16話 初めての試合飯
朝日が東の地平線から上がる頃に、レンドールは目覚めた。ベッドから起き上がり背筋を伸ばして、ベッドの近くに置いてある鏡に向かう。
そして解いた長い銀髪を三つ編みに結い始める。その途中で同じ部屋で眠りについていたアネットも目を覚ました。レンドールは鏡越しに挨拶した。丁寧に髪を結いながら朝の挨拶を交わす。
「おはよう。アネット」
「おはよう。早いわね。レム」
「今日から2次予選だろう?なら朝から少し身体を動かした方がいいと思ってね」
「そうかもね」
アネットはパジャマからいつもの白いワイシャツに着替えている。下半身は革のズボン、白いワイシャツの上に革のベストを着て、最後に仕上げに革のジャケットを羽織る。そして髪を軽く櫛でとかした。
その間レンドールも長い銀髪を結いあげている。仕上げに赤いリボンで髪を結んだ。服はおしゃれなベストに腰には装飾のような布を巻いている。
アネットは拳銃の確認をしている。分解をして丁寧にクリーニングをして、また組み立てる。最後に銃弾の確認をした。
「よし、今日もこれで戦えるわね」
身支度を終えたレンドールも鏡台から立ち上がり、そして軽く拳銃の確認をして、部屋から出た。
部屋の外に出ると騎士テオと武闘家ミオンも既に準備を完了した様子で宿屋のリビングで彼らを待っていた。
「おはよー!」
「おはようございます、アネットさん、レムさん」
「早いな。テオ君も、ミオン君も」
「今日から2次予選ですからね。これからどうします?」
「ディープスカイへ行って、例の”試合飯”を食べない?」
「せっかく闘技場がいいって言ってくれているしね」
「そうだな。行こうか」
早朝、8時。アストリアの朝は歓楽街だけあって一番静かな時間帯だ。彼らは宿屋からチェックアウトするとアストリア美食街へと足を向ける。
すると、商人と思われる男性から声をかけられた。
「おはようございます。インビジブルナイツの皆さんですね?」
彼らは少し驚きつつ警戒するような目を向けた。商人はそんな彼らに慌てて自分の身の上を明かした。
「すいません。驚かせてしまって。私、ミスカ地方から来た商人です。1次予選突破した皆さんに丁度いい食材があるので声をかけさせていただきました」
「食材ですって?」
「はい。実はこのミスカガーリックの売り出しにアストリアまで来ましたけどなかなかスポンサーになっていただける人がいなくて困っています。そこでインビジブルナイツの皆さんに食材として試食していただきたいと思いまして」
「ねえ?リヴァスさんも確かミスカ地方の話をしてなかった?」
「していたね。ミスカガーリックか。本当にいいのですか?我々が食材として使って?」
「はい。皆さんがグランドマスターズにまで進んで下されば、食材を提供した私やミスカガーリックも噂を聞いて特産品として認知してくれますから」
「思わぬ収穫があったね。早速リヴァスに見せてみようか」
「リヴァスってディープスカイのコックですよね?」
「ええ。僕たち、そこが専属のコックなんですよ」
「食材もこれからディープスカイへ入荷させてください」
「わかりました。これからもお付き合いのほどよろしく」
思わぬ食材のスポンサーを獲得したインビジブルナイツは、そのままディープスカイへと足を向けた。
朝のディープスカイは朝食セットを食べる人でにぎわう。賭けに参加する一般客、賭けはしないけど闘技場の熱気を味わおうと観に来る観客、それぞれが朝食を食べている光景があった。
リヴァスは朝から元気よさそうに仕事をしている。彼らが来ると彼が応対してくれた。
「おはようさん!」
「リヴァス、おはよう」
「リヴァスさん、あの~、例の食材なんですけど新しい食材が手に入って」
「へえ?どんなのだい?」
「ミスカガーリックっていうニンニクだよ」
「ミスカ地方特産のニンニクだね」
「これで何かできますか?」
「これなら、リモセラミと合わせると美味しい”試合飯”が出来そうだね」
早速、リヴァスがリモセラミとミスカガーリックを使って、ピザを作ってくれた。”リモセラミのガーリックピザ”という試合飯の完成だ。
またもう一つ試合飯が考案された。ペルナスとミスカガーリックを使って、ペペロンチーノを作ったのだ。”ペルナスのミスカペペロンチーノ”の完成だ。
ガーリックピザはクリスピータイプのピザにトマトソースとチーズとミスカガーリックをふんだんに使ったピザ。効果は嬉しいHPアップだ。
ミスカペペロンチーノは、リヴァスの得意料理ペペロンチーノにペルナスという茄子を炒めて、唐辛子を効かせた辛めのペペロンチーノ。こちらの効果も嬉しい体力アップだ。
かなり食べられる”試合飯”が増えたので、何を食べるか迷うインビジブルナイツ。
それぞれの能力を更に伸ばすか。それとも欠点を補うように食べるか。
「選択肢が増えたおかげで可能性も広がって、何を食べるか本当に鍵になりそうね」
「どうしよう?」
そこでリヴァスは基本的なアドバイスをする。
この世界はレベルの概念も存在する。彼らの現在のレベルは12前後。レベルは99まで上がる。12前後なら何を食べても間に合うレベルなので、とりあえずお勧めする食事を教えた。
「レベルが低いうちに体力アップを図った方がいいかもね。HPアップも今のうちに手を打つのもいいかもね。とにもかくにも戦いでHPや体力が低いと泣きを見やすいから」
「試合飯で体力アップがあるのは、さっきの2種類とリモセラミート首長巻きだね」
「それじゃあ、俺は、リモセラミのガーリックピザを食べるか」
「あたしは肉系が好きだから、リモセラミート首長巻きを頂戴!」
「僕はそれじゃあペルナスのミスカペペロンチーノを」
「私はレンドールと一緒のガーリックピザにするわ」
「わかった、本当にそれでいいな?名簿に記載しなきゃならないからさ」
「それでいいよ」
他の皆も頷いた。リヴァスは名簿を出して、それぞれの名前の場所に何のメニューを食べたか記載する。
そして彼らに”試合飯”を提供した。
何とも美味しそうな香りが彼らの腹をぐ~と鳴らした。朝食代わりにうってつけである。
「はい!どうぞ!」
「うわ~、美味しそう!」
初めて試合飯を出された彼らは涎が出る思いである。これは確かに美味しいドーピング効果だ。腹もふくれて、影響も残って、持続してしまう。
彼らは2次予選前に腹ごしらえを済ませる。
それぞれ、嬉しそうにそれらを食べて景気づけをする。
試合開始は10時30分から。彼らは充分に食休みをはさんだら、リヴァスに挨拶してから闘技場へと向かった。
「さあ、2次予選突破を目指して今日も頑張るか」
「そうね!」
「何となく身体が丈夫になったような気がするわ」
「気合も入りますね」
リヴァスは大きく頷いて笑顔で彼らを送りだした。
「行って来い!闘技場へ。2次予選、突破しろよ!」
彼らはディープスカイから出て、2次予選の会場、第4コロシアムへと向かった。
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