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大船駅前ファミリーレストラン

【中編】
私が彼と別れたのは、もう10年以上も前のことになるだろう。それなのに、すぐに彼だと気がついた。何もかも、当時のままだったから。

彼はまっすぐに歩道橋を渡ってきた。数分前に私が歩いてきたルートそのままに。

どうしよう。急に焦りを感じ出した。もし彼が、このファミレスに入ってきたら、どうしよう。もし、彼が目の前のテーブルに来たら、私はどんな顔をすればいいのだろう。

私は、まわりのテーブルがガラガラに空いていることを恨んだ。でも、よく考えたら仕方がない。午前のティータイムには遅く、ランチにはやや早い時間だったからだ。しかも、平日だった。

「いらっしゃいませ!お好きなお席にどうぞ!」
店員の声が聞こえ、私は箸を持ったまま固まってしまった。

ちらりと見えたのは女性の1人客だった。良かった。

また、案内の声が聞こえる。次に来るのは誰なんだろう。どんどん食事の味が分からなくなっていく。

(後編に続く)

※この物語はフィクションです。

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