コープさっぽろがDXで目指すもの
札幌も日に日に暖かくなり、陽が長くなってきました!さて、今回は道民の台所といっても過言ではないでしょう。「コープさっぽろ」さんへ、取材に伺ってまいりました!
「コープさっぽろ」への北海道IT情報発見発掘メディアMikketa!!の取材。みなさんは、どんな内容になるとイメージされますか?私は、最初北海道全道へ配送する物流システムの強さについて、取材に行くのかと思っていたんです。でも、よく話を聞くと、コープさっぽろの中にDXを推進する部門が、今年の2月に立ち上がったというではないですか。
これは、気になりすぎる。すでに、沢山のシステムを有するユーザー企業が、DXに乗り出すきっかけと、現状、そして目指す姿をお伝えしていきたいと思います!
店長と経営、両方に立ったから見えた大きな課題
首都圏の方も「コープ」=生活協同組合はご存じの方も多いのではないでしょうか。生協は、協同組合の一つで、消費者一人ひとりがお金(出資金)を出し合い組合員となり、共同で運営・利用する組織です。(生活協同組合連合会 HPより)
そのなかで、生活協同組合コープさっぽろは、組合員数180万名を超える、とても大きな生協です。(北海道の世帯数 2,761,826世帯、2017年1月末)
とても順調に組合員数を伸ばし続けている、コープさっぽろがなぜ今、自社開発を進めることになったのでしょうか。執行役員 CDO(最高デジタル責任者)デジタル推進本部長(取材当時)の対馬さんにお話を伺いました。
入澤:まず、なぜそもそも、コープが今回DXに本腰入れることになったのでしょうか?
対馬さん:店長として勤務していた時の立ち位置と、経営者としての立ち位置で、それぞれ、気付くことがあったんです。役員会議で出された、ホストのオープン化予算が何十億もする予算だったのだけど、でも結局そんなんじゃ全然終わらず、実際はもっと大きく膨れあがったんですよね。でも、その費用が何に使われたのかどうしてここまで増えてしまったのか、役員会に参加をしていたメンバーは誰も分からなかったんです。我々は、商品を売るとか、小売り流通の話は分かるんです。プロなので。
でも、日々経営を管理したり売り上げをあげようと100万~200万、どうこうしなければ、と話をしているのにも関わらず、何十億もするシステムについては、知識や経験がないから、”そういうものだろう”と飲まざるを得なかったんです。「このままじゃダメだろう。」と思ったんですよね。
もう一つは、店長時代に思った事で、店のPLを見たときに、店長が”頑張れば良くできる範囲”と、”どうにもならない範囲”があったんです。どうにもならない範囲というのは、分かりやすく言うと、減価償却などの範囲で。なんでか知らないけど、どんどん勝手に増えていくんです。一生懸命売り上げを何パーセントあげようとも、人件費を下げようとも、本部からくる、この膨れ上がる費用は何なんだろうって。紐解いていくと、その中にシステム費用が大きくあって。それを見たときに、現場としてどんどんコントロールが出来ない費用が膨らむ中で、現場でどうモチベーションを保てば良いんだ。という気持ちが沸いてきたんです。
経営視点の大きい額と、現場でのモチベーションの話との二点が、課題を見つける上で、凄く大きいきっかけではありました。
さらにいうと、去年の夏にアプリを作ったんですよね。ただ、そのアプリが、5段階評価で、評価1.7という、本当に屈辱的なアプリを作ってしまって。機能はそこまで多い訳ではないのに、アプリ会社に委託して作ってもらった額が、例えば数千万円だったとして、、、基幹システムとアプリとをつなぐ改修にその4倍かかったんです。
フロントエンドの物を作るために、裏の基幹(システム)というサクラダファミリアの分析をし、調整をするのに、時間をかけていても、どうにもならないじゃないですか。新しく、組合員向けのサービスを追加しようとしても、丸が一個二個増えるだけで。これは、もう何をどうしようとしても無理だろう。って、思ったんですよね。
その後、理事長からシステムを見てくれ、CIOをやってくれと言われたんです。でも、僕からすると「そんな簡単なもんじゃないです。」っていう想いがあったんですよね。この大規模な組織や、大規模のサービスに合った物をちゃんとするためには、しっかりとした体制をつくらなきゃいけないって思ったんです。
それが、現在のデジタル推進本部が立ち上がる流れなんです。
まさかの転身。メルカリからコープさっぽろのCIOへ。
