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メイキングオブ拙作 横山ミィ子『ラーメン』

少年画報社より2024年12月2日発売の「年末年始思い出食堂 三太の奇跡」に10頁の作品を掲載して頂いた。どうぞよろしくお願い致します。

父と娘の話である。私自身は幸い家族にはとても恵まれているのだが、「何しろ家族なのだから支え合うべきだ」という考えは呪縛にもなりうる。そんな思いもあって他人どうしの交流を描くことが多かったが、ある知り合いの女性のお父上への言葉を時折目にし、「本当に信頼できる存在であれば、支えたい、ずっと一緒に時間を過ごしたいと思うのは自然なことだ」と思えた。敬老の日に子供たちが「おじいちゃんおばあちゃん いつまでもながいきしてね」と書くのはありふれたフレーズであるが、それが切実な本音になるものだと、私も考えるような年齢になったのだ。

2015年に『酸辣湯麵サンラータンメン』というメニューのエピソードを描いたことがある。ラーメンではあるのだが、とろみのあるスープが特徴で、麺が表面からは見えない。それで「ラーメンの麺を描いてみたい」という思いが(何故か)ずっとあった。登場するラーメンはなるべく同じ絵を利用せずそれぞれを描いたので、見なくてもラーメンを描けるようになった(だからどうということもないが)。ちなみに、ラーメンのモデルは名古屋市の「信忠閣しんちゅうかく」、そして地元三重県四日市市にある町中華「柳苑りゅうえん」のものである。

いつも美味しい柳苑のごはん

「家の鍵を忘れて父が届けてくれて、ラーメンを食べに連れて行ってくれた」というのは、私の実話である。姉が大学時代に住んでいたアパートに姉妹で連れ立って泊まりに行ったら、カギを実家に置いてきたことに気づき、やむにやまれず家に電話をしたら父が届けてくれた。到着まで1時間くらいかかっただろうか。別に怒っている様子もなく、むしろおかしそうで、ついでにラーメンに連れて行ってくれたのだが、残念ながらそのときの店も味も覚えていない。漫画では、父親の車としてスズキのアルトを描いた。堅実で真面目な彼が大事に乗るのはきっとアルトかなと思った。ロングセラーの車種であり、私は乗ったことはないが、何人かの知り合いにもユーザーがいるのが決め手であった。

↑お気に入りの一コマだが、私のミスで文字が消えていた

実は結末は、しょうは留学先からしばらく帰らない予定だった。自分の人生を生きるためにそれが必要だと思ったからである。しかし編集さんと詰めていく中、ひょんなきっかけで藤沢周平の名があがった。代表作『蝉しぐれ』等で知られる超売れっ子小説家の彼が、創作において大事にしたものは「明るさと救い」――そのような話を、ちょうど書いている途中の朝日新聞で目にし、軌道修正した。人生の選択とて、やはり大事な人が遠くに行ってしまうのはさみしいものだ。読者様もそう考えるのではないか、と思い直し、時間はかかってもまた親子一緒の生活がやってくる、そう思えるラストにした。いろんな偶然が導いてくれた今回の制作だったと思う。

なお、主人公の「翔」という名前、「もっと高く飛べる」というセリフは、ベット・ミドラーが歌う『愛は翼にのって』(原題:Wind Beneath My Wings)から着想を得た。それが主題曲となった映画『フォーエバー・フレンズ』(英: Beaches)では、主人公の女性がその友人の女性を讃えて歌うが、人生のさまざまな場面で自分にとって「風になって私を飛ばせてくれた人」はいるのではないだろうか。思い出すたびに胸に迫る名曲である。

アイディアのきっかけとなった知り合いの女性は、私自身がヴァンクーヴァー留学中に知り合った、尊敬すべき女性たちに似ている。実に勉強家でエネルギッシュで情に厚い、そんな彼女から私は大いに学ばせて頂いている。クリスマスギフトにもならないだろうけれど、謹んで彼女にこのエピソードを捧げたい。

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