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2024年10月の記事一覧
藤沢周平『春秋山伏記』ダイジェスト(英語対訳)10 Fujisawa Shuhei's "Shunju Yamabushi-ki" A Digest (Japanese-English Translation) 10
10 おわりに
5篇はいずれも完結形式で展開しますが、作品の主要登場人物は変わりません。基本的な筋は最後まで縦横に張りめぐらされています。
精神的ショックから、立つこともできない娘を歩けるようにする「験試し」、亭主の出稼ぎ中に間男した妻を救う「狐の足あと」、家に火を放たれて村を追われた若者が復讐のため帰郷するが、山火事の中から村の娘を助ける「火の家」、狐憑(きつねつ)きの娘を最後には嫁にする
藤沢周平『春秋山伏記』ダイジェスト(英語対訳)9 Fujisawa Shuhei's "Shunju Yamabushi-ki" A Digest (Japanese-English Translation) 9
9 冒頭とクライマックス
「櫛引通野平村」は架空の村だが、その描写から推察すると、黒川能の里である、現在の櫛引町黒川の南部あたりか、赤川べりの集落である。工事中の東北横断自動車道酒田線が赤川をまたぎ、山すそを往時の「櫛引通り」に沿って西に伸びる。内陸と庄内を結ぶ国道112号月山道が、ゆっくりと庄内平野に入るところだ。
作品の中で「赤川」は重要な位置づけにある。大鷲坊と、夫が死んで嫁ぎ先を出さ
藤沢周平『春秋山伏記』ダイジェスト(英語対訳)8 Fujisawa Shuhei's "Shunju Yamabushi-ki" A Digest (Japanese-English Translation) 8
8 庄内弁
村人たちが遣う日常の言葉は物語にリアリティを与えている。土地の言葉は歴史(時空の集積)そのものだからだ。同書の解説によると、「庄内弁とは恐らく、京都の言葉が海岸沿いに北進してこの地方に定着し、東北訛(なま)りと融合したものであろう」とのこと。その一端を同書から抜書きしてみよう。物語の最初に、村人「おとし」が、山伏・大鷲坊となって帰ってきた「鷲蔵」と出会うときの会話。
「お前(め)
藤沢周平『春秋山伏記』ダイジェスト(英語対訳)7 Fujisawa Shuhei's "Shunju Yamabushi-ki" A Digest (Japanese-English Translation) 7
7「あとがき」から
藤沢周平は、作品のあとがきで、「この小説は、鶴岡の戸川安章氏のご指導がなければ、書けなかった小説である」と記している。戸川さんは羽黒修験道の研究者である。一部引用しよう。
「庄内平野に霰が降りしきるころ、山伏装束をつけ、高足駄を履いた山伏が、村の家々を一軒ずつ回ってきたことをおぼえている。(中略)
こういう子供のころの記憶と、病気をなおし、卦を立て、寺子屋を開き、つまり
藤沢周平『春秋山伏記』ダイジェスト(英語対訳)6 Fujisawa Shuhei's "Shunju Yamabushi-ki" A Digest (Japanese-English Translation) 6
6 『人攫(ひとさら)い』
祭りの集まりに顔を出したおとしの帰りが少し遅くなった。そして、帰ってみると娘のたみえがおとしを迎えに出ていなかった。しかし、あまりにも遅い。あわてておとしは方々を探してまわったがいなかった。
翌日、村の者たちが集まって相談をした。たみえはどうやら人攫いにあったらしい。そして、箕つくりの夫婦がいたのが判明した。この夫婦がどうやらたみえを攫ったらしい。
大鷲坊は別の村
藤沢周平『春秋山伏記』ダイジェスト(英語対訳)5 Fujisawa Shuhei's "Shunju Yamabushi-ki" A Digest (Japanese-English Translation) 5
5 『安蔵の嫁』
大鷲坊は太九郎の家の前まできた時に太九郎のばあさんに呼ばれた。息子・安蔵の嫁の世話をしてくれないかというのだ。それを引き受けると、ばあさんは喜んだ。そして話し始めたのは、友助の娘・おてつが狐憑きになっているというものだった。
早速、大鷲坊はおてつに会いに行ってみると、果たして狐が憑いているようだ。しかも、この狐は一筋縄ではいかないようで…
大鷲坊はこの日、厄介なことを二つも
藤沢周平『春秋山伏記』ダイジェスト(英語対訳)4 Fujisawa Shuhei's "Shunju Yamabushi-ki" A Digest (Japanese-English Translation) 4
4 『火の家』
「この村には、山は三方から迫っていた。うしろは月山の深い山懐だった。左手には赤川の上流をさかのぼった奥に、広大な山域がひろがっていた。そして川向うには、平地をはさんで母狩山、湯ノ沢岳、三方倉山、摩耶山とつづく山系があった。」
村はずれの水車小屋に若者が住み着いたらしい。この若者は源吉といって、もともとは村の人間だった。しかし、以前に村の人間からひどい仕打ちを受け、家を火に焼か
藤沢周平『春秋山伏記』ダイジェスト(英語対訳)3 Fujisawa Shuhei's "Shunju Yamabushi-ki" A Digest (Japanese-English Translation) 3
3 『狐の足あと』
村に住む広太は大半を村の外で働いていた。だから、家を守るのは、さきえという女房だった。村の若者でこの女房のところに夜這いをかける者はいなかった。というのも、広太が恐ろしかったからである。この日、藤助は広太の家から人が出てくるのを見てしまった。
下手に話すと噂はすぐに広まり、やがては広太の耳に届いてしまう。これが恐ろしくて、藤助は黙っていたが、とうとう我慢できずに話してしま
藤沢周平『春秋山伏記』ダイジェスト(英語対訳)2 Fujisawa Shuhei's "Shunju Yamabushi-ki" A Digest (Japanese-English Translation) 2
2 『験試(げんだめ)し』
娘のたみえが崖から落ちそうになるのを、おとしがたみをの腕を掴んでいた。近道をしようとしたばかりに、落ちてしまったのだ。もう駄目だと思ったところを救ってくれたのは山伏だった。この山伏は、昔は鷲蔵といったおとしも知っている人間だった。今は大鷲坊と名乗っている。
この大鷲坊は、村の正式な別当になるため書付けを持ってやって来たのだが、村には既に月心坊という山伏がいた。村のも
藤沢周平『春秋山伏記』ダイジェスト(英語対訳)1 Fujisawa Shuhei's "Shunju Yamabushi-ki" A Digest (Japanese-English Translation) 1
1 概要
藤沢周平『春秋山伏記』(1978年)の主人公の大鷲坊(たいしゅうぼう)は白装束に高足駄、髭面で好色そうな大男で、羽黒山からやって来た。はじめ彼は村びとから危険視され、うさん臭く思われていたが、子供の命を救ったり、娘の病気を直したりするうち、次第に畏怖と尊敬の眼差を集めるようになった……。年若い里山伏と村びとの織りなすユーモラスでエロティックな人間模様のうちに、藤沢周平の郷里山形県荘内