Re-posting No.046 英語・挫折の歴史(8)ラジオ基礎英語・英会話…「乱学」時代
Re-posting No.046 英語・挫折の歴史(8)ラジオ基礎英語・英会話…「乱学」時代
(昨年投稿したNo.046を大幅に書き直しました。Re-posting No.042の続きです)
朝日カルチャーセンター「初級英会話」での「屈辱」(Re-posting No.031)、坂本さんとの「切磋琢磨」(Re-posting No.37)、スタントンスクールの同級生たちからの「刺激」(Re-posting No.042)などを経て、少しずつ、本当に少しずつながら英語の実力も付いていった。後に大学受験を目指すときもそうなのだが、週に1、2度授業での「受け身での知識獲得」に、過度の期待はしていなかった。
毎日欠かさずの自学自習の必要性を感じ、その教材の一つとしてNHKラジオ「基礎英語」「続基礎英語」の視聴の継続(Re-posting No.023)を図るのだが何度も挫折していた。酒屋商売の仕事中の中断が大きな原因の一つだったので、放送をカセットテープに録音することにした。翌日までに「英語会話」を含む三つの番組を、時間を見つけて、途切れ途切れでも必ず聴くことを自分に課した。昼間の暇な時間帯と、閉店後夕飯の後に机に向かうことが多かった。
通学に伴う「学習のリズム」を大事にして、同級生たちの顔を思い浮かべながらの予習復習の「強制感」を持って独り学習に勤しんだ後に、初めて「学習の楽しさ」と言えるものが、机の上に開いている参考書やら問題集の何処に潜んでいたのだろうか、立ち昇ってきて僕の瞳孔や耳管や時には鼻腔までを通して体内に入り込んでゆく。
「基礎英語」「続基礎英語」の視聴を、楽しく継続できるようになり、いかに自分が中学英語の、まさに「基礎」が欠けていたかを思い知らされた。本棚に並ぶ「英会話」関連の書の隣に、当然のように「英語文法書」や「英語辞典・事典」が増えていき、気の向くままに手に取り読み進めていった。助動詞の違いなど頭からすっ飛んでいたし、完了形に至っては、そんなものあったか?だった。
「続基礎英語」のあとに放送される「英語会話」も、最初はついでとの思いで録音した。聴くと、そのスピードには、およそ付いていけなかったが、ナチュラルな響きが心地よかった。放送を聞いた後にテキストを見る。「へえ〜、そう言っていたんだ〜。は〜、そうなんだ〜」だらけだ。傍でフランス語の学習をしている連れ合いの由理くんが「『へえ〜』と、『は〜』ばかりでおもろいやね〜」と笑ってくる。懐かしい。
ある日のこと、録音をしておいた「英語会話」をテキストを見ずに聴き始めた。スキットの中で、二人が話している。パーティがなんたら言ってるな。流れからすると、男性がパーティに誘っているんだな、ふむふむ。女性が答える。「アイキャン…メイキット」彼女、パーティに行けるんだな。
会話は続く。あれ、話が変だな?彼女パーティに行けないの?テキストを見ると、アイキャントメイキット " I can’t make it." 彼女はパーティに行けない。「否定形、キャント〜?!」巻き戻してもう一度聞く。いつの間にか、巻き戻しの感覚が鋭くなっていた。(今の若い人には、なんの事か分からないかもですね)10回以上繰り返し聞いてみた。否定形can'tキャントが、肯定のcanキャンにしか聞こえない。「 "t" ティーの音がどこにあるんだ…」。自分の疑問を、この時の番組講師東後勝明先生にぶつけるわけにもいかなかった。
当時の独学の学習上の欠点の一つと言えた。理解できないところを辞書などを駆使しても答えを導けないことも多かった。この時持った思いは「一生、canとcan’tの違いを聞き取るのは自分には無理かもしれないな。成人になってから始めたものの弱さか、生来の音感の悪さは致命的か」であった。
何か聞き取るコツがあるかも知れない。本屋さんに足を運び、英会話のコーナーを目指す。一冊の本が目にとまる。アルク出版「ゼロからスタート・英語を聞き取るトレーニング(旧版)」カセット付きの冊子があり、中身の確認はできなかったが購入した。
読むと、本の中に「消える音」の章があった。なんだそれは〜!消えたら聞き取れるわけがないじゃないか〜!「アルファベット”t”や”d”は後に続く子音と重なると消える」。こやつらは忍者か〜!雲隠れの術か〜!
ため息をつきながらも、本を読みカセットテープを何度も聞き返していくと、徐々に「can」と「can’t」の区別がついてくる。「can’t」の「n」の音の方が、「can」の「n」に比べて、強く鼻にかかる音となっている。加えて、本の中の解説にあるように「can’t」には、ほんの短い間(ま)ーレイテンレイレイコンマ何秒ーが次に続く動詞の前にあるように聞こえ始めた。
「そうか、これか!そういうことか!」
英語の渦の中で育ってきていない自分には「理屈で理解する」必要性を感じた瞬間だった。遠回りしながらもなんとか「何か」を掴めた感触もあった。自然に相手の英語が聞き取れ、自分も英語で発信できる、夢見たそんな日への小さな小さな一歩が愛おしかった。
・・・続く
※タイトルの写真の説明です。ラジオ「基礎英語」「続基礎英語」「英語会話」のテキストをバラし、宣伝などの部分を捨て、パートごとに分けたりして製本したものです。内山さん(No. 114)の手を煩わせました。ありがとうございます。