ボルチモアに行ってきた
去年から理事を拝命したIDA International Downtown Association. 今年の年次シンポジウム&トレードショーは、メリーランド州ボルチモアで開催された。この街に恩師の大西隆先生と水際の再生調査に行ったのが2000年だったから、実に19年ぶりの訪問。当時、時代の最先端だった発電所のリノベーションはすっかり水辺の中心施設として鎮座し、ハードロックカフェやBarnes&noblesなどの有名店がメインテナントということもあってか、既に老舗感さえ醸し出している。そして、当時はこのリノベーションだけだったインナーハーバーは、今も開発ラッシュ。店舗というより、オフィスや住宅の開発が多く、少しずつ都市の重心が動いている印象がある。
内陸側に行けば、これぞ街中スタジアムといっていいオリオールズの拠点(これは素晴らしい!)、ボルチモアから世界企業に成長したアンダーアーマー本社などスポーツ、そして、豊かなシーフードを中心としたローカルフードなど、地域資源は豊か。
かつての90万都市が今は60万となり、財政は厳しいが、再生への意欲は官民ともに旺盛だ。
他方、貧困と犯罪の問題は根深いようで、銃犯罪も絶たないのがこの都市。少し前も、トランプ大統領が、「ネズミがはびこる、吐き気がするような場所」、「非常に危険で不潔な場所」と酷評したことでも知られる。
確かにインナーハーバーはいいものの、街中にはホームレス、あまり見なくなった車の窓磨きをする人がかなりいる。少し歩く場所を間違えると、なんだか不安な雰囲気がある。
タクシーの運転手から、貧困の連鎖が断ち切れない厳しい現状について話を聞くことができた。
ナイジェリアで生まれた彼は、一足先にアメリカに渡っていた母親を頼ってボルチモアに移住。生活に余裕はなく、今は、昼夜仕事を掛け持ちしながら、親と子供たち3人を養う精一杯の生活。そんななかでも、社会や政治への関心は高く、香港のことなど国際情勢もよく知っている。そして、いつか日本やシンガポールに行ってみたいと、まだ若くて純粋そうな目で語る。
学びたい意欲が高い20代の彼の未来は開けるのだろうか。頑張ってもなかなか大学に行けない話を聞くと、アメリカンドリームが誰にもあるわけでもないことを感じる。
ここには財団や非営利団体が多すぎる、と彼は言う。その活動を批判するわけではないが、そんなことより、社会の仕組みを根本的に見直してほしい、それが彼の本音なのだろう。壊れた家族が多すぎるとも言っていた。学校も問題が多くて、学ぶ環境とは言えないとも。
今や、国からの支援は一定期間で打ち切られる。そのあとは働き詰めで、非営利団体からある程度の支援を受けながら、何とか生き延びる毎日。
難しい都市であることは間違いない。先進国でありながら、経済が成長しているなかでも、格差は残る。日本も当座ここまでの危機にはならないとしても、一人親家庭、不安定雇用、高齢者の貧困などが見えているなか、格差問題は人ごとではない。
まずは、都市に安心、安全に住める住居、学びたいときに学ぶことができる環境を確保したい。とりわけ子供たちには、きめ細かく、失敗しても再び機会を与えられる社会。世界中でこれだけは確保されることを望む。
ボルチモア。大切な友人たちがこの都市の明日のために尽力している。資産所有者がお金を出し合ってつくる都心マネジメント団体(BID: Business Improvement District)のDowotown Partnership for Baltimoreは、上のような若者を含む地元住民を約150名雇用し、安心・安全で、経済成長を続ける街を作ろうと尽力している。
一緒に登壇したセッションでは、同団体とイギリスのサウスハンプトンのBIDとの連携に関する報告があった。共に港湾産業が衰退したあとの再生を手掛ける都市。意見交換や相互の訪問交流を行うだけでなく、様々な空間を使ったパプリックアートのノウハウを共有し、アーティストの交流を行うなど具体的な活動連携を進めている。
歴史、資源、課題を共有する都市が国を超えて連携することで、これまでと異なる発想や力を得る。そんな流れはあり得る。特に日本は、外国人住民が増え、これまでの同質的な都市からの変貌を遂げようとしている今こそ、アジアを含む海外の都市との連携を強化して、世界視点でこれからの方向を考えたい。世界から人や投資を呼び、暮らしの問題解決について協力し合う。そんなことを考えながら帰国した。
なんていう帰国報告を書いているのは、日付が変わっても一向に眠れる気配がないから。時差ボケ、早く治ってくれー!
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