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必要なものを的確に。医療現場をシステムで支え続ける|株式会社プリズム・メディカル様【会員インタビュー】
保険証やお薬手帳、予約の電子化。病院を利用する側から見てもIT化が進む医療業界。感染症の拡大などもあり、そのスピードはさらに加速しています。さらに政府は2030年度までに概ね全ての医療機関で標準化された電子カルテの導入を目指すとされており、医療のデジタル化を積極的に推進しています。
膨大な個人情報と医療現場のITを支える株式会社プリズム・メディカルで、取締役の熊谷さんにお話を伺いました。
挑戦を続けた先にあった「医療系IT企業」という形
ー主な事業内容をお聞かせください
株式会社プリズム・メディカルは、医療機関向けのソフトウェアを開発する医療系IT企業です。開発から導入のサポート、保守業務も行っています。整形外科、産婦人科、乳腺外科、足や腰の専門病院、スポーツ外科など、主にレントゲンを必要とする病院でのレントゲン写真の管理や電子カルテなどのシステムを開発しています。
ーどのような経緯で創業されたのですか?
会社の始まりは、札幌市内に「さっぽろバレー」と呼ばれるIT企業の集積地があったころ、代表取締役の工藤が一人でプログラミングをして一人で納品する形で始まりました。有限会社としての創業です。5年ほど経ったころ、私・熊谷が合流し一緒にやり始め、少しずつ成長していきました。
創業当初は、受託ソフトウェア開発といって、大きい会社さんからソフトウェアの開発の依頼を受けて納品するというスタイルでした。このやり方は納品してしまえば仕事は終わり、会社に製品が残らないことが気になっていました。
そんな中、リーマン・ショックが起こり、多くの会社が廃業していったんです。弊社も、ただ辞めなかったというだけで、事実上倒産に近い状況になり、社員も代表と私だけになっていました。
そうなった時に、やはり会社に製品が残るような会社作りをしようと考え、自社製品を作る方向に会社の方針を変えていきました。 リーマン・ショック後はすぐに採用を増やすことはできず、とにかく自分たちだけで何年も耐えたという感じです。
ー医療に特化するきっかけは?
たまたま代表はプログラマーで、医療系のIT企業で働いていた経験があることから、医療に特化した開発をするようになりました。この時期が会社の第二創業期と呼べると思います。
そこから、ありがたいことに、ひとりふたりと社員が増えていき、現在は19人の社員が働いています。代表と2人で頑張っていたころを思うと、とても大きくなったと思いながら働いています。
ーどんな製品を取り扱っている?
最初に作ったのがPACS(製品名「PrismPacs」)と呼ばれるレントゲン画像管理システムです。私たちが得意としているものが「画像」を扱うシステムで、かつてはフィルムで保管していたレントゲン写真を、すべてパソコン上で管理するものです。PACSは医療機器である為、厚生労働省から認証を受けています。
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ー医療現場のIT化で大変なことはありますか?
こういったシステムは導入時が一番大変です。規模の大きなシステムを導入するとなると、病院側は1年以上前から様々な準備が必要になります。私たちは、導入前の勉強会からサポートさせていただき、導入時には社員総出で病院に行きセットアップを行います。
今ではこのPACSシステムは、業界の中で見れば珍しいものではありませんし、大手企業で同じようなシステムを作っている会社もあります。私たちのシステムは最初に道内の大きな病院に導入していただいたことがきっかけで口コミが広がり、需要拡大につながりました。
また、OEMとして都内の企業に取り扱ってもらったところから、東京の病院にもご縁が増え、いまでは東京で300か所ほど、北海道内では60か所程と導入が進みました。
第二創業期と言える頃から、医療に特化したソフトウェア開発をすると決めていたわけではなく、たまたまそうなっていったという流れがあります。
「プリズム・メディカル」という会社名も取引先の方が考えてくださった名前なんです。
健康診断システムは画像確認とカスタマイズが強み
ーPACS以外の製品はどのようなものがありますか?
