デザインファームの作り方(7) フォーカスする領域を決める
前回の記事で営業方法などを考え直す必要があるのでは?について言及したのですが、本記事ではどのような方向に会社を向かわせるのが良いのかについて考えてみます。
現状のおさらい
会社を設立して4ヶ月ほどと短い期間ではありますが、実際にいくつかのプロジェクトを経験させて頂いたり、様々な人との対話を通して下記のような学びを得ました。
1.「サービスデザインファーム」としての営業は簡単ではない
2. 「UXデザイン」という言葉の曖昧さ
2. 「手広く出来る」はアピールとして適切ではない
1つ目は、サービスデザイン案件獲得の難しさです。私が会社設立当初思い描いていたサービスデザインに関するビジネスはこのようなものでした。具体的にはアイディアの創出からサービスのロンチ、その後のグロースまで一貫して関わるようなお仕事をイメージしていたわけです。
世の中にそういう働き方をしている人もいるにはいるのでしょうけれど、マーケットサイズとしてそこまで大きくありません。サービスデザインに注目が集まりつつあるといっても、市場としては依然として黎明期にあるように感じました。もちろん、開発から含めて受けられるのであれば話は多少違うでしょうし、PMとしてフルコミットしてもらえないかみたいなお話はありましたが、これらは現在のリソース的に難しいので残念ながらお断りしてしましました。仕事の請け方の問題なのかもしれませんが。
2つ目は、UXデザインという言葉の曖昧さでしょう。UXデザインという言葉を聞いたときに思い描くものが人によって違う以上「UXデザインできます」という言葉は大きな価値を持ちません。またプロセスを定義して「UXデザインとは具体的にはこのような仕事のことです」と説明してもデザインにプロセスという概念が存在する事を理解していただく難しさがあります。
さらにこれはUXデザインという概念が浸透してきた証拠でもあり、良いことでもあるのでしょうがUXデザインが自転車置き場の議論のように捉えられるシーンが往々にしてあります。
自分は自分たちの作っているもののことをわかっているし、ユーザの体験のことについてきちんと考えていると多くの人は信じているわけです。こうした状況において、いくら私がUXデザインに関する専門性を持っていたとしても、わざわざ外部の会社にUXデザインを発注する動機はなかなか生じないでしょう。
3つ目として、「なんでもできます」は大きなアピールにならないと言うこと。私は営業するときに、取れる案件は出来る限り取りたいと考えていました。「専門性が高いです!」あるいは「○○の領域でお手伝いさせてください!」とアピールすると、取り逃がす案件が増えるのではないかと心配していたのですが、どうやら逆ではないかと今さら考えるようになってきたのです。
例えばファミリーレストランを想像していただくと良いかなと思うのですと、ガストやデニーズなどは和食からハンバーグ、ラーメン、カレー、スパゲッテイなど幅広いメニューを揃えています。どのメニューもそれなりに美味しいと思いますし、多額のリソースを投入した研究開発で得られた成果がふんだんに盛り込まれているのだと思います。だけれども、ラーメンを食べたいと思ったときにはラーメン屋に行きたくなるし、カレーならカレー専門店のほうが美味しそうな気がしてしまうのです。
圧倒的な知名度や実績があれば話は全然変わってくるのでしょうが「これについては任せてください!」のほうが訴求力があるのでしょう。そうでない場合に必要なのは「ターゲットを絞る」という事でしょう。デザイン業界における新参者としては、どこかひとつに狙いを定めて一点突破するのが良い道に見えます。では、どこにターゲットを置くのが良いのでしょうか。
古典的ですが、SWOT分析のように、弊社と弊社の置かれた環境について考えてみることにしました。
弊社の強み:エンジニアリング✕デザイン
自社の強み、あるいは自分自身の強みはどういったところにあるでしょうか。デザイン分野に関して述べると私の場合、海外のデザインスクールでデザインを体系的に学び、大企業やスタートアップ、行政等で様々なイノベーションプロジェクトに取り組んだ経験があるという強みであると考えています。これはどういう事かと言うと、製品のを生み出す0->1だけではなく、1->10あるいは10->100について、どのようにデザインを活用すればよいか理解し、実践出来るという事でもあります。
その一方で、私自身は、1つ目の大学院ではコンピュータサイエンスの、特にヒューマンコンピューターインタラクションに関する研究をしていました。ユーザ行動分析ソフトウェアを開発したり論文を書くなどし、経産省より天才プログラマー/スーパークリエーターとして認定されています。弊社メンバーにはユーザ行動の分析で工学博士を取得し、現在も大学で研究している者もおります。このように、デザイン業界の中にありながらテクノロジーに強いというのは比較的異例であり、弊社の強みと考えて良いでしょう。
その他、強みと言えそうな点と言えば、海外との強固なネットワークもあるでしょうし、アカデミックとの結びつきもあるでしょう。自分で言うのは若干申し訳ない気がしますが、ブログやらnoteやら、文章を書くのは苦ではないので、情報発信も強みのひとつであるかもしれません。
弊社の弱み:リソースの限界と知名度の低さ
とはいえ、当然ながら弱みもあります。お手伝い頂いている方は何人か居るものの、リソースに限りがあるという点は間違いないでしょう。ソフトウェア開発に関する知見があったり、プロトタイピングが強みですと言っても、ソフトウェア開発に実装面からコミットしたり、多くのリソースを必要とするプロトタイピング実施は困難なのが実情です。◯◯のプロジェクトをガッツリリードして欲しいなどという相談を頂く事もあるのですが、現実的なりソースの兼ね合いなど、諸々の事情からお断りせざるを得ない状況が多く申し訳ない気持ちであります。
