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ミルクパンでチャイを
心が疲れてしまった。周りの人の言動がチクチク感じられて、ふとした時に涙が出る。いつもなら、嫌なことがあっても、ほんの数歩先の楽しみを糧に頑張れるのだが、目の前の暗闇が数歩先の未来を覆ってしまって、にっちもさっちもいかなくなってしまうことがある。
その日もまさにそうだった。真っ先に思った。「実家に帰ろう。」
その日、思わず会社の昼休みに母に電話をしてしまった。母は言ってくれた。「いいよ〜帰ってきな」。固くなっていた私の心を温かくほぐしてくれた。
その日、会社が終わってすぐ実家に帰った。(私は平日は会社付近のアパートにて暮らしている。)
母が出迎えてくれたと同時にこう言った。「ね、ミルクパンでチャイ作ってあげるよ」。
母は電話口でかなり明るく接してくれていたが、やはり子供の悲しむ姿を見て、「元気にしてあげたい」と思ってくれたのだろう。何歳になっても嬉しい。何歳になっても母は私の母なのだ。
母が言うには「このミルクパンは命がけでてにいれたのよ」ということ。頭に大量の?が浮かんだので、詳しく話を聞いてみると、私が電話した時に、母は真っ先に「温かいチャイを飲ませてあげたい。」と思ったらしい。しかもミルクパンで丁寧に作った温かいチャイ。そのために母は家を飛び出し、急いで近所のホームセンターに行った。
無事ミルクパンをゲットし、帰りにスーパーで買い物をしたら荷物がいっぱいになってしまってなかなか苦労しながら歩いて帰路へ。
その途中、大きく転んでしまったらしい。恥ずかしさと痛さで、母は一人笑ってしまったのだそう。だから「命がけ」らしい。
私にそのエピソードを話すときにも、母はもうめちゃくちゃ笑っていた。そして私も笑った。心の底から笑うっていいなと思った。
エピソードを語りながら母が作ってくれた温かいチャイ。
弱火でことこと温めて、ミルクパンから私のお気に入りのマグカップにチャイを注いでくれる母。
そして飲んでみた。
ミルクたっぷりで、その中に独特のスパイスが感じられてとてもおいしい。チャイを飲んだのは初めてだったけれど、私は初めて飲んだチャイがこのチャイで良かったなと思った。
美味しい本場のチャイ、高貴な紅茶専門店のチャイ。
色んなチャイがあるけれど、母が私のために作ってくれた味。
温かな液体が喉を通ると、心のわだかまりもすーっと消えていく感覚がした。
ママ、命がけでミルクパンを買って、チャイを作ってくれてありがとう。
大人になったはずなのに、大人になってからのほうが、親に頼ってしまうことが多い気がする。
きっと、いつまでも母・父のこどもでいたいんだろうな。
そして、そんな自分を可愛らしいなとも思う。
出産は命がけというけれど、大人になっても「命がけ」で子どもを守ってくれる母。
たくさんの恩返しが出来ますように。長生きしてもらわなきゃ困るよ!
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きっと嬉しかったんだネ