長谷川さん:ICCという、ベンチャーの社長やら、CIOや事業開発責任者が集まるイベントがあってそこに参加をしたんです。
自分自身キャリアが、小売で長いこともあって、小売業の方々と名刺交換をその場でもさせてもらっていたんですよね。そうしたら、なんか「コープさっぽろ」っていう人がおるなぁと思って、名刺交換をさせてもらったのがきっかけなんですよね。そこから、「一度、東京で話しませんか?」って、対馬さんから言われて、一時間ぐらいかな、ワーワー話をしたんだよね。そしたら「長谷川さん採用!」って、急にこの人(対馬さん)がいうもんだから、
「この人、僕のことよくしらないのにやばい人だなぁ」
って思ったよね(笑)一度、北海道へ。となって、色々事業の話をしたりしていて、現場を回っていた時に、リサイクル施設に行ったんですよね。段ボールとか、衣類とかの。リサイクル工場だからすぐクズとかで、汚れちゃうのに、凄くきれいにしていて。僕だったら一日の終わりに掃除するけど、ここの工場の人たちはずっと掃除しててさ。なんか、すごいな。ちゃんといい人たちが多い会社なんだな。って気がしたんだよね。
事業体っていう所でいうと、OMO※1って言葉があるんだけど、知ってますか?※1Online Merges with Offline
オムニチャネルとか、オンラインとかオフラインの融合という意味を指す言葉なんだけど、コープはダイヤモンドの原石だなって思ったんですよ。
どういう説明が正しいのかは、正直分かんないんだけど、今のスーパーというのは、ネットスーパーをどこもやっている。でも、小売で店舗をやっているものに、後からアドオンでデリバリーを付けたんだよね。
だから、デリバリー部分がコストになって赤字なんですよね。Amazonの流れがあって、「発注してすぐ来るのが正解だ。お客さんも求めてるはずだ」って、これもコストアップの原因なんですよね。当然ながら。
そこでコープに話を戻すと、コープすごいなー。って思ったのは、注文は、一週間前まで。住所を伝えたら●曜日の〇時に配達しますね。って勝手に決める。なんて乱暴なサービスなんだなんだ。って思いますよね。今は、少しずつ改善されてきてるけど。通販は置き配がダメな時代が長かったけど、コープは置き配が出来るんですよね。今のスーパーってそういう、(コープのような)やり方が無理なんですよ。
頭では分かってるんですよ。コープのようにしたほうが良いっていうことも理論上は分かってる。それでも、経営会議には通らないんですよね。
ー今までとは違うやり方になる。
ーそんな失礼なことできるわけないだろう。
ーお客さんからクレーム来たらどうなるんだ。
ってなる。
なんでコープのような業態が良いかというと、一週間前に発注されたその分だけ、用意して、配達すれば良いんだよね。その分、ロスがない。お客さんから急にほしい!って入るよりも、計画的に「欲しい」人の所に供給する。ってしたほうが良いに決まってるんですよ。ビジネスをやっていく人からすると。
(コープさっぽろは)物流基盤というか、お客さんとのパイプラインというところの基盤を、一番しっかり持っているんですよね。なおかつ、店舗もやりながら、旅行から保険から何から、まさに「ゆりかごから墓場まで」いろんな子会社、いろんな事業をやっているんです。世間一般の小売業者が目指している「オムニチャネルの生活総合業態」や「顧客中心業態」だと思うんです。小売の理想ですよね。
でも、もともとのスーパーマーケットだとこうはいかない。でもコープは上手くいってる。これを磨き上げれば、次世代の対消費者産業としてビジネスとしてもトップが取れる。まさにダイヤモンドだ。って思ったんですよね。
コープさっぽろが目指す、アーキテクチャ
入澤:今回、まずどういうところから、手掛けていく予定ですか?
長谷川さん:これはね、二つあると思っていて、一つは今ない領域を創っていきたい。例えば、CRM領域。今だと、新しく組合員になるには、紙かいて、ハンコ出して、押してしばらく待ってたらカードが届いて。っていう流れで、スマホで一気通貫!とは行かないんですよ。お客さんの利便性が高まるというところを自社開発でやっていきたいなというところがある。もう一つは、すでに開発していたり、動いてるシステムのリプレイスという事もあるのかも知れないですね。
でも、基本的には、新しい領域からやっていきたいですね。
まずは、データを見れるような参照系からやっていって、トランザクション系はその次のステップかな。なんて思っていたりします。
入澤:クラウドエンジニアというかAWSのエンジニアを募集しているのはどういう意図があるのでしょうか?
