スーパーヒーローのデザインを通してチームメイトのことを知る試み
物語の主人公は、我々が持っていないような突出したスキルや能力を持っていることがあります。
漫画「ハンターハンター」には念能力という概念が登場します。主人公であるゴンは強化系能力者ですし、キルアは変化系能力者です。クラピカは具現化系能力者でレオリオは放出系、ヒソカは変化系のように人物ごとに得意とする念能力が異なります。各人物が何系の能力者であるかというものは水見式のような手法で判断することができるようですが、実際のところランダムに割り当てられているというよりは、その人物の過去や性格、得意とすることなどによって決定されるように見受けられます。
同じくジャンプで連載されていた漫画「NARUTO」には忍術という概念があります。アカデミーの卒業試験などから推察すると、いくつかの基礎的な忍術は習得必須科目として存在するようですが、それ以外にも各登場人物はそれぞれ自分にあった忍術を身につけています。シカマルの影真似の術、チョウジの巨大化、キバの赤丸とのコンビネーションなどがわかりやすいところでしょう。これもやはりハンターハンターと同様に、各忍者の戦い方や忍術は各者の性格や出生などに由来するところが大きいように感じます。
この傾向は日本の漫画に限らず海外のスーパーヒーローものにもある程度の共通しているように見受けられます。例えばスパイダーマンやヴェノムのようないわゆるスーパーヒーロー映画をみていても、それぞれのスーパーヒーローは能力を得る前の生身の人間の性格を受け継いでいるように思えます。ピーターパーカーが地球外生命体・シンビオートに寄生されたら、あるいはエディ・ブロックが放射能を浴びたクモに刺されたら、それぞれ異なるヴェノムに、あるいはスパイダーマンになっていたはずです。
つまり、フィクションにおける主人公の能力はその人物の経験や性格などと深い関係があるのです。逆に言えば、対象となる人物のことを深く知れば将来何らかの出来事によってその人が突出したスキルや能力(あるいは必殺技や念能力や悪魔の実を食べるなど)を得たらどのようなものであるかを予測することができるのではないでしょうか。
予測、と言ってしまうと大袈裟かも知れませんが、あり得る未来を想定するという意味でこれはデザインと言っても良いでしょう。そしてただただそれっぽい能力を考える訳ではなく、特定の人物に対する理解を深めた上で起こりうる未来を考えることは、まさにデザインであり、その能力をデザインするためのリサーチはデザインリサーチであると捉えることができるはずです。
そこで本記事ではリサーチを通して対象となる人物を理解し、その人が何らかの能力を得たらどうなるだろうか?と、あり得るかもしれない未来をデザインした事例についてご紹介します。
なおフィクションによって主人公やその能力に対する呼び名が異なるため、本稿では以下、物語の主人公のことを「スーパーヒーロー」、その能力のことを「スーパーパワー」とします。
プロジェクトの背景
先日、弊社に新しく3名のインターンがジョインしてくださいました。新しいメンバーがチームに加わった時に、どのようなフローで環境に慣れてもらうかは、多くの組織で悩まれている部分ではないかと思います。弊社でも例外ではなく、最初の仕事としてどんなことに取り組んでもらおうかと考えた結果、まずは簡単なデザインプロジェクトに取り組んでもらうこととしました。これが本稿のテーマである「スーパーヒーロー」のデザインです。
チームとして一緒に働く上で重要なポイントはいくつかありますが、「お互いを知ること」の重要性については私が今更述べる必要はないかと思います。オフィスのようなオフラインの場があり、そこでの勤務が中心であれば何気ない雑談を通してお互いを知る機会も豊富にあったと思うのですが、オンライン前提では必ずしもそのような状況にはありません。
そこで、お互いへのインタビューを通して、お互いを知ってもらうと同時に、お互いをスーパーヒーローに見立てて映画のようなポスターを作ってもらうことに挑戦していただきました。
なお、デザインのプロセスは異なるものの「スーパーヒーローをデザインする」というテーマについてはCIIDにおけるストーリーテリングの授業からインスピレーションを受けています。
プロジェクトのプロセスと成果物
今回のプロジェクトにおいてスーパーヒーローをデザインするためのプロセスは下記の通りです。記事が長くなってしまうので、本稿では概要だけの紹介にとどめますが、興味のある方はぜひ気軽に質問いただければと思います。
なお、インタビューから情報の整理、コンセプト作成までの流れは弊著デザインリサーチの教科書でも紹介させて頂いている通りですので、興味がある方はぜひご覧になってください。
(1)インタビュー
