逆境を乗り越え進み続けていく|株式会社VERDEC【会員インタビュー】
結婚、出産、引っ越し…
女性の働き方は、ライフステージによって大きく変化します。
特に、シングルマザーになり一人で子供たちを支える女性にとって、仕事と家庭の両立は大きな壁として立ちはだかります。
今回は、離婚を機に、我が子を守るためIT業界に飛び込み、会社の設立・親会社の倒産などの逆境を乗り越えてきた株式会社VERDEC代表取締役の野地千春さんにお話を伺いました。
シングルマザーが選んだのは子供を守るための独立。
ー主な事業内容をお聞かせください。
VERDECは主にSES事業と塗装業を行っています。
2016年9月にSES事業を中心に会社を立ち上げ、2019年4月に塗装部門を設立し、事業を拡大しました。
ーSES事業と塗装業は全く異なる業種ですが、始めるきっかけは何かあったのですか?
会社設立当時の私はシングルマザーでしたが、2018年に再婚をしました。
当時、主人は1人で塗装業を経営していたのですが、1人親方だと求人を出してもなかなか人が集まらないということがあったので、自社に塗装部を作りました。
異業種の事業をやっていると、皆さんに「面白いね」とよく言われますが、私からしたら現場を直行直帰するのは同じ。技術が違うだけです。
私が営業をしてお客様と直でお仕事をさせていただいています。
それに伴って、私も外壁アドバイザーの資格やアスベストの調査員の資格を取得しました。
SES事業も私はプログラマーではないので、前職の総務事務の経験を生かして会社の経営と、営業を担当しています。
ー会社設立当時はシングルマザーだったということですが、シングルマザーでの会社設立には相当な覚悟が必要だったのでは?
そうですね。
離婚を機に札幌に出てきたのですが、当時はかなり大変でした。
まず、就職先がありません。
身内がいないシングルマザーへの風当たりは強く、面接先では「生活保護を受けたら?」と言われたこともあります。
そんな中、職業訓練で医療事務の資格を取得でき、大学病院でなんとか就職することができました。
また就職の他に、5歳からやっていた書道を活かして個人事業主としてロゴ制作を始めました。そこから異業種交流会に参加するようになって、そこで知り合ったのが前職の社長です。
前職の会社はSES事業をやっていました。
社長の会社に転職をし、運転手から秘書業務まで会社のさまざまな業務を経験しながらノウハウを身につけていきました。
就職して半年も経たない頃に、子会社としての独立のお話をいただき、これがきっかけで今のVERDECを設立したのです。
当時のスタートメンバーは今でも4人ほど残っています。
そのうちの2人は当時部長と課長でしたが、今は取締役として支えてもらっています。
独立するだけで相当な覚悟を決めて融資を通したり、設備を整えたりと進めていたのですが、会社を独立して2ヶ月後に前社の親会社が破産してしまったのです…。
ー頼りにしていた親会社が破産⁉︎
その後、どのように乗り越えたのですか?
もうその当時は絶望的でした。
父親みたいに慕っていた前社の社長に裏切られたような気持ちと、子供4人のシングルマザーが借金を抱えて明日からどうするの⁉︎という不安ですごく泣いたのを覚えています。
今振り返ってみても、よく乗り切ったなと思います。
仲間や協力者がいてくれたおかげで、乗り切ることができたのが一番の理由です。
当時、前社でお世話になっていた取引先へ挨拶に行くと「あなたと契約していたわけではないから」とあっさり関係を切られてしまうこともありました。
そんな中でも私たちの会社を見捨てずに、変わらずお付き合いして頂いている会社様がいらっしゃいます。
中でもSOC 株式会社様や株式会社 流研様には大変お世話になり、
北海道IT推進協会に入るきっかけにもなりました。
正直、お話を頂いた時は「こんな社員も少ない小さな会社が入会してもいいのかな」と不安に思う気持ちもありました。しかし、IT業界では女性の社長が少ないこともあり、皆様に暖かく迎え入れていただきました。
周りの皆様に支えて頂いて今があるので、「ご縁」を大切にしています。
今は、母親業・社長業・アート書家、そして母の介護と、毎日、目まぐるしくも充実した日々を送っていますが、スタートは「どこにも就職ができない」というところから始まりました。
2つ、3つの仕事を掛け持ちして必死に生活していた時期もあります。
もしあの時、どこかの会社に採用されていたら、全く違う人生を歩んでいたかもしれませが、よく考えてみると今も一つの会社で2つも3つも仕事をしているので、複数の仕事を通して「自分の好きなこと」をさせて頂いていますね。
みんなで支え合って生きていく「雑草PRIDE」
ー野地さんが頑張り続けられる原動力とはなんですか?
