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思われがち

けしてそんなことはないのだが、どうにも、おとなしく言うことを聞くと思われがちだ。
従順そうに見えるのか、コイツは歯向かってこないだろうと高をくくられているのか。
これは今に始まったことではなく、昔からそうだ。

・大人しく控えめできちんと話を聞いてくれる
・穏やかで優しい

これまでを振り返ると、私のことを良い風に捉えてくれる人からは、ありがたいことに、そんなふうに評されることが多い。
実際のところ、けしてそんなできた人間ではないのだが。

大人しく控えめに見えるのは、単に大勢でわいわいすることが苦手で、自分のことを話すのも苦手で、どちらかというと人の話を聞くほうが好きだからというだけのこと。
けして、話したくてしかたがない己を律して聞き役に徹しているわけではなく、単に私が居心地の良い位置におさまっていただけのことだ。

穏やかで優しいというのも、これといってそんな自覚は微塵もなく。
まあ、激情型でないのは確かだが。別に込み上がる感情を抑え込み耐え忍んでいるわけでもない。単に極度の面倒くさがりで、怒る気力さえ惜しいという、極めて怠惰な部分が全面に出た結果に過ぎない。きちんと怒ってくれる、叱ってくれる人の方がよっぽど優しいと個人的には思う。

少し話が逸れてしまったが、実際の私の内面とは裏腹に、とにかく他者からの私の印象はそんな感じだ。
子供の頃で言えば、おしとやかな女の子。
白いふわっとしたワンピースが似合いそう…。
実際のところ、子供の頃はひたすら外で木登りに明け暮れていたし、学生時代は制服以外にスカートは一着も持ち合わせていなかった。未だにそうだが、クローゼットを開けるとほぼ黒い色合いの服しかない。ふわっとしたカワイイものは家のどこを探しても一つも無いかもしれない。

なぜここまで実際とかけ離れた印象を持たれるのか、十代の頃にはそれなりに真剣に悩み、親しい友人に相談したりもした。
「なんか…顔立ちが大人しいんじゃない?」
…それはもう、お手上げだぜ…。
派手な化粧か、はたまた整形か。そこまでして誤ったイメージを持たれることから解放されようとは思えなかったし、何だかどうでも良くなったきっかけでもあった。

始めに各々勝手な印象を抱き、実際の私がそうではないとわかったとき、反応は二手に分かれる。
思っていたのと違った、何なら真逆だねと面白がって受けとめより親しくなるパターン。
もう一つは、思っていたのと全然違う…と明らかにショックを受け、なんなら引いて自然と離れていくパターン。
前者のみと関係を築けたら、私はそれで良いと思っている。後者のパターンを何度となく経験し、若い頃は人知れず傷ついたりしたものだ。シンプルに自分の内面を否定されたような気がして、しかもとても一方的に。
私の内面が本当に奇抜な、猟奇的であったりどこかぶっ飛んだものならば、それもしかたがないと思えたかもしれないが、消してそんなことはない。
穏やかに生きている、良識あるいたって平凡な人間…だと思う。ただただ、勝手に持たれた印象と違うというだけで、勝手にショックを受けられてもたまったものではない。何ならこっちだって、ショックなんですけど!と言ってやりたいくらいだった。

それも40歳ともなれば、もう何とも思わない。あ〜はいはい、ごめんなさいね、思っていたのと違ってね、と心のなかで相手に謝る余裕すらある。図太さに磨きがかかるばかりだ。
この後者のパターンは、どういうわけか男性に多い。というか、ほぼ男性だ。
幻想を抱きがちなのか、何なのか。
これがプライベートなら、ごめんなさいね、思ったのと違ってね、好きな映画はラブストーリーではなくバイオレンスアクションですよ、イコライザーですよ、と心の中でいなして終わるのだが、仕事となるとそうもいかないので少しやっかいだ。

冒頭に話したように、おとなしく言うことを聞くと思われがちな為か、都合よく面倒な仕事を押し付けてこようとする人間がわりといる。
ただ押し付けるだけでは飽き足らず、その手柄は己のものに、何かミスがあれば私のせいに、そんなふうに仕向けようとする人間が実際に存在する。残念な世界だ。
自分で言うのもなんだが、どんな仕事もコツコツ真面目に取り組み最後までしっかりやり通すタイプだとは思う。
それに加えて、件の見た目の印象だ。黙って自分の思い通りに動かせると思うのだろう。
そんな浅はかな思惑を抱く人間は、底が知れているというか、その程度の人間でしかないのだと思う。彼らはおそらく想像力も乏しいため、口答えしないと思っていた私が、ある時ふといつも通りの穏やかな口調で端的にそのおかしな状況にやんわりと疑問を呈すると、露骨に一瞬ビクッと怯んだ引きつったような表情を浮かべる。そして黙ってフェードアウトする者もいれば、たどたどしく言い訳をし慌てて取り繕おうとする者もいる。そしてその後は皆一様に態度が急によそよそしく、礼儀正しく丁寧な社会人としての振る舞いに変わっていく。

卑怯者への嫌悪感がなぜか人一倍強い私としては、そんな浅はかな人々に利用されるなんて絶対にごめんだし、到底受け入れられない。
だから、穏やかに口数少なに疑問を呈するだけでそんな状況を回避でき、そんな人間と適切な距離を取ることができて何よりなのだが、ただ一つ、少しひっかかることがある。
職場において、目上の男性社員からの態度が、ある日を境に急にピリッと礼儀正しく変わる。
明らかに気を使われているのがわかる露骨な急変ぶりで、かたや私は以前と全くかわらず淡々と仕事をしている。
これがはたから見ると、むしろ私の印象が悪く映る。なんて理不尽な現象なんだろう…。
基本的には人にどう見られても構わないとは思っているのだが、これだけはなんだか解せないと思ってしまうのは、私の心が狭いからなのか。

そんな小さなことに人知れずもやもやしながらも、卑怯者を何とかやり過ごし、日々平穏に暮らせている私は十分幸せなのかもしれない。



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