ショートショート⑧俺にとって都合の良い女(2020/08/25)
上司に仕事のミスを押し付けられて腹が立ってまた君を呼び出してしまった。ごめんだけど俺にとって君は完全に都合の良い女で、丁度いいからこうして今日も雑に扱う。顔もスタイルも普通だけど、若い女な訳だし別にモテないこともないだろうけど、少し、いやだいぶ俺のことが好きだからこうしてほいほい呼ばれたらついてきて朝まで一緒に過ごすんだろうな。いつも割り勘なのについてくんなよ、とこっちが思ったりする。
お前の話なんか1mmも聞かないでただ仕事の愚痴と上司の悪口を繰り返す俺を哀れむことなく、目を見て話を聞いてくれる。
「お前みたいな良い女どこにもいない」
とふざけて言ってるみると、ものすごく嬉しそうに目をキラキラされて照れるやりとりももう何十回しただろうか。
こんな俺なんかの誘いに簡単に乗らないで、もっとお前のことを大切にしてくれる男のところへ行けばいいのによく飽きもせずにここにいるよな。
あまりにもそれが当たり前だったからお前はいなくなるなんてことを一瞬たりとも考えたことなかった。
そんな凡庸なミスを自分が犯すなんて思ってなかったけど、今日少し大人な顔をしているお前が
「私、結婚することになったからもう会えないよ」
なんていうから、ああ自分は取り返しのつかないミスをしてしまったことに気が付いた。
「失ってからじゃ遅いよ」
なんてふざけてお前が言ってたのを酔った俺は何回も蔑ろにしてたことを今更ながら後悔してる。ごめんな。今なら心から「お前みたいな良い女どこにもいない」って言えるのにそれを受けとめてくれるお前はもういないんだな。これも俺のエゴか。今までお前を蔑ろにしてきた罰か。そうだとしたらそれを甘んじて受けるしか道は残されてないね。そんな罰ですら、お前とのつながりを求めてしまう俺えおお前は好きでいてくれたんだね。
結婚おめでとう。
俺のいない世界で幸せになってくれ。