国会対応の現状

ここ数年、国家公務員とりわけ霞ヶ関で働く方々の働き方がひどいということで、多方面から様々な改善策の提案がなされています。各省でも、これまでにないほど働き方改革の取り組みが積極的になされています。

各省の取り組みについても考えてみたいところですが、今回は国会対応について取り上げます。

①国会対応の作業の流れ

国会対応と一口にいっても、一連の作業プロセスは複雑多岐にわたります。

時系列でざっくり並べると、
(1)議員レク・資料要求
(2)問取り→
(3)問おこし→
(4)割り振り→
(5)答弁作成→
(6)大臣等への答弁レク→
(7)国会陪席→
となっており、一個一個のプロセスは、想像以上に複雑です。

議員レク・資料要求とは、当日の質問準備のため、霞が関の職員から施策の現状についてレクだったり資料を要求することです。突然、超ショートの締め切りで来ることもしばしばです。その場合は、一旦全ての業務を止めて最優先で対応しなければなりません。

問取り(議員から実際の質問内容を聞き取ること)も同様です。議員事務所から届いた質問要旨(当日に質問する内容を書いた紙)が不明確だと、そもそも誰がいくべきかわからず、たくさんの職員が議員事務所に殺到します。

最終的にどこが書くかということでも省庁・部局間でよく揉めます。答弁を書くことと責任をとることは、基本的に一連託生だからです。

答弁作成では一つの部局で完結しないこともしばしばで、よそからメモをもらったり、答弁内容に誤りがないか確認をしてもらったりすることになります。その上で、総理答弁であれば官邸にもチェックしてもらわなければなりません。

答弁作成し、全ての関係者から了解をもらって印刷が終わる頃には日が昇っていることも日常茶飯事です。

そして、翌日の答弁レク。大臣によってはかなり省力化が行われているところもあるようですが、レク中に議論が発生するスタイルの場合は、国会開始に間に合わせるため早朝(早いときは5時)から行い、修正が入った場合は至急で差し替えたものを改めて大臣に手交する必要があります。

国会対応の目標は、質疑がスムーズに流れることです。
卒業式でも何でも良いのですが式典を想像してもらえればいいです。

決められた時間に、決められた内容を確実にこなしきること。
国会は日程闘争の場ですので、予算・法律を決められた審議時間で成立させるためには、国会がスムーズに流れていなければなりません。

一方で、国会質問は、当然ですが予算・法案の内容に限りません。むしろ、時々に注目を浴びているテーマの質問の方が圧倒的に多いです。前国会では、新型コロナウイルス、桜を見る会、黒川検事、森友、加計がメインで聞かれました。

テーマを狙い撃ちにした質問がたくさん来ると、特定の省・部局の業務量が激増します。
大量の質問が連日当たると、平時の体制では対応が不可能になり、他部局・他省庁に応援を依頼することになります。
応援元も本来業務を既にぎりぎりの人員で行われている状況にあり、応援にも限りがあります。
結果、炎上している部局では連日徹夜、残業時間が数百時間を超える職員が多数発生するという過酷な勤務状況になるという構造です。
応援元の業務も同時に増加するという事になります。

②この状況をどう考えるか

国会は、国会議員による行政施策の監視・追求の場になっており、それは以前からそうなのですが、近年は民間の働き方改革の進展も相まってその過酷さが際立っています。

確かに行政側に不祥事があった場合、なぜそのようなことが起きたのか、今後そのようなことがないようにどうすべきか、といった検証はしっかりなされなければなりませんが、それと働く職員があまりに過酷な状況下に置かれることは論理的に是とはならないはずです。

多忙な職場で働く人がつぶれたとしても、その施策を待っている人がいるはずですから誰かが引き継がないといけないのですし、その質が下がってしまっては元も子もありません。

新型コロナ対応のような刻一刻と状況が変わり、その都度判断を迫られる業務もあるわけで、国会対応に忙殺されていては、適切な判断ができないリスクが高まります。

国会対応の業務負担を少しでも減らすためよく見かける提案としては、質問通告の原則二日前の徹底や、一行質問要旨の廃止(質問内容を具体化するということ)、一度に大量の質問や無慈悲な締め切りの資料要求を控えることなどが挙げられています。

こういった施策は、要するに国会議員の霞が関へのアクセス制限ということになるかと思います。すなわち、現状、国会議員が好きなときに好きな内容のサービスを行政側に要求できるという状況(もちろん、霞が関側の状況を配慮していただいている国会議員の方々もたくさんいます)を、その要求できる時間・内容をある程度制限するということになります。

これらの提案が実現すれば、行政側は国会対応が発生するタイミング・内容への予測可能性が高まるので、他との業務のバランスを考えながら対応できるようになります。

反対に、国会議員側は、聞きたいときに聞けない場合が生じたり、質問をあらかじめ具体的に確定したりしなければならないので、国会質問へのコストが増加することになります。

場合によっては、二日前にだした質問では、国会当日の時点では古い情報を元に質問することになりかねません。

一方、行政内部でできる改善策としては、決裁ルートの簡素化、審査の電子化(対面でやらずメールですます)、答弁レクの簡素化などが挙げられます。

ミスを起こさないため、複層的なチェック体制を築いていいるため、業務がかさむわけですから、その工程を省くことで業務量を少しでも削るということです。(他にも質問・答弁自体の作成をAIに任せるといったことも言われていますが、実現にはいたっていません。)

業務簡素化で何が起きるかというと、答弁のクオリティが下がるおそれがあります。

質が下がるというのは、チェック体制が薄くなるので、答弁間で齟齬が生じたり、そもそも齟齬が生じないように最初からその場しのぎのすれ違いの答弁をしたりすることが増えるということです。

すると結局、国会審議が充実したものにならないという結果が生じるおそれがあります。

国会対応の現状としては、霞が関の業務を圧迫しているのは事実で、個々の職員を相当疲弊させています。

改めてその在り方を見直す時期だと思いますが、その際には、国会審議の充実、国会議員の霞が関へのアクセス、霞が関の職員の業務負担の在り方を一遍に考えて取り組む必要があると考えています。

では、そのための答えは何なのかと問われると私個人としても明確な答えは持っていないのが歯がゆいところです。。。


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