Gakumonn no Todome

知識は罪だ。
神の言いつけを破って手にしたものだからだ。
知識は罪だ。
プロメテウスの不正を見なかったことにするのか?
知識は罪だ。
ナツーラのベールを強引にも引き剥がそうとするからだ。
知識は罪だ。
夕暮れになるまでその御使いを空に放つのをもったいぶるからだ。
知識は罪だ。
決して壊れることのない美しい永遠の世界への空想を駆り立てるからだ。

知識は罪だ。
実践的であればあるほどそれは役に立ってしまうのだ。
知識は罪だ。
それがなければ我々は皆平等であった。
人の上に人をつくらなかった天に背いて、
人の上に人がいるのは一重にこの存在の故だ。
知識は罪だ。
先例主義によって思考することを我々にとって、もはや不要なものにするからだ。

知識は罪だ。
広大な海の水面にうねる波をたったひとつの関数で表そうとするからだ。
知識は罪だ。
幾重にも枝分かれする力の一つ一つを成分化してしまうからだ。
知識は罪だ。
自然法則の神秘を魔法から切り離した。
知識は罪だ。
結晶の美しさも解けない方程式もルービックキューブで説明してしまうからだ。
知識は罪だ。
微細に分解したり、積み上げ足したりすることで全ての運動を記述してしまうからだ。
知識は罪だ。
壮大な同語反復の迷宮に我々を迷い込ませるからだ。
知識は罪だ。
天界の謎を地上の謎に還元してしまうからだ。
知識は罪だ。
熱の成功が我々を光の謎に向かわせたからだ。
知識は罪だ。
光の謎は我々を焼き尽くす。

知識は罪だ。
論理というものを駆使し恐ろしく野蛮な行為を、本能に逆らう野蛮な行為を正当化できてしまうからだ。
知識は罪だ。
積み重なるそれがあたかも我々を進歩の道の途上であることを錯覚させるからだ。
知識は罪だ。
不確かな未来を過去の延長で形どるからだ。
知識は罪だ。
及び知ることができないものにまで手を伸ばしその聖域を侵そうとするからだ。
知識は罪だ。
今あるものだけを使えばいいものを、綜合して新たな意味を付与してしまうからだ。
知識は罪だ。
統整の本能に抗えないからだ。
知識は罪だ。
デュオニソスの声を聞け。
知識は罪だ。
非情なアポロンは決してオイディプスを救わなかった。

知識は罪だ。
それが生み出す矛盾対立は耐え難い不条理をもたらすからだ。
知識は罪だ。
外側に開いた目を内側へ向かせる。そこに絶望を見せるからだ。
知識は罪だ。
労働の神秘を手段化し、人を生かす虚構を作り出すからだ。
知識は罪だ。
我々が吐き出す言葉が何事かの意味から湧き出たものと思わせてしまうからだ。本当はその逆であるのに。

知識は罪だ。
全く空想的・形式的なもので現実を語ろうとするからだ。
知識は罪だ。
空想は現実を変えない。
知識は罪だ。
2000年の時をこえて私に悲しみを伝えるからだ。
知識は罪だ。
芸術という美の極まりに、何事かの説明を与えようとする野暮をなそうとするからだ。

知識は罪だ。
価値を世界のうちに定義できず、地上的な価値に還元してしまうからだ。
知識は罪だ。
この雄大な世界、無限の可能性の中で己がいかに矮小で儚い存在かを思い知らせるからだ。

知識は罪だ。
これを手にした我々は贖い続けねばならない。
知識は罪だ。
我々を野蛮にする理性を手懐ける道を探り続けねばならない。
知識は罪だ。
これを役立てるか否か、そんな議論はさらなる堕罪だ。
知識は罪だ。
これほどまでに美しく、私を身悶えさせる。
誘惑的なのだ、あまりにも。
知識は罪だ。
人類の愛の結晶。世界に接続することを孤独な私に絶えず囁きかけるのだ。
知識は罪だ。

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