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【短編パンクロック小説】リンダ・クレイジー(仮)
キャラクターが騒ぎ出した時にだけ更新する、パンクでラブなストーリー。主人公でギタリストの「俺(たまに僕ちゃん)」が巻き起こす、ちょっとおバカでエッチな物語。完全なるフィクションです。
3 ミカエルという名の女がいた
俺がリンダを見つけたのは、半年ぐらい前のことだ。あの光景は、俺、一生忘れないと思う。
狭くて、煙草の煙が良い感じにスモークになってるような、どうしようもないライブハウスだった。俺たちは、その日、いくつかのバンドと対バンライブをやった。
しょうじき、リンダ以外のやつらのことは忘れた。
でも、その前に言っとかなくちゃいけないヤツがいる。その、なんつーか、順番的に。
あの時、俺たちのバンドには別のボーカルがいた。ミカエルっていう名前のオンナだった。これはマジに名前負けしてた。
どう見たってSサイズだったし。
ただ、おっぱいだけはやたらにデカかった。成長ホルモンか何か知らないけど、そのへんの成分が全部おっぱいに行ったんだろうって俺は思う。
だから、とりあえず、ここではミカエルのことを書く。いちおう、ものごとには順番があると思うんだ。僕ちゃんて、真面目だからね!
ミカエルを一言で言うなら「ろくでなし」だ。
というより、しらふでいるのを、1回しか見たことがなかった。その時ですら、「しらふだったんだ」って後から気が付いた。
ミカエルと会話が成立してるって感じることが、ほぼ、なかった。
それどころじゃなく、マイクよりも男のアレを握る方が好きみたいなアバズレだった。いろんなバンドを渡り歩いて、行く先々でメンバー全員のアレをお味見してるみたいな、マジのロクデナシだったのだ。
でも、俺たちみたいな「志」で音楽とかやってる奴らって、まともじゃないのも多い。そんなだから、時たまミカエルのことをマジで惚れる奴とかいて、最悪、バンド内で「マジ」が渋滞しちゃうこともあった。
俺がミカエルを知ったのは、これもまた対バンライブだった。
ミカエルがフロントをやっていたバンドの名前は忘れちゃった。曲も忘れた。あのボーカル、ちっさいくせにオッパイでかいなって、そこしか見てなかったから。
数曲が終わってMCって時に、ギターのやつが急にしゃしゃり出てきた。なんだなんだって感じだった。喋りが上手いようなキャラにも見えなかったから。
ギター男はドヤった顔で、
「実は俺たち付き合ってます」って、ミカエルの肩を抱いて、これ見よがしにキスをした。ぶっちゅーって。
おめでたいやつだなと思って見ていたら、ゴーンともドーンともバーンともつかない、でっかい音が響いた。
ベースだ。ベーシストが自分の楽器をぶん投げたんだ。
なんだなんだ?って見ているうちに、ベーシストが狭いステージの上をツカツカツカ。
ミカエルとギタリストの間に割って入ったかと思ったら、アシンメトリーにおしゃれヘアを決めてたギタリストの顔面にグーパンチを一発。
「マジか……!」って、つぶやく俺の目の前を、ギタリストがバーンと吹っ飛んだ。
アンプにつなぎっぱなしのギターが、ジュワァ~ン!って大騒ぎした。うるさいのなんの。
こう言っちゃアレなんだけど、俺たちみたいなイケてるギタリストはケンカには弱い。ギター弾くための最低限の筋肉しか保有してない華奢な細マッチョセクシーなのだから、仕方がないのだ。
「てっめぇ!」ってギタリストが立ち上がって、鼻血ドバドバのままベーシストにつかみかかってった。
じゃーん、ぎゃーんってギターが大騒ぎしてたけど、そのうちシールドが抜けて静かになった。
ミカエルは髪の毛をくるくるいじくりながら、シラケた目でそれを見てた。けど、そのうちに、観客の中にイイ男を見つけたらしく、そいつをつかまえてお喋りルンルンを始めていた。
どうせ、このあと、ふたりでしけ込むドットコムのつもりだ。
ギタリストとベーシストが男の決闘を繰り広げている後ろでは、ドラマーが真っ青な顔で震えていた。
やがて、ドーン!とバスドラムを蹴破って立ち上がった。ステージの上を、今度はドラマーがツカツカツカ。
もみ合っている男ふたりの襟首をつかんで、ステージの下にバーンと放り捨てた。その後、ステージに転がっていた楽器をつかんで、それぞれの持ち主の上に放り投げた。
あのバンドは、あの夜、ライブハウスの出禁になるのと同時に、解散になった。
思うに、あのドラマーもミカエルに惚れていたに違いない。ちょっと寝たぐらいでマジに惚れるとか、なんてウブいメンバーが集まったバンドなんだろう。もし、急に気が変わってメンバーが再会して、再びバンドを組む日が来たら純情チ〇ポって名前にしたら良い。
俺たちがライブハウスを出ると、ラブホテルの入り口でミカエルがくだを巻いていた。つま先で地面をホジホジしながら、スマホをイジイジしてた。
俺も、ミカエルの「アバズレ物語」のことを、噂で聞いて知ってはいたけど、自分が巻き起こした大騒ぎの後で、他の男とさっさとイチャイチャランデブーしちゃえるとはアッパレだ。
俺は、ミカエルに女としての魅力をこれっぽっちも感じていなかったし、ただ、なんとなく面白い気がしたから、俺たちのバンドに入れって言ったら「別にいいけど」ってことになった。
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