ラグビーと違法薬物問題を考える
2020年3月に起きたジャパンラグビートップリーグ(以下、TL)参加チームに所属するラグビー選手による違法薬物問題が、TL全体に波及しています。
2020年3月事件~TL自粛までの経緯
2020年3月4日
TLに参加する「日野レッドドルフィンズ」の選手が、違法薬物を保持・利用していたとして、警視庁により逮捕されました。
2020年3月6日
事態を重く受け止めた日野レッドドルフィンズは、無期限の活動自粛を決定しました。ファンサイトや各種SNSも閉鎖しました。
2020年3月9日
日本ラグビーフットボール協会は、違法薬物問題に関するコンプライアンス教育を徹底するために、日野レッドドルフィンズの以降の全試合に加え、開催中のTLの3節分(9節、7節(代替試合)、10節)の中止を決定しました。
トップリーグチェアマン 太田 治 コメントでは、ラグビーのコアバリュー「品位・情熱・結束・規律・尊重」が抵触されている状態であることに言及しています。
再度トップリーグとして各チームのインティグリティの追求を図り、トップリーグ全体で正常化を証明する事で、トップリーグ2020の再開が出来るものと考えています。
ラグビー界の薬物問題
ラグビー界の違法薬物の保持や利用により逮捕された事件は、今回の1件だけに限りません。ここ2-3年でも複数件の事件が起きています。いずれも選手個人の事件ではありますが、所属チーム全体が活動を自粛・休止する対応をとっています。
2020年1月
関東大学ラグビーリーグ1部の強豪、日本大学ラグビー部の現役部員(3年生)が大麻を所持していたとして逮捕されました。それを受けて、日大ラグビー部は無期限の活動停止を決定しました。
2019年5月
ジャパンラグビートップリーグに参加する「トヨタ自動車ヴェルブリッツ」の2選手が、覚せい剤を保持・利用していたとして逮捕されました。本人たちの逮捕だけではなく、トヨタ自動車ヴェルブリッツは、約半年の活動休止、ジャパンラグビートップリーグカップ2019欠場となりました。
選手会「ジャパンラグビートップリーグ2020開催休止の決定についての声明文」
今回のTL開催中止を受けて、日本ラグビーフットボール選手会は、声明を発表しました。
薬物使用は許されないことである、としたうえで、JRFUの決定や報道に対しての反論が述べられています。
声明文では「今回のJRFUの発表によって、リーグ内の全選手のプレー機会が失われました」「リーグ休止という処置は問題再発の責任の大部分を選手が負わされている形」と述べています。
さらには、早期の信頼回復とリーグ再開を目指し、選手自身が立ち上がって、全チーム全選手の検査を提案、また選手会でのコンプライアンス強化など動き始めています
今回のJRFUの発表によって、リーグ内の全選手のプレー機会が失われました。我々選手たちはグラウンドで試合をすることが価値そのものです。
(中略)
今回のJRFUの判断は誠に遺憾であると同時に、こうした我々選手の想いを蔑ろにしていると言わざるを得ません。
違法行為には毅然とした対応を取るべきですが、違法行為に無関係なその他の選手については通常通りのプレー機会が与えられるべきだと考えます。
昨年6月にも同様に薬物問題が発覚してから今回の問題が起こるまでのJRFUによる再発防止策は十分であったのか疑問であるにも関わらず、リーグ休止という処置は問題再発の責任の大部分を選手が負わされている形と言えます。
よって我々選手会はこの度の問題再発における責任の所在を明らかにすること、及び今後1年間の再発防止のための具体的な取り組みの説明、全選手・関係者への早急な薬物チェック実施後のリーグ再開を望みます。
TLを中止する必要はあったのか?(所感)
「なぜ、全チーム全選手がプレー機会を奪われるような大事になったのか」は、今回のJRFUの決定の善悪とは関係なく疑問です。選手会の声明にある通り、選手はプレーをして価値を発揮できる存在です。全選手の価値をはく奪しても、やるべきことだったのか。
例えば、企業に所属する社員は就業規則の中に、「刑事事件を起こした場合」の条項がある企業がほとんどです。おそらく、プロ選手とチームの契約にもあるでしょう。
同じように、チームと企業、チームとJRFU(または所属協会)間に、チームの選手・スタッフによる刑事事件が起きた時にどうするのか? を事前に決めておけば、円滑に進んだのではないでしょうか。今回は、「寝耳に水」で驚いた関係者が多く、また選手会も反発しましたが、事前にルールがあれば即、反発するような事態はなかったかもしれません。
「連帯責任」は必要なのか?(所感)
違法薬物事件であれば、個人が保持・使用するかの問題であり、直接的にはチームで連帯責任を取るべき問題のようには思いません。例えば、一般的な企業で、社員が違法薬物で逮捕されても、会社は謝罪をするにとどまり、企業活動の自粛をしないが一般的。なぜ、スポーツチームだけ、ラグビーチームだけ自粛なのか、は個人的には疑問が残ります。
一方で、生活も共にし、一緒にいる時間が長い、企業やチームにできたことがあるとすると、「お互いに牽制機能が働く」ことで抑制できる効果はありそうです。以前に薬物事件があったときに、聞いたコメントが印象的だったので、共有します。
会社員選手であれば、昼間は会社で働き、世の中一般の常識の中で生きる。フツーの会社員にとって「薬物」は自分の世界にないもの。
一方、プロ選手は、スポーツにかかわる時間以外はフリーであり、一人で考えてしまう時間も、一人で悩みを抱えてしまう時間がある。その隙間に「薬物」が入り込んでしまうのかもしれない。
だからこそ、同じプロ選手同士でも、お互いに声を掛け合うことが予防につながる。
やるなら徹底的に(所感)
協会からの発表、選手会の声明文の両方にありましたが、徹底した対策の実行を期待します。全関係者の検査をしてクリーンであることを証明、そしてコンプライアンス教育を通じた関係者の啓蒙、さらにルールの厳格化 等の対策は、意識から変えていく
また、今回限りではなく、継続して啓蒙活動をすることで、忘れないこと・お互いに牽制することで、クリーンな状態が維持され、次の事件が起きないことを願います。
ファンは、再開を心待ちにしています。
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