をんなをんな祭り
「あとでね」
こう言って女湯と男湯に、引き裂かれるように別れた。
温泉なんて楽しくないな。
どうして別々なんだろう。
そんな思いがした。
体を洗うのはなんのため…。
その思いで気持ちを取り直した。
浴衣はかわいかった。
これなら気に入ってくれるだろう。
「遅かったな」
言われた。
「ごめん」
そう言ったら無視されて…。
「浴衣かわいいな」
そう言って彼氏は目をそらした。
女という言葉をひらがなで
おんな
こう手で書いてみたことがあった。
鉛筆がまっさらな処女のようなノートを滑るように、鉛筆で濡れた。
でも「おんな」という文字には違和感があった。
開き直ったいやらしさがあるように思えた。
おんなを武器にする。
これはなんだか醜悪だ。
女を武器にする。
これは不幸に思えた。
じゃあ、わたしの女とはなんなんだろう。
手鏡を誰もいない教室で夕方、そっとだして自分を写した。
彼氏が
「かわいいね」
この間の日曜日、お祭りの時に言ってくれたのを思い出した。
わたしはそんなにかわいいのかな。
じっと自分の顔を見つめた。
どこがかわいいの
何度も何度も彼氏に聞いた。
何度も何度も答えてくれた。
どれも嬉しかったけど納得できなかった。
わたしはそんな女じゃない。
それでも訊き続けた。
答えが欲しかった。
そのたびに答えが返ってきた。
しだいに、幸せな気持ちが湧いてきて。
まるで遠くから花火を見ているようなそんな気がした。
華やかな花火の鋭い閃光。
遠くから見るお祭り。
自分には過ぎた褒め言葉。
錯覚でもいい。
そう思ってくれるなら。
彼氏の言葉にそう思った瞬間に脳天で花火が祭りのように谺した。
音のない花火。
おんなの祭りだった。
「天人五衰」
こんな言葉が浮かんだ。
着物をはだけてそれを舞のようにして舞う。
おんなおんな祭り。
安易な祭りは自己満足だ。
まつりは誰かを喜ばせるためにある。
そのときにこそ、天人は滅び、そこに男性のまつりが始まる。
女性の祭りは、楽しむことではなく楽しませることなんだな。
そんなことを、やわらかくなった男性のあそこを拭きながら思った。