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ブラインドラグビー日本代表 イギリス遠征前強化合宿&体験会レポート

「ボールを追いかけて走ることは、どんな見え方でも変わらない。」
ブラインドラグビーのプレーを初めて見た感想だ。


ブラインドラグビーとは

ブラインドラグビーは、視覚に障がいを持つ選手がプレーすることを想定したラグビーで、日本国内でプレーされる場合は以下のような特徴がある(通常のラグビーのような国際的に統一されたルールはない)。

  • 7人制。

  • ボールは黄色(視認しやすい)+鈴が入っている。

  • フィールドは通常のラグビーのコートより狭い。ゴールラインにポンプ式のH型ポールを立てる。

  • タッチフットのような競技で、タックルではなく相手に両手でタッチすることで相手を止める。

  • トライラインを超えて地面にボールをダウンすることでトライ。トライの後にはゴールキックをする。

  • 全盲又はそれに準ずる選手がいる場合、晴眼者(視覚障がいを有しない人)がガイドとしてして入ることができる。※国内のみのルールであり国際ルールは全員弱視

2015年にイギリスで考案されたブラインドラグビーは2018年に日本に紹介され、2019年にはイングランドチームが来日した。同じ年に協会も設立され、今では東京や大阪で活動をしている。

今年11月には、日本がイギリスに遠征をする(クラウドファンディングは現在は終了)。

イングランドへの出発直前の11月前半、浦安D-Rocksのグラウンド『浦安Dパーク』を利用して代表合宿が行われた。参加選手は10名、関東だけでなく大阪からもメンバーが集まった。
11月10日(日)に、練習公開と体験会が行われた。

遠征前強化合宿

イギリス遠征前の強化合宿では、晴眼者の選手を練習相手として、試合形式での練習を行った。

練習を見た最初の感想は「速い」。
視覚や視界が制限されていると分からないほどのスピードでパスをし、走る。トライが決まればゴールキックをする。「本当に見えていないのかな?」と疑問を持つほど、前からくる相手を躱しボールを前に進める。

しばらく見ていると、ブラインドラグビーならではの工夫があることに気がつく。例えばいわゆる「ノールックパス」はない。各自が自分の視界や視力の範囲で工夫をして見るので、顔の向きが微妙に違う。また、相手にわからないように体をひねってボールを隠す行為もなく、相手にしっかり渡す。手元に来ているボールをうまくキャッチできないことがある。キックの時に使用するティーは投げずに手渡しする。

いつも見ているラグビーとの違いを積みあげて、ようやくプレーヤーの視覚に障がいがあることを実感した。

視覚情報の不足は、声を掛け合ったり手をたたいたりすることで補う。パスを渡す相手によってパスの距離やパスの出し方を変える。それは相手の見え方に合わせて、相手がキャッチできるようにするための工夫だ。
そのお互いを尊重するプレーへの姿勢は他のチームスポーツと何ら変わらない。

ブラインドラグビー体験会

公開練習当日には、一般向けにブラインドラグビー体験会が行われた。
コーチは日本代表でありブラインドラグビー協会普及委員長の添田選手と、同じく日本代表の平選手。

最初はボールを使わずに「見えない相手とコミュニケーション」のミニゲームで、ブラインドストレッチとブラインドで人数集めのミニゲームを実施。決められた人数で集まったつもりでも、アイマスクを取ると人数が違って「あれ~」「なんで?」と声が聞かれた。次はどうしたら正しい人数で集合できるかを参加者同士が話し合いながら正しい状態に近づくコミュニケーションも体験した。

体験会の後半では、ブラインドラグビー用の公式球を持ってパスやラン。
4人一組でアイマスクや弱視ゴーグル(’視覚障がいの見え方を体験できるゴーグル)をつけてパスをする。全く見えない人にどう受け取ってもらうのか、見えない人からほぼ見えない人にどうパスをするのか。パスの技術だけではないコミュニケーションを体験した。

参加者からは「楽しかった」とともに新しい発見のあった感想が聞かれた。

楽しかったです。自分はパスの時にアイマスクをして全く見えなかったのですが、後方へのパスは本当に難しかった。

見えない中で声をかけ音を出しして相手に伝えるが、方向が分かっても距離が分からない。だからボールを投げるのが難しい、というのがブラインドラグビーの難しさだと感じました。