長谷川さん:こだわっているというか、自明なんですよね。GCPだったら、MSだったらダメという話ではなく、単純にAWSを触ったことのあるエンジニアの数が多いから。
ネット系で、バリバリのかっこいい感じでやるんだったらGCPも良いんだと思うんだけど、インフラトランザクション系で行くから、AWSがいいんじゃないかなという理由なんだよね。
対馬さん:ふと思うのがユーザー企業あるあるだと思うんだけど、コア事業じゃないノンコア事業がシステム部だとしたときに、事業側は、予算をすべて持ってる発注元みたいなイメージじゃないですか。事業側が、「これ作りたい!」「アレ作りたい」って言ってシステム側がベンダーと調整して作りますよね。事業が求めている物の100%を、システム部が作っていく。
でも、コープさっぽろみたいに事業側が多いと、全部が部分最適になるんですよね。
店舗にとっての最適、宅配にとっての最適があって、本来はシステムって共通であるべきであるのに。
その辺は誰も見ていないんですよね。
経営作戦でまとめて、見れたり、マップを書く力がないんです。
対馬さん:おれは正直、クラウドに詳しいわけではないんです。でも、その中でいいな。って思ったのは、突き詰めると従量課金に持っていけるじゃない。クラウドは。既存のシステムとか、WEBアプリだと、何かを新しくしようとしたときに、ユーザーに迷惑がかかっちゃいけないから今ある100の仕様のものを、そのまま100にしようとするんですよね。だから、システムがすごい太っちゃってるんですよね。トランザクションもそうだし「これ、何のサービスやってるんだっけ?」ってなる。
今、システムの断捨離をして整理整頓をするという流れになってる中で、使われていない機能が80あるかもしれなくて、そこを見直すと、容量を20まで減らせるわけじゃないですか。そういうことが、ラックを持つんじゃなくて、クラウド対応にすると可能にもなりますよね。バックオフィス系はSaaSシフトって掲げていて、例えば、人事系はSmartHRで組み固めていことしているんですよね。良いSaaSがあるところは、SaaSで入れていこうとしているんです。
半農半ITエンジニアがジョインし、目指す自社開発の体制。
入澤:田名辺さんが、ジョインされることになったのはどんなきっかけがあったのでしょうか?
田名辺:ちょうどお声がけいただいたとき、「みずほ銀行システム統合、苦闘の19年史」という本を読んでいたんです。IT業界のサクラダファミリアをどれだけ苦労して作り上げたか、という話ですが、それと同じ話が来たな、と(笑)でも、そもそも自分はスタートアップばかりやっているから、エンタープライズの領域は真逆だし、通ってきた道も違うし、なんで僕のところに来たのかな。って最初、正直思ったんですよね。
でも、長谷川さんが出てきた事に本当にビックリして「これは、コープさん本気だな」って。
そのあと、長谷川さんと、対馬さんと、コープの今のインフラを担当している方と、当別の事務所に来ていただいたんですよ。対馬さんとは面識がなかったんですけど、醸し出すこの空気感で「やるぞ!」っていうのが凄く、やっぱり本気なんだなって思ったんですよね。
入澤:それですぐ決断されたんですか?
