【読書部】これから生まれてくる子どものためにできること
こんにちは!
主に歯科の分野で活動しています、佐々木大樹です。
僕は歯科の業界に医療者ではない立場として10年以上います。
このような活動をしていると、医療者側の知識と、一般の人の知識の格差に非常に問題を感じています。
特に『歯科』の分野においては、一般の人の知識(というか意識かも)が低いせいで日本人の口腔環境は非常に良くないものになっていると思っています。
ということで、そういった知識のギャップを埋められたり、意識を高めていくことが出来る(と思う)本を紹介したいと思います。
【読んだきっかけ】
僕の周りの先生は赤ちゃんの頃からの口腔の発達について情報発信をしている先生が多いので、その先生からのご紹介で読み始めました。
(予防に取り組んでいらっしゃる先生の多くが、最終的にはこういったところに到達するのではないかと思っています)
【要約】
1980年代に沖縄の宮古島で行われた縦断的(一度きりの断面だけを切り取った研究ではなく、何年にもわたって追跡して行われた)な調査のレポートの形式をとっている本です。
この縦断的な調査(と保健指導)により、
ほとんどの乳歯がむし歯で崩壊寸前だったものが、むし歯は半分以下に減りました。
3歳時点で12本以上がむし歯だった状況から、4本以下に減りました。
(離島なので)歯科医療の供給体制が十分ではない地域にも拘らず、歯科受診率は市街地のデータを超えました。
また驚くべきことに、こういった活動を始めたころに生まれていた子どもたちには大きな改善が見られなかったものの、その活動が始まってから生まれた子どもたちには大きな改善が見られ、かつ幼少のころの口腔内の状態が成人にまで引き継がれていくことが分かりました。
■既に生まれている子どもの口腔環境の改善は難しいが、
■これから生まれる子どもたちに良い口腔環境を用意することは比較的簡単で、かつ
■その子どものころの口腔環境が大人になるまで(結局死ぬまで)引き継がれる
さらには、最近この作者の方々の研究を引き継いで『現在の』宮古島で調査をしている歯科医師の有志の方々がいらっしゃり、その方々の調査の結果も楽しみなところです。
(世代を跨いで引き継がれるのか、、)
【もくじ】
序
お礼の言葉
第1章 初めて見る沖縄
1.沖縄県先島地方乳幼児健診
2.体育館にあふれる乳幼児
3.台風に閉じ込められて
4.池間島での追加健診
5.初年度の健診結果
第2章 モデル地区活動(池間・狩俣)
1.モデル地区活動の展開
地区活動の内容 対象地の選出
2.モデル地区活動の進行
はじめてのモデル地区活動
3.子どもたちと歯科治療
4.治療内容の変化
5.食生活指導の実際
食生活指導 お爺とお婆の役割
第3章 モデル地区総合歯科保健活動の成果
1.歯科健診と歯科治療
歯科疾患の概要 むし歯 その他の歯科疾患 地区活動余話
2.あごの働き(機能)
現代っ子のあご チューイングガム法 筋電図の記録
3.あごの発達とかみ合わせ
不正咬合とは 不調和型の不正咬合 叢生の再発と親知らず 乳歯不正咬合 習癖型の不正咬合 皇后の変化
4.食生活と歯科疾患
食生活指導の効果 指導継続の難しさ 食生活改善 おかあさん達のがんばり
5.追跡調査
第4章 モデル地区活動の総合的評価
1.最終評価のために
2.歯科疾患の最終評価
3.あごの働きの評価
4.あごの発達の評価
5.うまくいかない要因
6.ミニシンポジゥム
第5章 乳幼児の哺育
1.乳幼児・乳児の哺乳調査
2.哺乳瓶の内圧の測定
3.赤ちゃんの筋電図をとってみよう
4.母乳哺育と哺乳瓶哺育
5.母乳哺育が無地かしい場合はーそしゃく型乳首の開発ー
第6章 赤ちゃんからの歯科保健
1.母子クリニックでの調査
2.固形食への移行
3.かむ力の発達(機能的発達)
4.あごの発達(模型計測)
5.哺乳調査の総合評価
第7章 その他の調査
1.厚生省派遣の僻地健診班資料
歯科疾患の実態 不正咬合とその要因
2.文部省科学研究費による調査
3.高齢者の口腔並びに歯科疾患の実態とその検診方法に関する研究
終章
1.活動成果の要約
2.新しい時代の歯科保健
3.あとがきにかえて
参考文献
【感想】
この本を読んで感じるのは、医療者の研究に対する情熱です。
こういった研究を縦断的に継続し続けることは簡単にできることではないと思います。
お金も持ち出しになるでしょうし、全く見ず知らずの土地に体当たりで飛び込んで行き、地域の人たちを巻き込んで生活習慣まで変えさせるって並大抵のことではない。
もちろん地域の保健師さんなどの活躍はあるんだろうが、やはり関わる人たちの(信じられないくらいの)情熱が無ければ続けられないことであると思う。
そして、先人たちの情熱に感化され、現在の歯科医師たちも宮古島に足を運んでいるという事実に感動しました。
是非、医療者はもとより、今(これから)親になり、子どもの口腔の発達や食習慣などに悩んでいる人にも目を通してもらいたい。
前編を通して、研究のレポートの体裁なので表やグラフも多いし数字もたくさん載っているが、総じて分かりやすい言葉で書かれているので読みやすいと思います。
ポイントだけでも把握しておくと、自分の口腔内だけではなく、子どもの口腔内(、そしてもしかしたら子孫の口腔内も)を守る方法を学ぶことが出来ると思います。
【今後の活かし方】
この本に書かれている情報を多くの人に共有していくことで活かしていきたいと思っています。
特に
■子どものころの口腔環境が大人になっても維持されること
■母乳育児が基本であるが『そしゃく型乳首』を使用することで、ミルクでも母乳育児に劣らない結果を得られること
(口腔の発達について)
■間食やカロリーのある飲み物を控え繊維質に富んだ食事を摂らせること
などは、比較的容易に伝えられ、実践できて、歯科疾患のリスクを大幅に減少させることが出来るため効果的なのかなと感じた。
お読みくださり、ありがとうございました^^