健康診断システムも取り扱っています。健康診断システムでは患者様の健康診断の結果を出力するだけではなく、PACSの画像をよびだすこともできます。
健康診断の後に、レントゲン写真を確認できるシステムは国内でも珍しいです。
健康診断システムで有名な大手企業さんは、機能がたくさん付いたフルパッケージという形で、価格も非常に高いものです。私たちの目から見ても、とてもよくできたシステムだと思っています。
私たちは、大手さんと同じではなく、病院側が取り入れやすい価格と、機能をカスタマイズできること、画像管理を合わせて、柔軟にお客様のニーズに対応できることが強みです。私たちは画像を扱うソフトウェアの開発が得意で、そこに独自のノウハウがあるんです。
健康診断は、地方自治体や健康保険組合によって取り扱う検査内容が違うものです。ただオーダーされて作るのではなく、「なぜ必要か」をしっかり相手に聞いて意味を理解し作りこんでいます。
また、首都圏ではiPad・iPhoneでの使用ニーズも多く、費用はかかりますが対応させていただいています。
ー医療にかかわることの難しさはありますか?
ただプログラミングを組めばいいのではなく、「患者さんがいる」ということを常に意識するように社員には伝えています。
最初から医療の知識があって、開発をする人はいません。会社に入ってから身につけていってくれています。特に個人情報の取り扱いについては、会社としてもプライバシーマークを取得し、薬機法や個人情報の取り扱いについて勉強会を実施しているほか、プログラミング技術の勉強会を毎週行い、社員の知識向上に努めています。
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医療現場でのソフトウェア導入は、現場の効率化が図れることは確かです。ただ、私たちからは現場を知ることがなかなか難しい業界でもあります。自分たちには使い方の想像がつかなくても現場からのリクエストで作ったものはすごく喜ばれるんです。
ー特に現場で好評の機能はありますか?
ライブショット(製品名「PrismLiveShot」)という機能がとても好評です。医療現場で看護師さんなどがスマートフォンで撮った写真を先ほどご紹介したPACSに送信し、管理できるというものです。実は日本では私たちが初めてこの機能を開発しました。寝たきりの方の看護中にその場で記録ができるので、使っていただける機会が多いようです。
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これは一人のプログラマーのアイデアと提案で完成しました。社内では、みんないろいろなアイデアをもって話し合ってくれています。
細かな機能についても、病院が欲しい機能をどんどん追加していることは大手企業にはできない私たちのシステムの特徴と言えます。
緻密な作業と感謝されることが仕事のやりがい
ー現場の声をどのように聞かれているのですか?
私たちはプログラマー・営業担当などと明確に業務を分けているわけではありません。自分が作ったソフトウェアを使っていただいている病院に、時間があれば出向いて担当の方と直接お話する機会がそれぞれの社員にあります。そういった場面で、「とても役に立っている」と言ってもらえたり、定期的なメンテナンス時に直接お声を頂けたりすることが、社員のやりがいに繋がっているようです。
ー社員にはどのような方が多いですか?
本当にプログラミングが好きな人がそろっていると思います。プログラミングは細かい作業の積み重ねです。結局は「プログラミングが好き」であることが、細部にまでこだわった仕事に繋がったり、自ら新しい情報を自然に取りにいけることに繋がったりして、妥協のない仕事ができる人が残ってくれているように思います。
共に働ける喜び
ー現在の会社の理念は?
大きな理想があって頑張って働いていた頃もありました。会社の業績がいい時も悪い時も経験して、今思うのは「みんなで働ける幸せ」「仕事がある幸せ」です。今はあえて理念を掲げず、社員みんなが無理なく働けることが幸せだな、と感じています。
社員が残業をせず有休をしっかりとれたりすることが、普通のようでとても幸せなのではないかと思っています。
ー働き方や業界内の変化を感じますか?
代表の工藤も、社員が増えた今もプログラミングや営業を担当しています。そういった意味では働き方に変化はないのかな、と思います。
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開発の面では、「健康診断の結果をスマホで見たい」「健康診断をスマホで予約できるようにしたい」という相談が多くなっています。
健康診断の結果は個人情報である為、安全のため郵送で送ることを推奨しています。ただ、病院側も患者様からのニーズに応えていきたいと考えているため、私たちも複雑なソフトウェアの開発に取り組み、丁寧に作りこんでいくことが必要だと考えています。
また、首都圏や道内でも大きい病院にはほとんど入っていると言えるシステムも、地方の小さな病院ではまだ導入されていないこともあります。導入すれば作業効率は格段に上がるのですが、なかなかITの知識・情報が届きづらいようです。
そこで、私たちはソフトウェアを販売するだけでなく、コンサルティングとして医療現場にITの情報を届ける動きもしています。ゼロからの電子化だけでなく、ソフトウェアのリプレイスに関しても、ITに詳しくなければわからないことがたくさんあります。新しければいい、安ければいいということではなく、お互いに気持ちよく使えるITの導入を推進していきたいと思っています。
ー医療現場のIT化はどんどん進んでいるように思いますが?
