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介護業界の課題に立ち向かい作り上げた「KAIGOクラウドサービス」

この記事は、北海道のIT情報発見!発掘!マガジンmikketa!!に2021年4月7日に掲載されたものです。

今日は、札幌市北区に本社を置く「さくらCSホールディングス株式会社」にお伺いしてきました!さくらCSホールディングス株式会社は、札幌市を中心に介護サービス事業や、人材の派遣・教育事業等を行っている企業です。

今回、「全国中小企業クラウド実践大賞」において、同社のKAIGOクラウドサービスが総務大臣賞を受賞されたというニュースが飛び込んできました!KAIGOクラウドサービスとは?そして、なぜ介護サービス事業を主軸とする企業がクラウドサービスを自社開発したのでしょうか?社長の中元様、CTOの福原様のお話を伺ってきました!


ーさくらCSホールディングス様について、教えていただけますか?

今年で、20期を迎える企業でもともとは認知症高齢者様向けのグループホーム事業が発端の企業です。最初は札幌の西区と、東区と千歳に3ヶ所作ったんです。それが事業のスタートですね。その後に、サービス機能付き高齢者住宅を作り事業を拡充させて行きました。現在の事業所は合計で13カ所になります。

色々と、事業を進めていくと、働く人達の教育をどう進めていくんだという課題が出て来て、介護士養成学校を作ったんです。そうすると次に、「働く場所」の問題が出てきますよね。現在札幌市内には、弊社の介護士養成学校を卒業した方が2万人いらっしゃいます。卒業した生徒には、より良い就労環境で働いて欲しいという想いから、卒業生に向けて仕事を紹介する人材紹介事業をはじめました。

ご存知かとは思うのですが、介護業界というのは大体3年で8割の方が退職されこの業界を離れていくんです。定着率を上げていくためには、育成とそして職業紹介とという2軸が必要だと思ったんです。

それに加えて、近年はシステムを含めたものづくりと、保育所の運営も行っています。

ーありがとうございます。いろんな事業を行われていると思うのですが、それぞれの経緯を教えていただけますでしょうか?

全ての事業のきっかけは、現場での困りごとを解決するという想いからなんです。

先程申し上げた、学校を作ったはいいが、卒業した先に就職する現場とのミスマッチ等が理由で8割が辞めてしまうという状況や、その定着率を上げるために何をしなければ行けないのか。という点を考えた時に、3年の間に辞めれる人が多いのなら、資格取得後の3年を私達が預かって、まずはプロの介護人材として育てると言う発想から派遣や人材紹介会社を作ったんです。という風に、実は海外事業もこれから国内の働き手が足りなくなる。介護業界でいうと235万人不足するという推計が出ているんです。

それなら今から準備をして、海外でしっかりと人材を育てて国内に連れてこようとか、そんな発想で実はやってきたんです。今回、受賞をしたKAIGOソフトの始まりも、実は海外の方に日本で働いてもらうにあたって、介護業界で必要とされている「記録」に関して言語が大きな壁になる。というところから、作り始めたのがきっかけなんです。

そこから「システムをしっかり作ろう!」ということで始めたんですけど、実際にはじめていみると、いや違うな。と気づいたんです。より広い視点で現場の方を見てみると、本質的に大変なことは、毎日書き物に長い時間を取られていることだ。と実感したんです。じゃぁそれを解決しよう!と始めたのが2014年のことです。

令和元年に無償化の公開をし、昨年有償版のリリース。そして今に至るという形ですね。先週の時点で900事業所の方に利活用していただいています。

ー実際に「書き物」というのは、どういったものを書かれているのでしょうか?

大体1日1時間以上かかるといっている職員さんたちが多く、この書物があるがゆえに、長時間労働になっているとも言えるんですよね。記録が国に定められている義務で、保管期間が7年間と決められています。なので、多くの事業所では紙で保管をして積み上げている。そんな状態なんですよね。うちの事業所ももともとは大量の紙が保管されていたんです。

ただ、昨年から記録を電子記録にして良いという、国の新たな基準が示されたんですよね。

そのため、システム化をすすめる事業所も増えてきました。

ーなるほど。現在はどのような体制で開発されているのでしょうか?

福原:日本KAIGOソフト株式会社が、現在Care Viewerの開発を行っている企業なのですが、基本的には、全国にリモートで開発チームがいる状況です。

ーすごいですね。ちなみに福原さんはどういったご経歴なのでしょうか?

福原:札幌の出身で、大学卒業後に東京に行きSierを7〜8年やったんですよね。その後、WEBサービス会社に転職をして事業立ち上げ等を行っていました。弊社に入社をしたきっかけは、代表の中元からの声掛けですね。

中元:福原とは昔からの知人だったんです。それで、システム開発を始めるタイミングで、エンジニア獲得に非常に困ったんですよね。その際に、相談に行ったら「私が入ります!」と言ってくれて。そこからですね。

ー現在の開発の状況としてはどのような状況なのでしょうか?