まずはインターン同士のインタビューを実施します。とはいえ「いきなりインタビューをしてね」と言われてもなかなか難しいものがあると思いますので「こんなことを聞いてみてね」を示したディスカッションガイドを私が作成して提供させて頂き、ガイドに沿ってインタビューを進めていただきました。
(2)インタビュー内容の分析&統合
ガイドに従いつつ一通りインタビューが終わった後は、インタビューで得られた情報を整理しつつスーパーパワーの方向性を探索します。インタビューで得られた情報をポストイットに書き出して鍵となりそうなトピックを作成し、それをもとにスーパーパワーの方向性について検討を重ねていきます。
(3)コンセプトデザイン&ポスター作成
スーパーパワーの方向性が定まったら、具体的にどんな能力にするかを考えます。今回のプロジェクトではアウトプットとして、スーパーヒーローとしてのコンセプトを示すようなポスターを作成してもらうこととしました。なお、サイズについては「A4で作ってね」と指定をさせて頂きましたが、ツールについては自由としました。figmaで作ってもいいし、PowerPointで作ってもいいし、Adobe IllustratorやPhotoshopで作成してもOKです。使い慣れたツールで作ってもいいし、新しいツールにチャレンジするのも良いでしょう。
(4)成果報告会
ポスターが完成したら社員の前でデザインのプロセスやスーパーパワーについて紹介をして頂きました。なお、プロジェクトのポスターをご紹介すると下記のようなものです。(個人情報に関わる部分もあるので詳細はモザイクをしてありますが雰囲気は掴めるかと思います。)
プロジェクトへのフィードバック
プロジェクト終了後は、インターンの方々にプロジェクトを振り返ってもらいコメントを頂きましたので、抜粋して紹介します。
「初対面同士お互いを深く知る方法として、またインタビュー練習の方法として相手の強みを見つけるという形のsuperheroインタビューは面白く、インタビューされる側としても貴重な経験でした。チームビルディングにも活きそうだと思いました。」
「インタビューやコンセプト作成・アウトプットを作る練習としてはもちろんのこと、同じインターン生のことを知る機会となりとても楽しかったです。本でインタビューの仕方について読んではいましたが、実際にやってみると反省点が多くあり、身内でインタビューする機会を通じて勉強になりました。」
「デザインに関しては未経験の身だったのでインタビューから分析、抽出、アイディエーションなどのデザインに関する一連の流れを経験できたのが非常に勉強になりました。ぼんやりと自分が得意・苦手そうなところが見えた気がするので、今後、プロジェクトに関わる時や勉強する際に意識する観点にしたいと思います。インターン同士の関係性を深めるという観点からもいい機会になったと感じました。」
一方で、下記のようなフィードバックも頂きまいた。プロジェクトの説明の仕方など私の方にも反省点はあったなと思っていますし、次回以降の改善点としたいと思っています。
締め切りが曖昧で少し混乱したので、締め切りをつけるなら明確に意識し、締め切りがないならないで良いと思う(目安としてこれくらいの時期に出来てたらOK的な)
インタビューやデザインの作成を2人で一緒にやる、または別々に行い2つアウトプットを作ることで、お互いの観点の比較や質問の仕方を学べる機会になりそう。
自分のインタビューがこれであっているのかわからなかった。可能であれば、録画などでインタビューを見てフィードバックをいただけると嬉しい
インタビュアーとインタビュイーで振り返る時間を設ける。インタビュイーの認識と自分のアウトプットとを比較した時、どんな違いがあるかすり合わせる時間に出来そう。インタビューの仕方の振り返りにもなりそう。
インタビュー受ける側としての振り返りがあってもよさそう。インタビュイーの心情理解など、自分が次にインタビューする時に活かせそう。
おわりに
今回はインターンの方に「スーパーヒーローをデザインする」というお題を通して、チームのお互いについて理解を深めつつインタビューやコンセプト作りを体験していただきました。
スーパーヒーローやそのスーパーパワーを表現する方法として、どのようなものが適切かは悩ましいところではあるのですがイラストと文字によるポスター程度であればPowerpointやWordの操作に慣れた方ならそこまで難しくないと思いますし、何だったら紙に手書きでも味があって良いかもしれません。インタビュー対象者が外部の人ではなくチーム内であり、お互いにインタビューしあうため(失敗しても外部に迷惑を掛けないという点から)比較的気軽に実施できますし、企業の研修やチームビルディングのためのワークとしても面白いアクティビティなのかな、などと感じたりしています。