原動力は「家族」と「仲間」です。
やっぱり子供達のために仕事をしているし、会社の仲間はもはや兄弟や家族のような関係で仕事をさせてもらっています。
2〜3ヶ月に1度、会社の親睦会を開いていますが参加率が非常に高いんです。
体調を崩さない限りみんな来ます。
そして誰も帰りません(笑)
終電すぎても居ようとするっていう…。
最近では、そんな会社は珍しいですよね。みんな仲がいいと思います。
ー株式会社VERDECを一言でいうとどんな会社ですか?
一言ではちょっと言えないですが、面白い人間の集まりだなと思っています。
HPの中でも「雑草PRIDE」という言葉を使っているのですが、雑草ってよく見ると色んな草の集まりです。
抱き合わせの様に色んな草が咲きますよね。
私達は異業種からの転職組が多く、IT業界では日が浅く知識が足りず悔しい思いをする事が多々あります。
ただ、異業種での経験はけして無駄ではなく、メンタルの強さは雑草の様に強く、支え合って(抱き合わせ)生きているのだと思います。
仲の良さは相手を思いやる気持ち、自分もそうだったなぁと寄り添う気持ち、日々、先進するこのIT業界についてくべく知識を皆でつけて踏まれても立ち上がる強さをもって行動してきました。
よく、「経営者は孤独」などと耳にすると思うのですが、私はその「孤独」を感じたことが今はありません。
なぜなら、相談できる仲間がいるから。
私1人で抱えるのではなく、仲間に共有し解決策を探しています。
「こんなことがあったけど、どうする?どうして行こうか?」
という話をみんなでしています。
特徴的な制度があると言うことではなく、社風として根付いているという感じですね。
「自分がそうしたら気持ちいい・心地いい。」
「私だったらこうだったら幸せ」
という私の考えを押し付けているところもあると思いますが、その考えに共感してくれた仲間が集まってくれた結果、大きくなってきた感じがします。
そんな仲間がいることを誇りに思っています。
仲間を守るための新しい取り組み。
ーIT業界の課題や、北海道で事業をしているからこその課題などはありますか?
IT業界に関わらず、建築業界もどの業界も直面している問題が、人材不足です。
「人手不足」とは「経験者不足」という意味です。
「新人は現場で使えない」これが現実です。
本当は人をもっと増やして行きたいが、入れる現場が少ない。
若い人材をどんどん現場に出して経験を積んでもらうしかないのですが、
・「自分でやった方が早い」 という考えから若手育成に消極的な技術者
・コミュニケーションが苦手な技術者
・精神的な問題を抱えてしまう技術者
など、指導者側にも課題を抱えているのが現状です。
なかなか新人が育たず、70代の高齢の方が最前線で働き続け、中間層が育たないというのがIT業界全体で解決しなくてはいけない課題と言えるでしょう。
北海道特有の課題は「北海道単価」です。
ご存知の方も多いかもしれませんが、北海道のIT関連の仕事は、首都圏に比べて単価が非常に安い傾向にあります。
「ニアショア」という言葉が浸透し、地方に仕事を出すメリットとして「低コスト」が強調されていることも、この状況に拍車をかけています。
その結果、優秀な人材はより高い給与を求めて首都圏へと流出してしまう。
そして、地方はますます人材不足に陥る。
まさに悪循環です。
ーその課題解決のために始めた新しい取り組みとは?
