急がなきゃ、急がなきゃ・・・人間椅子『暗い日曜日』
人間椅子ファンの皆さん、こんにちは。彼らの曲では『りんごの泪(なみだ)』『針の山』『どっとはらい』『ダイナマイト』など大好きな歌がたくさんあるが、1995年リリースのアルバム『踊る一寸法師』に収録されているこの曲は、その構成からも私にとって異色かつ魅力的で、彼らの曲の中でもトップクラスに好きな一曲だ。その魅力に迫ってみたいと思う。
まず、『暗い日曜日』というタイトルだが、シャンソンの名曲ーー「聞いた人が多数自殺した」という逸話で有名なーーから取られたものには違いない。もっとも、その歌詞やメロディを見る限り共通点は感じられないが、それでも陰鬱さ、不安、焦燥感が漂ってくる。これは、たまたま見つけた掲示板である方が書かれていて気づいたのだが、ブラック・サバスの『黒い安息日(Black Sabbath)』にも引っ掛けられているのだろう。「安息日」とは、そう、日曜日のことだ。
『黒い安息日』は、「トライトーン」といわれるコード進行を採用していて、その和音はまがまがしい気持ち悪さを醸(かも)し出せることからも「悪魔のコード」と言われるという(※1)。リフからメインパートまでのG、G、C#という展開もそれに当たるのだろう。私は音楽理論がさっぱりなので自信はないのだが、『暗い日曜日』のリフでトライトーンが使われているのではないか。耳コピして拾ってみた限りでは、リフのメロディが、"C# E C# G→ G F# E" という 流れだった。この響きは『あやかしの鼓』など、他の人間椅子の「おどろおどろしい」曲でも耳にする。
さて、この曲のモチーフは「時間」である。歌詞は三つのエピソードから構成されている。一つ目では主人公である「僕」の、現在の恋人に会いに行こうとする。二つ目では、今は離れているが、過去のことは知っている母親からの便りを受け取る。三つ目は、未来に向かって「僕」も目指さなければならない成功を手にした、かつてのクラスメートのエピソード。それぞれの人たちとの関わりを前に、「僕」は「急がなきゃ 急がなきゃ」と焦る。さながら、いつも時計を見て走ってはいるけれど、何をしようとしているのかわからない、不思議の国のウサギのように。
そんな主人公の焦りと「時間」を、コードだけでなく演奏でも描くところがとても面白い。リフのメロディと、歌が入る間に、ドラムとギターのカッティングの掛け合いの部分があるが、「チク、タク、チク、タク」という時計の針の音を模したものに聞こえる。また、三つ目のエピソードの歌部分からギターソロに入るまでの部分は、時計のネジを巻き戻しているかのような旋律を奏でている。
あまり一つの曲についてじっくり考えることはしないのだけれど、『暗い日曜日』だけはずっと形にしてみたかった。ものすごく恐ろしくはないが穏やかでなく、プログレ全開でもないけどちゃんと彼らの変拍子や転調、美意識、深い構成が楽しめる名曲。私の読みが正解とも思えないし、まだまだ謎解きをする楽しさも潜んでいるだろう。
Spotifyリンク 人間椅子『暗い日曜日』
(※1)フェンダーニュース"音楽に潜む悪魔"と呼ばれたコードの歴史
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