他方で、ブランド力や、会社としての実績の少なさ等は当然ながら弱みとして自覚すべきでしょう。
これらの弱みに関して関しては今後、外部パートナーさんとの協業であるとか、あるいは情報発信等を行い、ブランディング等していく必要があるかとは思っています。
以上が弊社の強みと弱みです。次に弊社が置かれた環境について考えてみたいと思います。
機会:デザインへの注目と界隈の盛り上がり
デザイン思考に端を発するように、ここ数年デザインへの注目が機会として挙げられるでしょう。UXデザインという言葉は製品開発に関わる者でなくても聞いたことがあるぐらいに一般的な存在になりましたし、人間中心設計の概念も広く知れ渡る事になりました。デザインに関する勉強会やワークショップも盛んに開催されています。最近ではデザイン経営やCDO(Chief Design Officer)あるいはCXO(Chief Experience Officer)という言葉も聞こえてくるようになりました。これらはバズワードと言ってしまえばバズワードなのかも知れませんが、デザイン業界にとって十分すぎる追い風でしょう。
一方で広義のデザインの普及に伴い、デザイナーの役割が変化もひとつの機会であると捉えることができます。これまでデザイナーといえばビジュアルを作る人という認識でしたが、先人達の様々な活動のおかげでデザイナーの仕事は綺麗な見た目を作るだけではないと認識されつつあります。つまり、機会探索して、それをチームやステークホルダーに伝え、プロジェクトを前に進める。これを繰り返す事によって成果を出す事がデザイナーの役割である。こういった考えが広がりつつあるわけです。
脅威:デザインへの失望と競合の増加
前述したデザインへの注目とデザイナーの役割の広がりは機会ですが機会があるということは競合が増えるという事でもあります。デザイン会社の増加は今後しばらく減ることはないでしょう。この中でどのようにして差別化していくかを考えなければなりません。
これはクライアントに対してだけではなく、弊社をお手伝いしてくれている方々に対しても同じ事が言えます。多くのデザイン会社がある中で、弊社に仕事を頼みたい、あるいは弊社の仕事を手伝いたいと思っていただけるような振る舞いが求められるでしょう。それは私自身が常に新しい知見を得て、新しい手法を身に着けて私自身も成長していく事やあるいは周りに還元していくことかも知れませんし、弊社と仕事をする事で新たな発見や、成長を実感していただく等かも知れません。
また、前述した点の繰り返しにもなりますが、デザインという概念の理解が進むと同時に内製化が進むでしょう。UXデザイン(あるいはサービスデザイン)ってこういうことだよねと本やWebサイトで学び、業務の中に取り入れる試みは今後増えるでしょう。これ自体は大変喜ばしい事であると考えますが、そのような状況で我々はどのようにして価値を提供すべきでしょうか。
また、デザインへの失望もひとつの脅威であると考えています。様々な形でデザインを業務に取り入れる試みは大変よい傾向であると考えていますが、その結果、十分な成果を得ることができずに「デザイン思考なんて役に立たない」という結論に至ることも少なくないようです。
デザイン的な考え方を取り入れても根本的にうまくいかない環境と言うのも世の中にはもちろんあるのでしょうが、社内の仕組みであったり、あるいは適切でないデザインの導入など、デザインの本質では無い部分でデザインへの失望があったとすれば、これは我々デザイナーにとって由々しき事態であると言えるでしょう。
これらを踏まえると、弊社がフォーカスすべきフィールドはどこにあるのでしょか。
仮説:フォーカスすべきはデザインリサーチである
前述したように弊社の強みと弱み、外部環境について考えてみますと、弊社がフォーカスすべき業務領域をデザインリサーチにするのが良いのではないかと感じています。
我々はデザインプロセス全般についてそれなりの実績がありますが、特にリサーチに関して高い専門性と豊富な実績があるチーム構成になっています。また、現代のリサーチにテクノロジーは不可欠ですので、テクノロジーに精通した弊社の強みを活かす事のできるフィールドであるとも言えます。
競合に関して少しだけ述べておくと、インタビュー(デプスやフォーカスグループなど)の手法に強い会社さんや,定量調査に強い会社さん、ワークショップに強い会社さんは色々あるものの、テクノロジーに強い会社さん、あるいはプロトタイピングを通したリサーチが可能な会社さんって実は日本にほとんど無いのです。
つまり、デザインプロセス全体を見通しつつ、そのプロジェクトの置かれた状況に応じて最適なデザインリサーチ手法、例えばインタビューやワークショップ、プロトタイピング、ユーザテストなど、様々なアプローチで探索および検証に取り組む専門チームというのが弊社がまず目指すポイントかなと考えています。
しばらくはこの部分にフォーカスして訴求し徐々に業務範囲を広げていけると良いのかも知れません。同時に、弊社の知名度やブランディングに貢献出来るような情報発信を継続していく必要があるのかもと思い始めています。
おわりに
今後、この方針のもと営業を行いたいと考えていますので、プロダクトの創出や改善にデザインリサーチを取り入れてみたい企業様がありましたらお気軽にご連絡ください。
具体的なプロジェクト例については下記のnoteを見ていただくと想像付きやすいかと思います。
なお今後も数ヶ月(おそらく3、4ヶ月)を目処に現在の状況や今後の方向性を見直し修正していくと良いのかなぁと感じましたので、その折にはnoteの記事にできると良いかなと思っています。