晩夏
夏の盛りが過ぎていく。
ラジオの天気予報は夏の終わりが近づいてるという。
このまま過ぎる夏の夕暮れに焦りを感じて、財布片手に駆け出した。
スーパーに駆け込んで、一番大きな花火を掴んでレジに走る。
スマートフォンを取り出して急いで画面を叩く。
「これから花火やろう」
それだけ送って、家に帰ってライターをポケットに押し込んでバケツを自転車のカゴに放り投げて、跨って走り出す。
夕暮れがそっと夜に変わる前。
夏の終わりの間近。
自転車でぬるい風を切り裂いて。
集合場所なんて告げずにとにかく早く早く。
汗が額から流れ落ちて、それをぬぐって駆け抜けて公園にたどり着く。
バケツと花火を持って自転車を降りる。
切れた息を整えながら、見渡す。
どことも言わずに集まれる仲間たち。ベンチに座って待っていてくれる。
花火の袋を無理に破いてバラバラにする。
ライターをバケツに水を汲み、みんなの真ん中へ。
ライターで火をつけて、隣に回すみたいに火をつけていく。
白、赤、青、緑
暗くなり始めた公園を火薬の灯りが照らし出す。
手に持つ灯りを振り回して、はしゃいで、駆け回って転がって。
バケツに枝が生えていく。
今年最後の花火が終わっていく。
目で追う姿が闇に溶けていく。
この花火が記憶に残るかな。
いつまでも残るような。
ないかな。
それとも、その時にはきみはいないかな。
閉じたまぶたの裏側に君を映して、また目を開ける。
公園の街灯が君を照らしてる。
花火の明るさと違った君の笑顔が虹彩に焼き付いていく。
この花火が最期の花火になったとしても。
きっと思い出すよな。
ないかな。
きみは隣にいるかな。
いないよな。
運命なんてないかな。
ないよな。
ぼくが隣にいるかな。
いないよな。
夏が過ぎて、秋が来る。
蝉の声が、鈴虫に変わる。
空の赤は、紅葉になっていく。
そんな夜空を見上げているよ。