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漱石と大江健三郎 (英語対訳)6      Soseki and OE Kenzaburo (English translation)6

6 漱石と大江健三郎 (3)


 また、『あいまいな日本の私』に次のように記しています。


 「明治以後の近代化において最大の作家は夏目漱石です。第二の柱として漱石について話したいと思います。漱石に多く知られた「それから」という小説があります。
 日露戦争後の一応の安定期に書かれた小説で、生活の心配のない若い知識人が友人の妻を愛することによって苦難の現実に踏み込む、という物語です。主人公の知識人の、社会に対する批評的な感想がこの小説のいくつかの場所で直接的に表明されています。友人からのなぜ働かないかの問いに・・・」
 
 一九六六年(昭和四一)年発表『作家は文学によってなにをもたらしうるか?』(『大江健三郎全作品4』新潮社刊)に、漱石に関する大江健三郎の病跡学的な見解が示されています。
 大江は、漱石が一九一四(大正三)年に書いた『日記及断片』を「孤独な激しく鬱屈する人間」の「全体的な自己表現の響きが、われわれの胸につたわって来ずにはいない文章」と評価し、その中の次のような文章に注目しています。「私が下女に何々して下さいと言うや否や安倍はいきなり同じ様に歯を鳴らし出しました。そうしてそれを何遍もやるから君は歯が痛いかと聞いた」、「私の方でも歯を鳴らした。すると安倍の方でも已めない、いつ迄も不愉快な音を出すから私はやむをえずその音はやめろと忠告した。安倍ははい已めますと答えた。しかしもう一返やっていやこれは失礼といってやめた。」
 

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