旦那が死んじゃった(5)

朝方、病院から電話があった。脈拍と血圧が急に弱くなったらしい。「今すぐ病院へ来てください」

支度をしてEICUへ向かう。旦那と同じようにベッドに横たわった方が10人ぐらいいる。みんな高齢の方ばかり。旦那のベッドには「5」と番号がついていた。

V フォーヴェンデッタ

私が旦那と一緒に映画館で観た映画の中で1番心に残った映画だ。なんかの縁かも。

先月私は運良くBUMPのライブに行けた。

旦那は「からくりサーカス」の主題歌をBUMPが担当する事になったと伝えた時、一緒に大喜びして、池袋で開催された藤田和日郎展に家族3人で行ったり、｢aurora arc｣の「月虹」を何度もリピートして歌っていた。「重神機パンドーラ」も家族で毎週観た。そういう風にして、私の好きなものを同じように好きになってくれた。

もし、心臓が止まってしまっていたらどうしよう。

ベッドの右側に行って、娘と一緒に旦那のおでことほっぺと耳たぶをさわりながら、「月虹」を歌った。

看護師さんが来てくれて、

「1度脈拍と血圧が弱くなってきたので急いでお呼びしました。今は安定してきましたね。」

と言った。

「脳死状態でも、耳は聞こえているのかもしれません。沢山話してあげて下さいね。」

そこで私は旦那にこう嫌味を言った。

「君は今、私が長年通院してた病院の集中治療室にいるんだよ。救急車で運ばれて、手術したの。すごくすごく痛かったでしょ。つらかったね。血管に出来たコブがね、先生も見た事ないぐらい大きかったんだって。ごめんよ。私自分が乱視だから君が視界がぼやけるとか頭痛いって言ってたの、私と同じ乱視だとばっかり思って気づけなかったよ。本当ごめんね。

思えば結婚式の時さ、『誓いますか？』って神父さんに聞かれた時に君、ぼーっとして立ってたままだったから、私が肘でグイグイ押した事あったの覚えてる？あれ本当は誓う気無かったんでしょ？心のどこかで未来でこうなるのが分かってたのかな。」

慌てて誓いますって言った事を私はちょっと寂しかったから根に持っていたのかも知れない。

…ただ心臓の音がピッピッとなっている。人工呼吸器の音が規則正しい。

なんだよ。何か言ってよ。

「でもさ、君が私と結婚した事後悔してても、私はすごい幸せだからさ。忘れないで。」

また来るねと言って、入院の事務手続きの書類を出しに行った。