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猫になりたいと姉は言う。【短編小説】
二階から階段を降りて、一階のリビングを覗き込むと、姉が食い入るようにテレビに齧り付いている。
テレビ画面を見てみると、なにかのドキュメンタリー番組で、丸々とした猫が画面いっぱいに密集していた。
そう、一匹どころではなく、数十匹。
呑気そうな猫たちが、暖かそうな日差しの中、思い思いに寝転んだり人に媚びたり、歩き回ったりしている。随分と堂々としていて、人間よりも偉そうだ。
「私、生まれ変わったら、マルタ島の猫に生まれ変わりたい」
唐突に姉が宣った。
「はぁ?」
階段を降りる音で私が来たことに気がついていたらしい姉は、くるりと体ごと振り向くと、ソファーの背に抱きついて、もう一度宣った。
「私、マルタ島の猫になりたい」
振り向いた姉の背にあるテレビ画面には、相変わらず多くの猫が、観光客と思しき人間から美味しそうなご飯を貰っている映像が映し出されていた。女性のナレーションが「マルタ島には人間が大凡四十万人、対して猫が七十万程暮らしていると言われていますーー」と言っている。
「……だから?」
姉は呑気な上に唐突だ。思いついたことを即実行しては、一喜一憂している。一度立ち止まればいいのに、と思うのに何故か突進する。私は大抵それを後ろから眺めて呆れているか、首根っこを掴んで引っ張る役目を負う羽目になるかのどちらかだ。
一緒にいるととてもとても面倒臭い人だ。できればあまり近くで居たくないーー、
「だからね、百ちゃんも一緒に猫になろうよ」
「はぁ?」
「来世も姉妹でね、マルタ島で一緒に猫」
「え、嫌。てか、そこは彼氏とじゃないの?」
「壱くんも一緒だといいけど、百ちゃんも、とーさんも、かーさんも一緒がいいじゃない。そんでさー、皆で観光客の人達からご飯貰うの。一日中日向ぼっこしてさ、たまに隠れんぼしてさ、皆で仲良く暮らそう。今みたいに」
「……あっそう」
私は呆れて、キッチンに足を運んだ。そもそも一階に降りてきた理由はお茶を淹れたかったからだ。紅茶にしようか、そう言えばこの間、姉の好きな……
「ねー百ちゃん、耳真っ赤ーぁ!照れてるー?」
やっぱり渋い緑茶にしよう。
創作企画 Twilight-Story 第8回「もしも生まれ変われたら」
お題を見た時に、ちょうどマルタ島の猫が出てくる番組をアマプラで見ていたんですよね。マルタ島の猫ならなってみたいな……と自分が思ったのがお話を書くきっかけです。
初参加した第7回「選択」に書かせていただいた「食うべきか、食わざるべきか、それが問題だ」に出てきた姉妹の、今回は妹ちゃんの目線から。
姉は千歳、妹は百花、姉の彼氏君が壱と言う名に決まりました、なんか勝手に彼らが呼び合ってた。
最初は前回と同じに姉の千歳ちゃんからの目線で書こうと思ってたんですが、何故か百ちゃんの目線に。しかもあまり語らない子なので1000文字にすら達しなかった……。30分強で書き上がりました。
姉妹関係とは微妙なものだ、と思うのですよね。あと、姉より妹の方が存外しっかりしてるとか、あるあるではないかと。
さて、今回も大遅刻作品になりましたが、次回以降も遅刻しながら参加させていただきたいと思います。
お題、ありがとうございました!
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