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孤立する都市、つながる街 ①つながり暮らし研究会について

書籍「孤立する都市、つながる街」が、日本経済新聞出版社から発売されました。編著者として、出版に向けての動きを進めてきました。

この書籍は、全労済協会に設置された通称「つながり暮らし研究会」の成果をまとめたものです。研究会の書籍って、寄せ集めた文章をそのまま一冊にまとめただけで正直、何を言いたいのか分からない、硬い文章が並ぶだけで面白くないこともありますよね。

この本はそうならないように、まず研究会のコンセプト、人選をじっくり考えました。当初、「地域コミュニティについての研究会」と作ってほしいと相談されたのですが、単に自治会に入ろう、地域の活動に参加しようというメッセージを出すだけにはしたくありませんでした。都市に暮らす個人個人がその事情や考え方に応じて、つながり合える関係性を都市に散りばめる。そんな姿を構想したいと思いました。

そのためには、多様な都市住民の生活課題をつまびらかにすること、その上で、どんなつながりが求められるのかを過去の常識にこだわらず考えてみること、それを創り出すにはどんなプロセスや仕組みが必要なのかを考えること。それが必要だと思いました。

そこで、この研究会の陣容は以下となりました(五十音順)。
江口 晋太朗 氏(株式会社トーキョーベータ代表取締役)
小黒 一正 氏(法政大学経済学部教授)
勝部 麗子 氏(豊中市社会福祉協議会福祉推進室長)
工藤 啓 氏(認定NPO法人育て上げネット理事長)
柴田 建 氏(大分大学理工学部創生工学科准教授)
西村 勇哉 氏(NPO法人ミラツク代表理事)
堀田 聰子 氏(慶應義塾大学大学院健康マネジメント研究科教授)
三輪 律江 氏(横浜市立大学学術院(国際総合科学群)准教授)        保井 美樹(法政大学現代福祉学部 教授)

全労済協会のHP → https://www.zenrosaikyokai.or.jp/thinktank/research/each_research/worker07/

実は、この研究会は、私自身の仕事のベクトル、もっと言えば人生を変えるんじゃないかという位、考えさせられた貴重な機会になりました。

私は都市計画を専門としていますが、もともと土地利用や開発の技術には深い関心がなく、その考え方の基礎となるまちづくりの考え方を決めるプロセス、それを決める体制、その上での事業の仕組みに関心を寄せています。つまり、誰が何のためにその空間をつくるのか、それを誰がどのように決めるのか、お金はどう調達して、どんな効果を目指すのか。単純に言えば、そんなことに関心があります。

でも、こういう仕組みは、都市の多様性のレベルが上がった時、どこまで機能するか。それを突きつけられたのが、この研究会でした。

都市は多様性が大事と簡単に言うけど、多様って何?その多様性をちゃんと私たちは知ってるの?受け止めてるの?

研究会を進める中でも、子どもたちに車が突っ込んだ不幸な事故が起きたり、老老介護の夫婦が無理心中したり、想像するのも辛い児童虐待の事件が起きたり、社会では様々な出来事が起きていました。そんな出来事を、まるで無視するように新しい街が作られ、マンションが増え、都市の未来が語られていくこのギャップ。

もちろんこれからも経済が持続可能で、願わくば成長が続く都市であることは大事です。そういう都市固有の価値と人々の多様な暮らしはいかに両立するのか。

これは、多様な立場、分野の人たちが緩やかに関わりあう機会の不足ではないかと思うようになりました。特に、福祉と建設・不動産の分野は、実は都市空間の最適利用という意味で深い連携が必要であるにも関わらず、行政でも民間でもほとんど有機的な関わりがありません。企業も社会福祉法人も、街への貢献が求められ、その空間を都市に提供しているにも関わらず、バラバラ。自治体の中でも福祉部局と都市部局がともにまちの未来を語り合うことはほとんどないと思います。国の政策も似たようなことを言っているのに連携が見られないのです。

こうした分野を超えた対話、そこから始まる取り組み、それを支援する仕組み(政策、財政的支援など)こそ、これから必要ではないかと思います。書籍では、この辺りは柴田先生、西村さん、江口さん、小黒先生のご寄稿と終章で読むことができます。

その前に、まずは多様な都市住民の暮らしの姿を知る。それは工藤さん、勝部さん、三輪先生の寄稿で分かることです。

この研究会での経験を経て、私は、引き続き、何もしなければ出会わない人たちの出会い、それを経た価値観の揺らぎ、揺らぎを経た都市の姿を見出したいと活動を続けています。その辺りは次回以降に。

書籍は以下よりご覧ください。




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