今年に入り、トータルソリューションを展開している株式会社オープンソース様のグループに加わることにしました。
コロナ禍の影響もあり、何人もの社員が会社を去り、このままじゃダメだと。
会社のみんなを守るために「どうしたらいいかな?」と考えていた時期がありました。
頭をよぎったのは、「仮に会社を潰してしまったとしても、社員たちが他の会社でやっていけるだけのスキルを身につけるにはどうすればいいのか」ということでした。
そう考えていた時に、ご縁があってオープンソースさんをご紹介いただいたのです。
実際に社長さんとお話をする中で
「それぞれの会社の強みを活かしたコンソーシアム(共通の目標のために企業や組織が作る共同体)を作りたい」という考えや思想に深く共感しました。
さらに、オープンソースさんが目指す未来に、私の理想とする会社像が重なったのです。
・若い世代を積極的に採用し、育成すること
・歳を重ねても、経験を活かして働き続けられる環境があること
・性別にかかわらず、誰もが平等に活躍できる環境があること
これらはまさに私がVERDECで実現したかったことでした。
今まで目の前の仕事ありきで採用をしていたのですが、
今は、頂いた現場に合う人がいたら採用して、仲間と一緒に現場に入り育成していく仕組みがあります。
本人次第で、技術が身につけばリモートワークも可能です。
また、北海道にいながらにして首都圏の仕事に関わることができ、収入アップも目指せます。
まだまだ、手探りな部分もありますが、オープンソースさんと共に新しい働き方、そして地方のIT業界の未来を切り拓いていけると確信しています。本当に心強いです。
ー株式会社VERDECのこれからの展望を聞かせてください。
私たちの会社は、SES事業を展開しており、社員はクライアント企業のオフィスで働くケースがほとんどです。
最近はリモートワークを導入する企業も増え、自宅で仕事をする社員も増えました。
しかしリモートワークは、時間や場所にとらわれずに働けるメリットがある一方で、
・労働時間が長くなってしまいがち
・運動不足になりがち
・孤独を感じる
など、心身の健康を損ねてしまうリスクもあります。
そこで今、実現したい目標は「自社開発室」の設立です。
週に1回でも2回でも良いので、
・みんなで顔を合わせてコミュニケーションをとれる場所
・リフレッシュしながら集中して仕事に取り組める場所
・社員同士が刺激し合い、新たなアイデアを生み出せる場所
を作りたいと考えています。
開発室に通勤することで、軽い運動にもなりますし、太陽の光を浴びることで体内時計もリセットされ、生活リズムを整えることにも繋がります。
もちろん、社員の帰属意識を高めたいという想いもあります。
「VERDECの一員である」という自覚と誇りを持って仕事に臨んでほしい、そして、会社が社員の心身の健康を支え、安心して長く働き続けられる環境を提供したいと考えています。
インタビュー中に印象的なエピソードがあります。
ある時、こんな相談を受けたそうです。
「プログラマーとして採用されたのですが、実は自分に合っていないことに気づきました。でも、VERDECは辞めたくありません。」
そこで野地さんは、その社員を塗装部へ異動させました。その後、その方は「異動して本当に良かった。VERDECに入って良かった。」と心から喜んでくれたそうです。
「仕事は、自分が働きやすいと思えることが一番。仕事の内容はなんでもいいと思っています。面白いと思えたり、興味を持てたりするものをやっていたいですよね。」
野地さんは、そう笑顔で話します。
かつて、ご自身が困難な状況にあった時、ご縁と仲間に支えられた経験が、今の野地さんの原動力となっています。仲間や家族を何があっても見捨てない。
その姿は、まさに「母の強さと優しさ」そのものだと感じました。
取材日2024年8月28日/北海道IT推進協会 広報委員会 ライター 中村友美