私たちがかかわっている医療現場は特にIT化の恩恵が大きい業界だと思います。病院内では業務の効率化と情報保存のため、かつ健康診断から診察に繋がるデータの蓄積も魅力の一つかと思います。患者様側は自分のデータを違う病院に簡単に持っていけるメリットもあります。
まったく違う視点からの意見ですが、長くIT業界にいても個人的にはすべてがIT化されることがよいとは思っていないんです。
医療現場ではIT化が進んだことで、電気がなければ何もできないというデメリットがあります。停電時の対応については必ず導入時に病院側に説明しています。
どの業界もITで便利になるメリットがあれば、必ずデメリットもあると思いながらやっています。
開発の中では、AIでプログラミング自体も簡単にできるようになっていたり、ちょっとした質問をAIで解決したりとITの恩恵を受けていることを感じています。社員からすると、IT企業らしく、新しいパソコンやデュアルディスプレイで作業することもこだわりのようで、会社としてもそこは出し惜しみせず、新しい機器を使用しています。
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次の世代へ「働く楽しさや意味」を伝えていきたい
ー力を入れている取り組みはありますか?
大学卒業後、明確な希望がなく就職していない人に向けた札幌市が実施している「ワークトライアル」で、若い世代がチャレンジできる場を提供しています。
最近は、何がやりたいのか、どんな会社に入りたいのかがわからない若者が多いのかもしれません。私自身も、若いころは真剣に取り組める仕事に巡り合えず悩んでいた時期がありました。仕事をしながらパソコン教室に通い「これからはIT企業がきっと伸びる」と思ったことから、今の会社に巡り合いました。
この会社に入ってからは出張パソコンサポートなどに積極的に出かけたり、直接お客様から感謝されることも増えて、仕事のやりがいも楽しさもありました。自分は「この会社に入ってよかった」と思っています。
今の若い世代にも、誰か一人でも自分を必要としてくれるという実感がもてたり、働くことを真剣に教えてくれる人がいれば何か違うのでは?と思い、ワークトライアルにも参加しています。
ー新たに取り組みたいことはありますか?
大きい病院のシステム導入にかかわると、システム導入と同時にパソコンの入れ替えをすることが多々あります。廃棄するパソコンが何十台もでてくるのです。そういったパソコンの中をきれいにして養護学校や小学校などに寄付することができればいいな、と考えています。
パソコンに触れる機会をどんな環境の子供たちにも提供したいということと、採用の場だけではなく子供たちにもIT企業のことを知ってほしいという思いからです。IT企業は「難しい」「何をしているかわからない」というイメージを少しでも変えていけたらいいなと思っています。
企業として大きな苦難を乗り越えて成長する株式会社プリズム・メディカル。取締役の熊谷さんが「苦しい時期が長かった」とおっしゃる反面、とても謙虚に会社のことを表現されている姿が印象的でした。社内には、社員が会話しながら作業する姿が見られ、真剣に仕事に取り組む姿勢と働く楽しさを両立されていることがうかがえました。
取材日2024年12月25日/北海道IT推進協会 広報委員会 ライター 吉川明子
[企業プロフィール]
株式会社プリズム・メディカル
医療現場のIT全般、とくに画像に関するシステムはお任せください。
・代表者/代表取締役 工藤 克美
・設立年月/1997年1月
・事業内容/医療ITシステムコンサルタント事業、自社製品の各種カスタマイズサービス、医療施設IT機器の保守・管理、医療システム構築・ソフトウェア開発、医療機器販売
・所在地/ 札幌市中央区北4条西16丁目1 テルウェル札幌第2ビル2階
・URL/https://prismed.jp/