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人類史上初となる燃料デブリの取り出し直前の東京電力福島第一原発の視察に行ってきた

2024年8月20日、ご縁をいただいて原発施設内に入り廃炉の現状を視察してきました。

最近ニュースになっているこの件、東京電力福島第一原発においてメルトダウンして溶け落ちて付近の金属と一緒に固着した核燃料の残骸(通称「燃料デブリ」)の取り出しがようやく始まります。

その直前のタイミングで、第一原発の視察ができたので自分のメモを以下に書き残します。


①2024年現在の状況

■1号機の状況

2024年8月20日撮影

 事故当日にメルトダウンし、翌日水素爆発した1号機。現在でも屋根が吹き飛んだままの姿がありました。この地点では放射線線量は60μ㏜/hなので東京の2,000倍くらいの放射線量ですが、数分しか滞在してないのでみんなマスクはしてません。

 数千倍と言われるとビックリする方もいるかもしれませんが、ここに2時間くらいいるとレントゲン1回くらいの線量になる程度なので長時間でなければ安全です。但し、ここから更に建屋内に入ると外の数千~数万倍の線量に跳ねあがり人が入れる状態ではありません。そのため廃炉に関する作業は全てロボットが遠隔操作で行うものになります

<ポイント>

  • 建屋の内部線量:最大5,150mSv/h(2012年7月4日測定)

  • プール燃料:いまだ回収できておらず、392体が残置されている

  • 内部の状況:格納容器内はほぼわかってないが、2月に初めてドローンで格納容器内部の空中撮影に成功

  • 燃料デブリ:取り出し方法を検討中

  • その他:外壁が吹き飛んで鉄骨がむき出しになっているので、放射性物質の飛散を防ぐためにもまずは3号機のような覆いをこれから設置する予定。格納容器内は一番状態が悪いので、プール燃料の取り出しから作業すると思慮。

引用:廃炉・汚染水・処理水対策チーム会合/事務局会議資料(7月25日)


■2号機の状況

2024年8月20日撮影

 メルトダウンしていたけど、水素爆発まではしなかった2号機。これは1号機の水素爆発の爆風で建屋のパネルが開いて(亀裂が入って?)水素が抜けたらから爆発しなかったらしい。元々の外壁がしっかり残っているのが特徴です。そのため、建屋内部の損傷は1号機、3号機より状態はいいので核燃料デブリの取り出しは2号機が先行するものと思います。

<ポイント>

  • 建屋の内部線量:最大4,400mSv/h(2011年11月16日測定)

  • プール燃料:いまだ回収できておらず、615体が残置されている

  • 内部の状況:格納容器内はほぼわかってない

  • 燃料デブリ:今年10月までに試験採取が始まる予定

引用:廃炉・汚染水・処理水対策チーム会合/事務局会議資料(7月25日)


■3号機の状況

2024年8月20日撮影

 メルトダウンして水素爆発した3号機。このドーム型のシェルターが特徴的。このドーム内にクレーンが設置してあってこれによってプール燃料の取り出しが21年2月に完了しています。

<ポイント>

  • 建屋の内部線量:最大4,780mSv/h(2012年11月27日測定)

  • プール燃料:2019年4月に回収開始して2021年2月に566体全数回収済み

  • 内部の状況:格納容器内はほぼわかってない

  • 燃料デブリ:取り出し方法を検討中

引用:廃炉・汚染水・処理水対策チーム会合/事務局会議資料(7月25日)


■4号機の状況

引用:廃炉・汚染水・処理水対策チーム会合/事務局会議資料(7月25日)

東日本大震災発災時に奇跡的に定期点検中でメルトダウンを逃れた4号機。当時は全ての核燃料を制御棒の無い燃料プールに全数保管していてこれがなんらかの弾みで臨界に至ったら制御しようが無いので東京含めた関東東北全域が危なかったと言われる4号機です。それなのに、事故4日後に配管を通して3号機から流れてきた水素で、水素爆発を起こして「え?4号機の燃料プールも干上がって臨界してるの?」と、関係者がパニックになったわけですが、こちらについては2014年にプール燃料は取り出しが終わってほぼ問題がない状態まで落ち着いてます。