福原:元年に無償公開をして、使って頂いてフィードバック全部吸い上げて、製品強化して有償化にするというタイミングで、もともとはアンドロイドアプリのみだったんですが、iosでも使えるようにしよう!というので、開発を進めました。現在は、基本的な機能は全部積み込み終わったところです。今まで紙でやっていたことが、だいたい網羅できてる形になります。

機能としては、もともと紙で書いていた記録はもちろん。介護認定の申請期限などのプッシュ通知なども設けていたりします。ものすごく大事なことなのですが、入居者さんが多いと他の業務もすごく多いのもあって、どうしても事務作業や細かいタスクって忘れがちになってしまうんですよね。なので、そういったタスク管理や、コミュニケーションもできるように、複数のチャットサービス運営企業と連携をしています。

ー開発のきっかけになった言語対応はいかがでしょうか?

福原:このような形で現在5ヶ国語に対応をしており、各個人が言語を選んで使用することが出来ます。現場の声としては、とにかく残業減った!という声が沢山上がってきていて、すごく嬉しい限りです。ちなみにですが、文字を書くのが苦手な方もいらっしゃるので、ある程度単語を選んで、記入を楽にする仕様にしていたり、音声入力ができたりと、徹底的に現場の記入作業や入力作業を楽にしたいという想いで作っていたりします。

ー今後はどのような機能開発をされていくのでしょうか?

中元:私達は、様々な介護系のシステム会社やサービスが世の中にある中で、「記録」に特化をして、事業を続けていこうと思っています。これからは、動体検知などを用いて起床時間の記録を自動化させるなど、より便利に簡単に記録ができるように機能の開発を進めていきたいと思っています。

さらに言うと、今後は入居者さまだけではなく「働いている人」も、どうやって動いているのかということも見える様になってきます。位置なども分かるので。そうなると、ベテランさんと、新人さんの時間の使い方の違いや、目線なんかも追えるようになると、どこを見ているのかなども、記録として取れるようになりますよね。

今は介護記録のデータベースですが、実はそれを触っている人たちのデータベースが出来ていたりもします。そうなると、データの蓄積や分析を進めて今後の働き方改革だとかの支援もできるようになるんじゃないのか、といった風に思っています。

また海外展開についてですが、私たちは先程申し上げたように「記録」に特化してるんですよね。そうなると、どの国であってもあまり違いというのは生まれずに、世界共通で使うことができるんですよね。なので、まずは日本国内の開拓をしっかりした上で、集めたデータを標準化させていくという流れで、海外への提供も進めていこうと思っています。

ーお話、ありがとうございました。

入澤編集後記
よく、「紙の作業を、タブレットに置き換えたことは、DXではない」という話を目にします。確かに、本質的に紙が紙じゃなくなったけど、やる作業は一緒であれば、何の生産性向上も生みません。
しかし、介護の現場において、気づいたのは、「紙じゃなきゃいけなかった」という、テクノロジーの進化を阻害する法規制があったこと。また、「国の定めで、チェックしないといけない項目がたくさんあること」などが、紙じゃなきゃダメだった由縁だっと思います。

しかし、現場の苦労から、そこに真っ向から立ち向かい、そしてシステム開発会社をグループ内に設立し、エンジニアを採用し、内製で実際に使えるものまで仕上げていったという事は、そう簡単に出来ることではありません。今回の企業クラウド実践大賞は、その中元社長の、あくなき執念がもたらした果実だと思います。

いろんな中小企業を取材して感じたことは、DXが成功している会社は、
1)トップの執念(絶対にこれをやるんだ!金をかけてもやるんだ!という執念)
2)専門の組織づくり(デジタル本部を創設したり、システム子会社を設立など)
3)内製化(ベンダーに頼らず、自分たちでコーディングをする。そして、現場ですぐ試す。)


の3拍子がそろってることだと思います。今回のさくらCSは、その3つがすべて揃ってました。

紙がタブレットに変わったことで、紙の保管スペースがいらなくなった、外国人でも「絵」で判断し、入力できるようになった、高齢の方でも、見やすくなったなどなど、いいことがたくさんあるようです。その、紙じゃなきゃいけなかったものを、紙じゃなくてもできるようにして、それを国に認めさせ、またそこで得たデータを厚労省に送ることで、加点対象にもなるという、追い風もあるようで、デジタル化により、「コストの削減」「収益の向上」を実現し、本当に素晴らしいと思いました。

「まだまだ、介護現場は問題だらけ」とお話ししていました。きっとこれからも新しいソリューションを作って、日本の介護を支えてくれると思います。今後のさくらCSホールディングスのご活躍に期待しています!

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