見出し画像

デザインってなんなんだ? #デザインリサーチの教科書 への道(3)

デザインリサーチの教科書発売にあたり、その裏話、というわけではないものの、私がデザインリサーチに出会い、沼に沈んでいくエピソードなどを書いてみようかなと思います。

ちなみに前回の記事はこちら。

前回は、デザインリサーチとどのように関わり始めたかについて書きました。デザインリサーチは名前からもわかるように、デザインに関連するリサーチです。だけど、ここまで書いた話の中で、デザインに関するエピソードは出てきていません。これは意図してデザインに関するトピックについて書くことを避けていたわけではありません。私が高専で、そして大学院でコンピューターサイエンスを学ぶ中でデザインを意識する、あるいは触れるきっかけがほとんど無かったというのが実際のところになります。

もちろんですが趣味でWebアプリを作る上で、それっぽい見た目を意識することはもちろんあったし、授業の課題としてなんらかの画面を作ることはありました。だけど、デザインとはかっこいい見た目を作ることであり、ロゴデザインといえばかっこいいロゴをつくること。グラフィックデザインといえばかっこいいグラフィックをつくること。プロダクトデザインと言えばかっこいいプロダクトを作ること。当時はそれ以上の認識はありませんでした。

では、見た目だけではなく、デザインに興味を持ったきっかけとしては、どのようなことがあったのでしょうか。(以前、別のブログでも少し書いた内容ですが、再度ご紹介します)

かっこいいだけのロゴで良いのか?

最初にデザインの事を意識したのは、2008年の4月。東大阪にある長屋で通称「竹の子」と書かれた物件を借りて高専時代の友達と起業することになりました。

画像1

学生をしながらとはいえ、会社作るからにはかっこいいロゴが欲しいね、という話になるわけです。Webサイトだとか、名刺だとかも作らなければいけないから、ロゴがあるだけで様々な使いみちがあるでしょうし。

当時、神戸にある芸術大学に友人が居ましたので、彼に連絡を取って、こうお願いするするわけです。「かっこいいロゴ作ってくれ!」と。そしたら、こんなこと言われるわけです。

会社のロゴは将来までにわたって影響するアイデンティティになるので、会社のことや、ロゴに対するイメージ、こういうことをしたい!という希望の共有をしたい。

単純にかっこよいビジュアルをつくるだけなら簡単にできるけど、会社のやりたいことをビジュアライズして、文字通りのアイコン(象徴)として表現できれば、ロゴは強みになるよ。

これ、今の私としては当たり前の話なのですが、当時の私としてはかなり大きな衝撃を受けたことを覚えています。

ロゴって、デザインって、ただかっこ良ければ良いって思ってたのだけれど、そういうもんじゃないのか、と。デザインって、ただの見た目の話じゃないんだと知ったのは、まさしくこの時のやり取りがきっかけだったように思います。

どんな世界を実現したいのか?

大学院でユーザビリティの研究に従事していたことは前回の記事で書いた通りです。ユーザビリティに関する研究に取り組む中では、様々な書籍や論文を読んでいました。

ユーザビリティ関連の書籍や論文を読むと、ユーザ中心デザインという単語が出てきます。当時、ユーザ中心デザインというと、ドナルド・ノーマンだとか、ヤコブ・ニールセンという方々が有名でした。この分野に関わる方は、誰でも彼らの著作を読み込んでいました。「誰のためのデザイン?」は2020年現在の今でもバイブル的な扱いなのではないかと思います。

しかしながら、これらの本の大部分は、言ってしまえばユーザビリティに関する話なわけです。アフォーダンスがどうだとか、人と製品とのインタフェースに関する話だとか、こういうユーザインタフェースは良くないとかが話題の中心です。見た目の話がゼロというわけではありませんが、あくまでもユーザから見た使いやすさだとかにフォーカスを当ててデザインについて語られます。

ユーザ中心設計に関連してもう一冊、私が印象に残っている本があります。棚橋弘季さんの書籍「ペルソナ作って、それからどうするの?」です。

購入する前は、ペルソナだとか、ユーザ中心設計、つまりユーザビリティに関わるようなインタフェースをどうやって検討する本かと思って購入したんですが、全然違いました。違うんだけれど、大変良い意味で裏切られました。

第一章がまず、デザインとは何か?というテーマで始まっているのです。第一章は下記のように始まります。

「どんな世界を実現したいのか」デザインを考える上で、まず自らが発すべきは、間違いなくこの問いだと思います。

この本では、何のライフスタイルの提案も無い表面的なモデルチェンジや、テクノロジー主導のイノベーションによる売るためのモノ作りを批判した上で、デザインとはスタイリングではないとはっきり言い切っています。

デザインとはスタイリングだと私に取っては、大変な衝撃でした。

アートとデザインって何が違うの?


2010年頃、友人と起業しようとしたことがありました。私はエンジニアリング、彼はデザインについて詳しく、お互いの強みを活かしてプロダクトを作ろうという話をしていました。


プロダクトに関する打ち合わせは渋谷で行われる事が多かったです。仕事の話はもちろんですが、一緒に居るとさまざまなトピックについてが話題に上がります。。

今でも印象に残っているのは、デザインとアートの違いについての話です。彼がポスターのデザインをしていたときです。彼はネットで検索したり、ポスターのサンプル集を見ながら検討していました。そこに、当時の私は非常に無知だったので、素朴な疑問をぶつけてみたのです。デザインなのに、真似していいの?と。


彼はこう答えました。「アートはユニークじゃないといけないけれど、デザインには目的があり、目的を達成できるのが良いデザインなんだ。目的を達成出来るのであれば、他から影響を受けていても問題ない。」と。


私はそれを聞いて、そういえばデザインはただのスタイリングではないってのを本でも読んだなとか、以前ロゴのデザインを頼んだ時にもそういった話が出てきたな、などと色々思い出していきました。


以前からデザインという分野に興味は持っていたものの、なんだかんだで、本格的に興味を持ち始めたのはこのとき以降だと思っています。自分はこれまでエンジニアリングの観点でいろいろなモノを作ってきたけれど、これからはデザインの視点が必要なのではないか、と気づきました。


ちなみに、今回の『デザインリサーチの教科書』を執筆するにあたって、帯の推薦文を誰に書いてもらうか?を決める必要がありました。そのとき、一番最初に名前が出てきたのがこのときの友人である落合陽一さんです。私がデザインに興味を持ち、デザインの世界に入るきっかけを作った彼。彼以上に、この『デザインリサーチの教科書』の帯を書くにふさわしい人はいないだろう、と思っています。

おわりに

私がデザインに興味を持ったきっかけについていくつか書いてみたものの、どの経験も結局は「デザインってのはただのスタイリングじゃねーぞ」ってのを切り口を変えて言っているだけなんですよね。

とはいえ、異なるシーンで異なる人から同様の事を教えてもらったこそデザインに興味を持ったということもあるだろうし、これらのきっかけがなければデザインに興味を持たなかったのかなとも思っています。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?