<ポイント>

  • プール燃料:2014年12月に1,535体全数回収済み

  • 内部の状況:水素爆発しているので建屋内は傷んでいるが、重要な核燃料は全て取り出したので後は建物全体をいつ取り壊して廃棄するかだけでほぼ収束していると考えていい

■毎日4,000人従事し、年間2,000億円がかかっている現実

 メルトダウンした1~3号機については、13年経った今現在も格納容器内がどのような状態か100%わかってないし、全然わかってないと言って過言ではないと思います。この13年間は基本的には注水し続けて出てきた汚染水を再処理して処理水にして再注入したり、去年からは海に放出したりして再臨界を抑えながら、その期間に少しずつ少しずつ内部の様子を把握して取り出すための手法を検討し、実際に少しずつ少しずつ着実に進めている状況です。
 これをようやくここまで来たかと思うか、まだそこまでしかできてないのか!と思うのはそれぞれのご判断にお任せしますが、それだけ原発事故。特にメルトダウンというものが過酷な状況を引き起こすことがわかります。
 これに対して、毎日4,000人の方が作業に従事し人件費以外でも年間2,000億円が費用としてかかっています。これを負担しているのは東京電力管内のみなさんが電気代として負担している形になります。ご存知でしたか?
 
廃炉に関しては、東京電力及び政府は40年で終了させると言ってますが単純計算で8兆円かかることになります。これ、誰かが負担し続ける必要があるのご存知でしたか?

②私と東日本大震災、原発事故とのかかわり

 なんでお前こんなことに関心があるの?と思われた方もいると思うので少しだけ説明させてください。当時の私はソフトバンクの社員でインターネットでライブ配信するプラットフォーム事業「Ustream」を手掛けてました。2011年3月11日は社長や幹部以上が全て海外出張等で不在にしていたので、現場指揮者として48時間くらいぶっ通しでテレビ局の人たちと当時のテレビ放送の内容をネットで再送信する業務に携わってました。そのため、いち早く原発事故の情報を入手し視聴者に届ける仕事をしていたため、刻々と変わる原発情報を誰よりも浴びてしまって詳しくなりました。

<参考:3月11日当時のメモ>

 その後、ソフトバンク側では孫正義社長が「福島に行きたい!多くの県民を避難させるべきだ!」と怒鳴っていて(笑)、なぜか僕も本社社長室に呼び戻されて3月22日に福島県に行く経験をしました。そこの避難所では、福島第一原発が立地する大熊町の町民の方々が着の身着のまま避難してきており、色々お話をしたのですが、ここでお会いした方の多くがその後故郷に帰ること無かったし今現在も避難している方も居る事実をもって、これに関心を持ち続けることを決めました。
<参考:2011年3月22日 孫正義と福島に行った時の事>

 この経験をきっかけに私の人生は大きく変わります。すぐにソフトバンク社長室に呼び戻され、その後ソフトバンクの自然エネルギー事業や小売り事業の立ち上げに関与することになりました。この時から、日本の再生可能エネルギーの比率を高めることで原発比率を下げることや、復旧・復興や廃炉に関して何か関与できないか、人生の一つのテーマとして掲げてやってきているようなところがあります。

 特に最近嬉しかったのは、今の会社でご支援させていただいている株式会社Liberawareが開発・製造する狭小空間点検ドローンが、人類史上初めて1号機の格納容器内の気中部分での撮影に成功し帰還したことです。これによって貴重な格納容器内の内部状況が把握できて今後の燃料デブリ取り出しのための研究が進むでしょう。
⇓⇓⇓<参考記事・ニュース>⇓⇓⇓


③燃料デブリの取り出しってどういうこと?

  これは、廃炉作業において(技術的に)最難関であり、人類が今まで経験したことの無い作業が始まるということです。
メルトダウンした1号機、2号機、3号機において合計880tの燃料デブリがあると言われてますが、今回の試験採取は耳かき一杯分(数g)の燃料デブリをロボットアームで採取して、どういった性質になっているか検査し、今後の大規模に燃料デブリを取り出すための方法を考える検討材料にします。


■ん?いままでどうやって取り出すのか決まってなかったの?