また、コーチにとっても学びのある体験会となったようだ。

楽しんでいただけたことが本当に嬉しかった。素晴らしいグラウンドで、弱視ゴーグルやアイマスクをしながら、楽しんでいるのがとても嬉しかった。普段は視覚情報が8割と言われていて、知らないうちに視覚で補正しているからで、見えないと意外とできない。興味深く体験できたかと思います。

今日は新しいメニューとしてミニゲームの中にチームトークをしたが、体験者の皆さんがお互いにコミュニケーションを取ることを通じて、体験者の中で発見があったことが、僕ら側にも学びがありました。

会長からのメッセージ

左から 東邦大学医学部眼科学講座 准教授 橋本りゅう也先生、一般社団法人日本ブラインドラグビー協会 橋本 利之会長・代表理事、同 菊谷 崇理事

協会に登録されているブラインドラグビーチームは全国に6つ(新潟、神奈川、大阪、東京、静岡、岡山)あります。人数では視覚障がい当事者35名と晴眼者含めて80名くらいです。

2019年に協会が発足し今年6年目を迎えましたが、コロナで延期したので遠征がようやくできるようになり良かったです。ブラインドラグビーを国内だけでなく、海外にも発信するための第一歩を踏み出します。

(イギリス遠征は)初めて海外に行く選手もいるし、日本ラグビーにとっては視覚障がい者が一つになり海外でプレーすること自体が初めてです。不安と緊張はあって当たり前だと思いますが、勝つ気持ちで戦ってほしいです。とは言えスポーツなので楽しむ気持ちも忘れないで欲しい。このメンバーが縁あって一つになり、一つの目標を掲げて練習から遠征含めて繋がりを持ったことを、ここで止めずこの先に繋いでいって欲しい。人生の中でこの経験を活かし尊いものにしてくれればと思います。

コーチ&選手インタビュー

最後に、ブラインドラグビー日本代表の活動とイングランド遠征に向けての意気込みを訊いた。

橋本監督

日本代表チームの強みはテンポの速さです。
チーム作りでは、練習の中で選手同士でチームトークをさせ、良かったプレー、悪かったプレーを共有させている工夫をしています。
全員が自信を持ってプレー出来ているので、仕上がりとしては良い。世界に日本の強さを証明してきます。

園田コーチ

このチームの良さは「楽しさ」「面白さ」「仲の良さ」。
スタッフ側は楽しい場所と楽しい対戦相手を準備する、あとは選手が楽しんでくれて、質問があれば答える。
チーム作りの工夫は…、あります。「プレッシャーをかけない」こと。例えば中途で障がいができた人は、これまでできていたことができなくなったわけで、精神的なダメージも大きい。だからプレッシャーをかけない。遅刻一つをとっても、慌てて階段で落ちたりすると危ない。遅刻もOKだし、細かいことを言わずに楽しむようにしています。
(イングランドとの対戦は)2019年にイングランドと対戦、協会ができてからの5年のうちの3年はコロナで活動ができなかった。その間にイングランドのメンバーも変わっているし、情報もSNSくらいしかない。だから「勝てる」と思うしかない。

原キャプテン(右)と添田バイスキャプテン(左)

原キャプテン

チームの状態はすごくいい。関東/関西のメンバーが集まっているが、コミュニケーションがうまく取れている。(ブラインドラグビーでは)お互いの見え方が大切で、相手の見え方を把握することで「この距離は取れるか」「この距離はここなら取れるか」の精度が上がっていく。

イングランドは5年前に対戦して負けた悔しさがある。雪辱を晴らしたい気持ちがあったので実現したい。個人的には5年前に初トライを取ったので、今回も初トライを取りたい。それ以上にチームが勝つのが一番。いいメンバーが揃っているのでチームを活かしながら勝ちたい。

試合以外には、ラグビー発祥の地であるイギリスの雰囲気を楽しみたい。みんなで一軒家に宿泊するのも楽しみ。スーパーで買い出しして、ワイワイしてコミュニケーションをとる。日常生活のお互いの工夫も分かって、チームにも繋がります。

添田バイスキャプテン

勝利を目指してやってきたので勝ちたい。
個人的な目標は、世界の選手と楽しく試合をして交流することで、世界に対してブラインドラグビーが楽しいスポーツだと発信することが大切だと思っている。楽しいスポーツだと広げていけば、世界のいろんな国が参加してくれる。イングランドやアイルランド、日本がその中心に立てるのは大事だと思う。

11月20日に出発、11月23日にブラインドラグビーイングランド代表・アイルランド代表と対戦する。旅路のご無事を祈りつつ、試合の検討をお祈りしています。

Have a nice trip and Good Luck.



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