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No.174 旅はトラブル / オランダ・アムステルダム&イングランド・コッツウォルズ訪問ひとり旅2012(10)ひとり旅の贅沢な一コマ

No.174 旅はトラブル / オランダ・アムステルダム&イングランド・コッツウォルズ訪問ひとり旅2012(10)ひとり旅の贅沢な一コマ

No.169, No.172の続きです)

オランダの首都アムステルダム滞在4日目、この日もホテルオークラ内「カメリア」でのブレックファーストから始まった。一つのホテルに連泊するメリットとして、スタッフたちと親しくなれることがある。金髪のウエートレスJudyとは顔馴染みになっていたので「Good Morning, Judy!」と声をかけると「Hi, Mr.Ono, how are you doing?」と気さくな返事が返ってくる。こんなちょっとのやり取りが、すごく楽しいものだ。

この辺りの気さくさと「人たらしの術(すべ)」は、連れ合いの由理くんや若き友人たちとの触れ合いの中で身につけ、旅の中の実践で磨いてきたものだ。ホテルによってだが、高級ホテルでは「わがままを言う」のをお勧めする。自分で好きなものを取り分けるビュフェスタイルの朝食を提供しているところでも、頼めば卵料理は別に作ってくれる。この日の朝も目玉焼きやゆで卵、スクランブルエッグなどは並んでいたが「わがままなMr.Ono」は「One omelet  with everything, please. (オムレツを一つ、具材入れてください。に近い)」と、Judyにお願いすると、ニッコリと笑顔での返事だ。

海外旅行ひとり旅での僕の食事だが、一日二食でパターンが二つ。一つに、ホテルのブレックファーストをしっかり食べてディナーを楽しむ、街歩きの途中午後3時頃にケーキとお茶の軽食を取ることもある。もう一つは、朝食は取らずに有名店などでランチ、この時はディナーは軽めのことが多い。

朝食をしっかりとったこの日の予定は、まず電車でユトレヒトに行き、前日閉館日だったナインチェ博物館(通称・ミッフィー・ミュージアム / あのウサギのミッフィーちゃんです)を訪れ、リベンジを果たす。その後「ミッフイーちゃんの信号機」を見ることだった。そして、アムステルダムに戻った後、人混みを避けるために閉館時の1時間前に「ゴッホ美術館」に入る計画だった。

アムステルダム駅から約30分、ユトレヒト駅を降りてから徒歩で20分、ゆっくりと街の景観を楽しみながらミッフィー・ミュージアムに到着する。外観はごく普通の家である(2016年に改装されて、外観のデザインも含め少し変わっているようである)。入り口の前に立つとドアが閉まっているようである。

うん?昨日と同じく、小さな案内板に気づいて見てみると開館が11時になっている(今は10時開館のようです)。勝手に10時開館と思い込んでいた。時計を見ると10時20分、開館まであと40分ある。よくよくミッフィーちゃんと相性が悪いようである。

案内板に書かれたミッフィーちゃんを見ると、あの可愛い顔の口の形が「X」であることに気づく。僕の不満顔を見て、ミッフィーちゃん負けじと口を尖らせて「相性じゃないでしょ。開館日や開館時間くらい調べてよ」と言われているような気がしてきた。揚げている右手も「もー!」とか言って、今にも僕の頭を叩いてきそうで「ごめんなさ〜い」と心の中でお詫びしてしまった。

前日は「クレラーミュラー美術館」訪問(No.169)と「コンセルトヘボウ」でのクラシック鑑賞(No.170)と精力的に動き、加えて「夜の危ない散歩」(No.172)で2時間近く歩いていて、駅からここミッフィーミュージアムまでも歩いてきている。流石にユトレヒトの街をもうひと歩きしてくる考えは排除して、開館まで待つことにした。幸い、道を挟んだ向かい側、少し離れた所にベンチが見えたので、そこに移動してどっぷりと腰をおろした。僕のようなそそっかしい人のために置かれているベンチのようにも思えた。

腰をおろして一息つく。

連れ合いの由理くんを失って3年目、前の年のイタリアへの旅に続く「今回も気ままな時間を過ごしているな」、でも「日常を離れ充足感を作る義務」のような、「日常の中にも旅はある」よな、「この後のゴッホ美術館も楽しみだな」、「海外に来て、こんな無為な時間を過ごす旅人はあまりいないだろうな」・・・

はっと目が覚めた。そうだ、ここはミッフィーミュージアムの近くだ。時計を見ると10時半、わずか10分の休憩だったが、頭も体もスッキリしていた。手提げバッグの中から、ひと組のデック(トランプ)を取り出し、シャッフルを始めた。東京を離れてたったひとり、観光地とも言えない場所でカードをシャッフルする、ファン状に広げる、一枚二枚とマジシャン特有の手の動きでカードを数えていく。こんな場所でマジックの技法の練習ができる贅沢を実感する。

10分の長い微睡(まどろみ)と30分の短い暇つぶしのあと、ミュージアムの入り口に目を移すと、ドアを開けるスーツ姿の女性が見えた。開館時間のようだ。さあ、ミッフィーちゃんに会いに行こう。ドアの内側に消えていくスーツ姿の女性の背中に誘われるように、ミッフィーミュージアムの入り口へと足は動いていった。

・・・続く

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