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不動産金融曼荼羅の片隅で。
子どもが小さい頃、さんざん読み聞かせをした「パンやのくまさん」という絵本があって、この絵本のくまさんのように暮らしたいなーと常々思っている。
パンやのくまさんは毎朝、早くに起きてパンを焼き、たくさんのお客さんにパンを売って喜ばれ、夜になるとチャリンチャリンと売上を数え、ぐっすりと眠る。暖炉の火でマフィンを温めてジャムを塗って食べたり、ときどきパーティーに特製ケーキを作って届けたりもする。みんなに必要とされ、ささやかな日常の幸せの中で穏やかに暮らしている。
美味しいパンを焼くことも、おなかが空いた人にパンを売ることも、間違いなく善いことに違いない。
しかし現実の社会は絵本よりだいぶ複雑で、そもそも食べる必要もないパンを最大限に口に押し込もうとすることがマーケティングと呼ばれ、おなかが空いた人からパンを奪い取るような商売まである。
ぼくら不動産投資家というのも、不動産博打に勝って資本を増やし続けなければ存在価値がないし、かといって負けて市場から消えたところで、建物は変わらずそこに残って別のオーナーのものになるだけで、退場しても誰にも迷惑をかけることもない。
額に汗して人に喜ばれる仕事をするのが善いことだというシンプルな世界観からすると、眉を顰められるたぐいの稼業だろう。
でも金融や投資というのは形が見えづらいけれど…金融機関や投資家が撤退した国や地方都市の惨状をみてもわかるように、お金のことばかり考えている欲深い人間が集まることで、都市は光り輝いていく。
どこでどのようにつながっているのか、この不動産金融曼荼羅は広すぎて全てが見通せないけれど、片隅でひとつの歯車としてぼくが漏水アパートの持ち場でクルクルと回ることが、どこかでギンギンの再開発ビルを竣工させ、屋上から天に向かってレーザー光を放つことに少しだけつながっていたりするのだ。たぶん。
だから、悩むことなく営業マンは力の限りワンルームを押し込み、金融マンは証券化してばらまき、地上げ屋は土地をまとめて大きな建物を建て、区分所有オフィス®屋はせっかく建てた大きなビルをまた切り刻み、文京区民はマンション建築に全身全霊で反対し、デベロッパーはどんどんちいさくなる3LDKを作ればいいのだ。
それぞれが不動産金融曼荼羅の持ち場で全力を尽くして戦うことで、世界都市ランキング3位の東京はますます光り輝く大都市となる。さあ、明日から仕事始めだ。
(2021年1月3日、夜)
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