税理士試験 VS 不動産鑑定士試験
はじめに
税理士試験及び不動産鑑定士試験の受験生のみなさん、こんにちは。税理士不動産鑑定士の井上幹康です。
今回のnoteでは、税理士試験と不動産鑑定士試験について試験制度をはじめいくつかの視点で比較をしてみようと思います。
記事の目的としては、以下①②③の方々にとって有用な情報を提供することを目指しています。
①税理士試験と不動産鑑定士試験のどちらかを受けようと検討中の方
②税理士試験合格者で不動産鑑定士試験も受けようと検討中の方
③不動産鑑定士試験合格者で税理士試験も受けようと検討中の方
比較の前提
税理士試験と不動産鑑定士試験はともにいくつかの免除制度があります。例えば、税理士試験の場合、税法大学院に行くことで税法2科目が免除になります。不動産鑑定士試験では、公認会計士の方は論文試験の会計学が免除になります。
私自身はどちらも免除無しで仕事をしながら合格しています。ですので、私の実体験ベースで書く都合、この記事では免除は使わない前提での両試験の比較となります。
それでは以下で具体的に比較していきます。
受験資格の有無
まず、不動産鑑定士試験は受験資格はありません。
一方で、税理士試験は日商簿記検定1級など一定の受験資格を満たす必要があります。税理士試験の受験資格は複数ある中の1つ満たせばよいのですが、私のようにガチの理系大学出身で法律系の授業を大学で一切受けていない場合は、日商簿記検定1級や全経簿記上級といった検定試験に合格する必要があります。
ちなみに、日商簿記検定1級や全経簿記上級は決して楽な検定試験ではありません。私も合格には約7か月要しました。
ですので、税理士試験を検討中の方はまずは受験資格を自分が持っているか確認する必要があります。詳細はこちら国税庁HPリンクで確認してください。
試験制度の違い
試験制度も全然違います。
税理士試験は、科目合格制という試験制度を採用しており、全部で5科目に合格する必要があるのですが、5科目一度に合格する必要はありません。
1年1科目から受験が可能であり、一度合格した科目は一生有効であり、有効期限はありません。これが最大の特徴ですかね。
なお、5科目のうち2科目は簿記論、財務諸表論の必須科目とされており、1科目は法人税か所得税をの選択必須科目のうちどちらかを合格しなければならないという決まりもあります。合格ラインは6割とされていますが、だいたい上位10%が受かる相対試験です。
ちなみに、私は、簿記論、財務諸表論、法人税法、消費税法、事業税の5科目を働きながら4回の受験(4年)で合格しました。
不動産鑑定士試験は、短答式試験と論文式試験からなる2段階方式を採用しています。公認会計士試験なんかも同じ2段階方式ですね。
そして、短答式試験の合格は2年の有効期限があります。ですので、短答式試験合格者は短答式試験に合格した年の論文式試験を含めると合計3回論文式試験を受けるチャンスがあり、この3回で論文式試験に合格しないと短答式試験からやり直しとなります。短答式試験は、約2000人が申込み、合格者は約500人台です。
実体験でいうと、論文式試験の勉強負担は短答式試験とは比べ物にならないくらい大きいです。短答式試験に受かっても論文式試験を受験する前に撤退してしまう方も多いと聞きます。
その論文式試験は、民法(100点満点)、経済学(100点満点)、会計学(100点満点)、鑑定理論(200点満点)、演習(100点満点)の合計得点で争われます。合格ラインは6割とされていますが、だいたい上位15%が受かる相対試験です。なお、各科目には一定の足切りラインがあるとされています。
ちなみに、私は、短答試験は独学で約6か月の勉強期間で合格しました。論文試験は、TAC通信講座を受講し、短答試験の翌年の論文試験で合格しました。
以上、簡単に試験制度をご紹介しました。
一見すると科目合格制の税理士試験の方が仕事をしながら受験する社会人受験生にとって魅力的に見えますが、それがそうでもありません。
科目合格制の税理士試験は1年1科目の受験が可能であり、1科目に1年たっぷり使えるので1科目をかなり深堀りして勉強する必要があります。なので、どの科目も成績上位の受験生のレベルが相当高いんです。
不動産鑑定士試験の場合はある科目で大きなミスをしても他の科目でカバーするということも可能ですが、税理士試験は1科目の得点で争われるため他の科目でカバーすることもできません。すなわち、ケアレスミスや凡ミスが致命傷になりやすいのが税理士試験なんです。
ですので、税理士試験の科目合格制=社会人受験生にとっていい制度とは思わないようにした方がいいでしょう。
努力が報われやすいのは?
