No.125 Bob Dylanから学んだ英語
No.125 Bob Dylanから学んだ英語
英語との触れ合いについては、noteの記事「英語・挫折の歴史」シリーズや「大学を目指す歩み」シリーズの中などで綴ってきた。中高校では「英語嫌い」だったし、海外への留学経験も生活経験もなく、社会人になってから独学中心に学び、補完として語学学校などに通い、友人知人から大いに刺激を受け、人生の転機となる大学進学を経て、今現在東京は板橋区の片隅で英語などを教える仕事を生業としている。
ここでは、ボブ・ディランBob Dylanの歌詞の思い出を振り返ってみる。中学生の時にアメリカの3人組(男性2人と女性1人)フォークグループPPMピーター・ポール&マリーがカバーした「風に吹かれてBlowin' in the wind」が、初めて触れたディランの歌だった。「How many roads must a man walk down?」で始まる歌はなんとか聞き取れて、学校で習った「how many 複数名詞〜」の形が本当なんだと思いながらも、それで英語の授業に関心がいくわけではなかった。
「ain't」が「am not」「is not」「are not」「have not」「has not」の短縮形であり、品が無いと言われる一方で、日常的に使われる形であることもディランの歌から学んだ。高校生のとき、英語の教師に「ain't」を質問したが、受験にはまず出ないこの短縮形を全く知らなかったのは、触れているものの違いであり、そんなものかと冷めた思いを持った。
1965年に発表されたディランの傑作アルバム「追憶のハイウェイ61Highway 61 Revisited」の中の一曲「クイーンジェーン Queen Jane Approximately」のタイトルの長ったらしい単語approximatelyってどんな意味だと、英語が得意だったシゲトに聞くと、aboutと似たような意味だとの答えだった。Queen Jane Aboutじゃ何かカッコ悪いなとは思ったが、明確な違いを調べようとする学者肌の気質は、当時の僕にはなかった。
歌詞カードを見ると「Won't you come see me Queen Jane?」とcomeとsee、動詞が二つ並んでいる。comeとseeの間に「to」が抜けたミスプリントかと思い、歌を聞いてみると、あの独特な声でディランが間違いなくcome seeと歌っている。こんな言い方あるのだろうか?質問はしなかったが、学校の英語教師に質問して納得のいく答えを得ていたら、少しは尊敬して英語の学習に身が入ったのだろうか。
誰に聞くでもなく、この答えは約10年間ほど「風の中に吹かれていた」。社会人となり聞き始めたラジオ英会話の「今日の表現」に「Will you go see〜?」があり、東後勝明先生の説明で長い間の疑問が解けた。今ならネットの検索で、簡単に正解が得られるかもしれない。この記事を読んでいる方への楽しみとして、ここでは東後勝明先生の説明の再現は控えておく。
1970年のアルバム「新しい夜明けNew Morning」からのヒット曲「イフノットフォーユー If not for You」の歌詞カードを見ると「if not for you 」が「君がいなければ」と訳されている。「for you」って「あなたのために」とかって意味じゃないのかと不思議に思い、こちらも数年間分からずじまいだった。
No.055で触れたように、文法事項の習得の必要性を感じ「仮定法」を学習した。そこでの例文「If it were not for water, 〜もし、水がなければ〜」を見て、なるほどディランは「it were」を省略しているのか、上手いな、でも会話の中で使って通じるのかな、いや「If not for you」と使って分かってくれる女性とディランの話で盛り上がったら楽しいなと、想像を膨らませたものだ。
かつてのお尋ね者を歌った「ジョンウェズリーハーディング John Wesley Harding」を聞くと「He opened many a door」と歌っていて歌詞カードを確認すると「many doors」ではなく「many a door」である。こちらも辞書を丹念に読めばすぐに解決したのだろうが、当時は辞書を引く行為と歌詞を読んでいくことと相性が悪いように感じていたようだ。小説を読むとき、いちいち言葉の意味を調べないことと似た感覚である。駿台予備校刊伊東整著「英語精選700」の何の単元だったか、最初に「many a 単数名詞」が解説されていたことを覚えている。
「ガッタサーヴサムバディ Gotta Serve Somebody」で繰り返される「My like is〜」で、
「like」が「好きなこと」のように名詞の用法があるのを知った。ディラン、プロテストソングの傑作「ハッティ・キャロルの寂しい死 The Lonesome Death of Hattie Carroll」の中で同じように「now」の名詞用法と言ってもよい「Now ain't the time for your tears.」の表現に痺れた。
英語参考書の助動詞の項で説明される「祈願のmay」は、アルバム「プラネットウェイヴズ Planet Waves」の中の大好きな一曲「いつまでも若くForever Young」でお馴染みだった。「May you stay forever young.」はディランの祈りの歌である。1997年2月18日、来日公演大阪厚生年金会館でのライブでアンコールに歌ってくれた「Forever Young」を2階最前列で涙して聞いた。
基本単語から、ちょっと難しい単語までの多くをディランの歌詞から学んだ。compromise, casket, roam, twirled, crucify, compromise, desolation, musketeers, escapade… これらの語はどの歌で出てきたか覚えていて、大学入学に必要だったSATのテストに大いに役立った。
つい先日、79歳となるボブ・ディランの39作目のスタジオアルバム「ラフ&ロウディ・ウェイズ Rough and Rowdy Ways」が発売された。全10曲CD2枚組の2枚目「最も卑劣な殺人 Murder Most Foul」は、ケネディ暗殺を題材にとった17分に及ぶ大傑作だ。この曲を始め、またじっくりと歌詞を読んでみよう。
2016年にノーベル文学賞を受賞した後もボブ・ディランはまだまだ元気で嬉しい。ディランに関することは、これまで同様(No.027 No.028 No.071)愛情を込めてまた書いていこう。
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