじゃないわよ」、みたいな皮肉と冗談が混じったものということはわかった。私はこの方と話すのは大好きだったが、頭の回転が遅いからうまく切り返せず、いつもと変わらずアハハハと笑ってごまかすのみだったが、次の瞬間彼女は、「下り坂48」とボソッとつぶやいたのだった。
くだりざかフォーティーエイト!!私の実年齢48歳と引っ掛けたお見事というしかないセンスに爆笑しながらまたまた感服してしまった。部署に帰って、この会話をみんなに披露したらまた大爆笑。「あの師長さん、あんな感じなのに、そんな面白いこと言うんですね」という反応も。
仕事というのは大変なばかりではなくて、仕事とは関係ない、こういう数々の心弾む瞬間があるから続けていけている面もあるな、と感じる。