これはあくまでも私見になりますが、努力がシンプルに報われやすいのは不動産鑑定士試験の方だと思います。
不動産鑑定士試験自体、直近で不動産鑑定士の人数を増やすべく試験制度の見直しを行っており、実務をやっていないと解けないような問題を減らすこととされ、より基本的な問題の出題が多くなっています(とはいえ、演習などでは物理的に時間内に終わらない分量の問題がでることもあります)。
もちろん、税理士試験も基本的な問題は出ますが、時には実務をやっていないとわからない問題が出たり、時間内に到底解き終わらない分量の問題が出たりすることはざらにあります。
ただし、いくら不動産鑑定士試験の方が税理士試験よりも努力が報われやすいとはいっても、正しい努力をして、努力を実力に転化できていないといけません。もう少し簡単にいうと、何も考えずただ漠然と機械的に暗記しても合格はできないということです。
おわりに
税理士試験合格者の方で不動産鑑定士試験をこれから受ける方は、税理士試験のように各科目で完璧を目指しすぎない方がいいかなと思います。不動産鑑定士の論文式試験は限られた勉強期間で複数科目を合格ラインに持っていく必要があるし、上記で書いたとおり、ある科目で大きなミスをしても他の科目でカバーするということも可能です。全科目で完璧は無理ですし、完璧を目指すとパンクします。
不動産鑑定士試験合格者の方で税理士試験をこれから受ける方は、各科目かなり深いところまで勉強する必要がある点に注意ください。不動産鑑定士試験のように、他の科目でカバーすることができないので、どの科目も苦手論点を極力つぶしておく必要があります。なので働きながらだと1年2科目の勉強がギリ上限だと思います。
追記
両試験についての比較は以上の通りですが、ここでは試験合格後の資格登録要件について少し触れたいと思います。
税理士登録には、税理士試験合格+実務期間2年の要件を満たす必要があります。ただし、この実務期間2年というのは税理士試験合格前の税理士事務所での勤務期間でもよく、試験合格後2年でなければならないというわけではありません。また、実務期間2年の幅も広く、実際私は税理士法人勤務期間1年と上場企業経理部期間2.5年で要件を満たしました。必ずしも税理士事務所でなくても年数にカウントされる場合もあるということです。
一方、不動産鑑定士登録には、不動産鑑定士試験合格+修了考査合格の要件を満たす必要があります。この修了考査を受けるには、不動産鑑定士試験合格後に日本不動産鑑定士協会連合会の行う実務修習を履修する必要があります。実務修習は1年コースと2年コースがあり、修習生が選択できるようになっていますが、修習機関は自分で探す必要があります。鑑定会社勤務の方の場合、その会社が修習機関になっているので自分が勤務する会社で修習をするというのが一番多いです。鑑定会社以外に勤務している方の場合、実務修習のみ面倒を見てくれる修習機関を探す必要がありますが、現状、明海大学、大島鑑定、アイ鑑定などしかなく、数に限りがある状況です。そして、実務修習には100万円以上の費用がかかります。鑑定会社勤務の場合、鑑定会社が負担してくれる場合が多いようですが、鑑定会社以外に勤務の場合、自腹になります。実務修習を履修して最後に受験する修了考査ですが、これは筆記試験と面接試験の2つが行われます。近年の傾向でいうと筆記試験(特にマーク試験のうち行政法規、建築基準法関係)の難易度が高く、ここで足切りにあってしまう方が多い印象です。令和4年に行われた第15回修了考査合格率も59.8%と決して高い水準ではなく、勉強していないと普通に落ちる試験になっています。
以上、簡単に資格登録要件について紹介しました。
税理士の場合、特に税理士会や国税庁が決めた実務修習のようなものはなく、税理士事務所の勤務年数や経理実務の年数でよく、試験合格前の年数でもよいので税理士試験合格後すぐに税理士登録できる方もいます。
一方で、不動産鑑定士の場合、試験合格後に実務修習と修了考査をパスする必要がありますので、登録には試験合格後最低でも1年~2年がかかります。
私自身、試験合格までの年数で比較すると税理士試験の方が長い期間を費やしていますが、資格登録までの年数で比較すると、税理士は試験後すぐに登録できた一方で、不動産鑑定士の実務修習や修了考査があった分、結局同じくらいの年数がかかっています。