田名辺:業界のことも知らないし、通ってきた道も違うし、何が出来るかな。ってことを考えまして。今、農業ITの仕事が8割なんですけど、農業の最終的な出口の一つに販売がありますよね。コープさんは、北海道のインフラとして販売を行われていて、そこに噛めるということは、個人的に知見も広がりますし、良いことだなって思ったんです。
それからもう一つ、エンタープライズが自社開発チームをもつ意味を考えたんです。自分自身、スタートアップばかりやってきているから、その考え方から行くと、内発的なエンジニアの動きとか空気感がとても大事で、それをチーム作りの最初の段階でやることがとても重要なことだよな、と思ったんですよね。
自社で自分たちでシステムを作っていくということは、エンジニアも現場にしっかり入っていって、現場が何をしているのか等、ちゃんとわかったうえでシステムを作っていくということが大事だし、なんていうか、今後生き残っていけるエンジニアって、そういう人たちだよな、と思っているんです。だから、北海道という場所、コープさっぽろという巨大なインフラの中で、そういうエンジニアを育てられるなら良いな、と。
対馬さん:北海道のエンジニアを育てるために、今、田名辺さんの力を借りて0→1で、チームビルディングを最優先にしてやってる。新年度(2020年4月)からこのデジタル推進本部ができたばかりだけど、兼業・副業OKにしたし、この間、総合職員という職種に「エンジニア職」というのを作って、そこだけ年間休日増やしたの。小売りって土日祝日が無いので、週休2日しかないんですよね。
それじゃエンジニアが取れないって長谷川さんが言うから、年間休日を増やして、制度も変えて急ピッチでやってるんですよね。Wantedlyの求人要項もそうで、長谷川さんが大自然で働いてるあの姿って、北海道で働く象徴だと思っているんですよね。
北海道ってブランド力はあるのに、「仕事がないでしょ」とか「北海道って」ってよく言われる。でも、どこぞがやる移住対策よりなによりもここ(コープさっぽろ)が、こういう事(採用をするために、基準を首都圏に合わせる事等)をやったら、Uターンも来るし、優秀なエンジニアも子育てを考えたら北海道で育てたいとか、あるでしょ。
やりがいのある仕事もあって、お金もちゃんと稼げるなら、北海道が、より良い土地になるじゃない。田名辺さんの事務所にお伺いしたときに、ちょうど研修系の仕事を今やっているという話をしていて、これ完璧じゃんって思ったんですよね。
長谷川さんがたとえ、どんなに良い人たちを連れてきたとしても、人をそだてるという流れがなくって。困ったなって思ったときに。田名辺さんから、農業話と、研修の話を聞いてコープさっぽろにぴったりじゃんって思ったんですよね。出口もつくっていけるし、人をそだてるベースでも作っていけるしドンピシャだったし。
田名辺さん:エンジニアのスクールを立ち上げたんですよ。オンラインでも出来るし。リアルでも出来るスクールなんですが北海道で、エンジニアをそだてていきたいと思ってるんですよね。
入澤:なるほど。今回、コープさっぽろさんでは何名ぐらい採用されるのでしょうか?
長谷川さん:今、外部ベンダーも含めて100人いるんです。正社員は10人。3割は自社従業員にしたいですよね。なので、当面の採用は30人~40人ぐらいでしょうか。
入澤:求めるエンジニア像みたいなものはありますか?
田名辺さん:コープさっぽろというブランドから行けば、大企業の就職とか、安定とか色々あると思うんですよね。でも、入ってからがスタートだし、コープさっぽろに就職することがゴールだとはき違えてほしくないですよね。後は、ソフトウェアを作るというだけのことに喜びを感じている人は合わないですね。現場に行って、見るなり話しを聞くなり自分でもやってみるなりをむしろやってみたいです!という人ですね。技術的なこととかあるにはあるんですけど、最終的にはそこですよね。技術なんか年々すごい勢いで進化していきますから、今凄いエンジニアだとしても、数年後どうなってるかわかんないわけですから。それよりも、現場のことわかって、お客さんのこともどれぐらい見通せるかっていう方に来てほしいですね。
長谷川さん:事業会社のエンジニアの特権なんですよね。自分たちが事業を持っているから。ベンダーだと仕様が、どこからとも分からない上から降ってきて、言うとおりに作ってやって、いやになっちゃったっていうエンジニアが多いけど。ここの部分をよくしよう!とか、組合員さん向けにやったら絶対よくなるよね!みたいな、本当に解決したいところ、俺たちはいったい何を解決するのかというところ。それを「よしこれだ!これをテクノロジーで解決する!」っていうのがエンジニアだと思うんですよね。ベンダーだと提案したところで変な話、客先に弾かれて採用されない事が多い訳で。でも、コープさっぽろの場合だと、「それやべーな!それでいこう!」って言って話が進んで、社内がまとまるんで、大丈夫。
入澤:働く場所はどこになるのですか?
対馬さん:一応発寒ですが。でもそれは自由にしようと思って。コロナのこともあるけど、テレワークにしようと思っていて、どこでも働けるような感じにしたいと思っているんですよね。後はステップ論というか、最初信頼関係築くまでは、出社だったり、同じ場所にいるということが必要になってくる事もあると思う。でも、それは100:0ではない。リモートが100%いいわけでもないし、会社に100%いることが良いわけではない。そこはその人のキャリア、あるいはキャラ、そしてチームにどれだけなじむかどうかだと思っているんです。
コープという、凄くレガシーな組織体も、現在の社会の在り方やお客さん=組合員の求めている物を常に追求し、変化をし続けています。
今回、コープさっぽろの組織の変化はITシステムの内製化をすることでより「組合員」にとって、良い組織体を目指す第一歩になるんだと思います。
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