 そうです、そうなんです。取り出し方法なんて決まってないし、中がどうなっているかについても、メルトダウンした1~3号機毎に少しずつ解明いている段階で全く持って全部は把握できてないんです。
 格納容器の中は、人間が数分~数時間で死に至る極めて強い放射線線量なので全てロボットによる遠隔操縦で作業します。中がどうなっているか、溶け落ちた燃料デブリはどういう特性なのか。これを把握し手法を検討しているのが事故から13年経った今日現在のステータスです。
 

④最後の最難関は廃棄方法と保管場所

 先ほど(技術的な)最難関は燃料デブリの取り出しと言いましたが、本当の最難関は「社会的、政治的」な判断が必要な保管場所になります。通常の使用済み核燃料は、その再処理や最終処理についてプロセスが確立してますが、今回メルトダウンした燃料デブリは、コンクリートや鉄と一緒に溶けて固まっているので再処理はできずに、半減期まで安全な場所に保管しておくしか方法はありません。
 実際に福島第一原発の現場では、作業車は汚染レベルが高いので原発施設内から外に出すことができずずっと13年間敷地内のみで使用されてきてます。これら高レベル廃棄物はどこに廃棄するかは全く決まってません。

構内で放置された車両たち(2024年8月20日撮影)
構内で放置された車両たち(2024年8月20日撮影)

 これらの車両は、敷地内で使い続けるために構内にガソリンスタンドを設置し、自動車整備工場を設置し使い続けてどうしても耐用期限が過ぎたものはナンバーを外した車両が3,000台ほど構内に放置されてました。

・結局廃炉っていうけど、最終的な絵姿は誰も示してない

■結局廃炉っていうけど、最終的な絵姿は誰も示してない

 東電の定義では、「燃料の取り出し」「燃料デブリの取り出し」「汚染水対策」「原子炉施設の解体等」に40年かかると言ってますが、その取り出した燃料デブリや解体した施設の設備はどこに保管するの?建物を更地にしただけでいいの?帰還困難区域の人々の生活は元に戻すの(原状復帰)?地域全体の復興は?みたいなことは明確にされてません。

■廃炉に300年かかるシナリオも

 また、日本原子力学会では廃棄物の減容や管理を検討にいれた100年~300年かかるシナリオも提示されている。

引用:2024年春の年会 廃炉検討委員会セッション 「福島第一原子力発電所廃炉完了までを見据えたリスクへの対応」での発表資料より

※日本原子力学会「福島第一原子力発電所廃炉検討委員会」
https://www.aesj.net/aesj_fukushima/fukushima-decommissioning

⑤最後 これに憤るか?関わるか?

 自分がなんで現地まで行って状況確認してここで発表しているかというとやっぱり13年経って自分含めてだいぶ忘れてきましたよね。でも、今現在も内部はわかって無いし、基本冷やしているだけだし、それに毎年2000億円かけているし、でも中で働いている方々は本当に着実に一歩一歩前に進めてくださってます。
 現状を正しく認識して、この事故のヤバさと現地・現物・現状を把握したうえで、事故を起こした東京電力に怒ってもいいし、国の政策を怒ってもいいし、これを決めて推進してきた世代に怒ってもいいけど、もう起きてしまったことだしせっかく関心をもってしまったのなら皆さんも関わってみませんか?
 
例えば、大変哀しい事故だけどここに産業を呼び戻すことと関心を持ち続けて貰うために廃炉を観光として多くの方に見て貰おうとする動きがあります。こういったものに賛同し、現地に行って現状を把握し、現地の人の話を聞いて共感し、現地の物を買って帰る(特に、福島の野菜や果物は超美味しいです!!)とか、こんなところから始めたらいいんじゃないかな?と思って視察してきましたので、何かの参考になればと記事をアップさせていただきました。

今なお、避難されている2万6千人超の方々にお見舞い申し上げるとともに、日夜原発に従事されている方に敬意を表します。

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