キリン、ファンケルTOB成立で健康市場へ本格参入
ビール大手キリンホールディングス(HD)が、健康食品分野に大きく舵を切りました。2024年9月12日、キリンHDが実施したファンケルへのTOB(株式公開買い付け)が成立し、同社を年内にも全額出資子会社化することが発表されました。この動きは、キリンが「ビールだけの時代」を終え、健康関連ビジネスでのさらなる成長を目指す大きな一歩となります。
健康食品市場での勝負
キリンHDは、今回のTOBを通じてファンケルの販路や研究開発力を取り込み、成長が期待される「ヘルスサイエンス事業」を強化する計画です。ビール市場が国内で縮小傾向にある中、キリンはビール以外の分野での成長を模索してきましたが、今回のファンケルの完全子会社化はその象徴的な出来事といえます。
国内のビール系飲料の販売数量は、1994年のピークから約4割も減少しており、ビール事業に依存することのリスクは高まっていました。キリンはこれに対応するため、健康食品分野での成長を図り、将来的にはこの分野で年間5000億円の売上を目指すとしています。この目標は、ファンケルの研究力や販路を活用し、健康志向の強い市場を積極的に取り込むことで実現可能と考えています。
ファンケル株の取得と今後の計画
キリンHDはTOBの期間を3度延長し、最終的にファンケルの議決権ベースで42.72%の株式を取得しました。これにより、もともとの出資分を含めてキリンのファンケルへの出資比率は75.24%となります。キリンは今後、11月下旬に臨時株主総会を開き、残りの少数株主の株を併合し、完全子会社化の手続きを進める計画です。これにより、ファンケルは年内にも上場廃止となる見込みです。
ファンケルの買収総額は約2300億円となり、キリンにとって大規模な投資です。ファンケルはすでに健康食品分野で強いブランド力を持っており、キリンはそのリソースを活かしてヘルスサイエンス事業を強化しようとしています。
競合他社との比較と挑戦
キリンのライバルであるアサヒグループホールディングス(GHD)やサントリーホールディングス(HD)も、国内のビール市場の縮小に対応するため、積極的にM&Aを行っています。アサヒは欧州や豪州のビールブランドを2兆円以上投じて買収し、グローバル展開を加速させました。一方、サントリーは米国の蒸留酒大手ビームを約1.6兆円で買収し、海外売上高が全体の5割を超えるグローバル企業に成長しています。
一方、キリンはビール事業からの脱却を目指し、健康・医療分野に焦点を当てています。協和発酵バイオやオーストラリアのブラックモアズの買収など、過去10年間で6000億円以上を健康関連事業に投資してきました。しかし、競合他社に対してはまだ収益性の点で遅れを取っており、ファンケルとの統合効果を早急に発揮することが求められています。
成功のカギは「差別化」
キリンHDがヘルスサイエンス事業で成功するためには、競合他社との明確な差別化が不可欠です。ファンケルのブランド力と研究開発力を活かし、健康食品市場でのリーダーシップを確立することが急務です。特に、仏ダノンやスイスのネスレといったグローバルな健康食品大手は、キリンよりもはるかに高い利益率を誇っており、これらの企業と競り合うには、ファンケルとのシナジーを早期に示す必要があります。
また、世界的な健康志向の高まりやアルコール消費に対する逆風が強まる中、キリンの健康食品分野での成功は、今後の成長の鍵を握ることになるでしょう。
まとめ
キリンHDがファンケルを完全子会社化することで、健康関連事業への本格的な参入が始まります。国内ビール市場の縮小が進む中、ビールに依存しない成長戦略を模索するキリンにとって、この動きは極めて重要です。しかし、競合他社がすでにグローバルでの展開を進めている中で、キリンがどのように差別化を図り、ヘルスサイエンス事業を成功させるかが注目されます。ファンケルの強みを活かし、新たな市場での勝負が始まろうとしています。