ユーザビリティテスト実施時の確認ポイント
アンカーデザイン代表の木浦です。弊社ではWebサイトやスマホアプリのUIやUXをデザインする機会を多く頂いているのですが、デザインに取り組む際には様々なリサーチを合わせて実施させて頂いております。
ユーザーさんが自分たちのサービスをどのように使用しているか、新しいUIやUXを触ったときにどのように感じてくださるかを把握し、改善を繰り返すことこそが、良いWebサイトやアプリを作るための唯一の方法だと私たちは信じていますので、このことに多くの方が興味を持ってくださっていることは本当に素晴らしいことだと感じています。
私たちが取り組んでいるリサーチには様々な種類のものがありますが、そのひとつにユーザビリティテストがあります。ユーザビリティテストはプロダクト改善のために非常に有用なリサーチ手法であるものの、必ずしも万能ではありません。状況に応じて正しく使う必要があります。
そこで本記事では、ユーザビリティテストを実施する前に知っておいて頂きたいいくつかのポイントに付いてご紹介させて頂こうと思います。
まず、何についてテストするか決めましょう
ユーザビリティテストは、被験者に対してタスクを設定し、アプリやWebサイト(以下「プロダクト」と称します)を触っていただくことで、そのプロダクトの持つユーザビリティ上の問題点を抽出するテストです。ユーザビリティテストを実施する際にはまず、何についてテストするのかを検討する必要があります。
ひとつは、どのようなユーザーさんがプロダクトを触る際のユーザビリティを評価するかです。プロダクトによっては複数のユーザーグループが存在する場合もあります。楽天やBASE、メルカリのようなプラットフォーム型ビジネスの場合は、一言でユーザーと行っても出品者と購入者が存在します。まずは、これらいくつかのユーザーグループのうち、どのグループにフォーカスをあててユーザビリティを評価するかを決めなければなりません。
複数の商材をひとつのサイトで扱っている場合も注意が必要です。例えばamazonのようなサイトであれば、ひとつのサイトのなかで本などの通販もあれば、kindleのような電子書籍もありますし、音楽や動画サービスも存在します。それぞれの商材ごとに、取引の仕方や画面のデザインなども異なるでしょうから、まず何のシーンについて評価するかを検討する必要があります。当たり前ですが、全て一度に評価することは難しいのです。
ユーザーグループと対象となる商材が決まったら、次はタスクについて検討します。ここで述べるタスクとは、例えば下記のようなものがあげられるかと思います。
あなたは○○のために、このサイトで買い物をしようと考えています。このサイトで○○を購入してみてください。
ECサイトの場合であれば、サイトを訪問して、欲しい商品を検索して、カートに入れ、購入するという一連の流れが一般的には想定されるかと思いますが、実は購入以外にもさまざまなユースケースが存在するはずです。
たとえば商品を購入するだけでなく、商品に関する問い合わせや、商品の使用方法などに関するサポート、注文後のキャンセルという行動も想定すべきかもしれません。しかしながら前述したタスク設定では、これらのようなユーザー行動に関するユーザビリティについては評価することは不可能です。
ソリューションとしての評価は別途必要です
上記の文章で私は「ユーザビリティ上の課題点」と書きましたが、ユーザビリティ評価はあくまでもユーザビリティとしての評価であって、ソリューションとしての評価ではないというところに注意を払わなければなりません。
例えば、出退勤記録のためのWebアプリがあったとしましょう。従来のタイムカードを置き換えたようなもので、仕事を始めるタイミングと、仕事を終えるタイミングで時刻を記録してくれるようなシステムです。このアプリのユーザビリティを評価することはもちろん可能ですが、これは必ずしもソリューションとして適切であるかどうかを評価しているわけではありません。
このアプリで実現していることは「仕事開始と仕事終了の時刻を記録する」のわけですが、この目的を達成するためには、実は様々な方法があることがわかります。状況によってはWebアプリよりもスマホアプリのほうが利便性が高いかもしれませんし、slackやチャットワーク、Teamsを使ったシステムのほうがユーザーの業務状況を適切に把握できる環境もあるでしょう。PCに入れた何らかのシステムが自動で業務開始/終了を判断してくれても良いかもしれませんし、コンピュータービジョン技術を活用して業務開始終了を判断することもできるかもしれません。
業務の性質や、その人の置かれた文脈によってより適切なソリューションが存在する可能性もありますが、ユーザビリティテストでは、あくまでも目の前にあるプロダクトのユーザビリティを評価するものであり、ソリューションの良し悪しを評価するものではありません。
ソリューションとしてそもそも適切かどうかについては、インタビュー設問を設定したりすることによって確認することもありますが、その人にとってそのソリューションが適切かどうかは別途検証する必要があるということを念頭に置く必要があります。
ユーザビリティテストは通常の環境とは異なります
ユーザビリティテストは被験者さんに可能な限り普段どおりの行動を取っていただくことが望ましいのですが、実際にはなかなか難しいポイントもあります。
例えば多くのWebサイトやスマホアプリには利用規約が存在し、その規約に同意しない限り先に進めないような構造になっている場合もあります。本来あるべきかどうかはさておき、多くの方は「存在は知っているし読まなければいけないものだと思っているが、真面目に読んではいない」ものだと思います。
ところが、ユーザビリティテストを実際にやってみると、多くの方が実際に利用規約に目を通し、内容を読み込みます。おそらく被験者の頭の中では「誰かに見られてるから望ましい行動を取らねばならない」といった意識が働いているものだと思いますが、この結果から「多くの人が利用規約をちゃんと読むんだ!」と言えるものではないことは、述べるものではないでしょう。
このような例はいくらでも挙げることができます。例えば、実際のユーザーはWebサイトの操作方法が難しかったりわからなかったりすると「あきらめる」という選択肢を取ることも珍しくありません。ところが、ユーザビリティテストを実施する際には、少々使い方が難しくても、最後までタスクを完了しようとします。
被験者さんに起因する場合もありますが、試験実施側の都合の場合もあります。金融系のサービスなどでは本人確認のために身分証明証をアップロードしていただく場合がありますが、テストをスムーズに実施するために、あらかじめ身分証明書を用意しておいてくださいと伝えざるを得ない場合もあります。その場合、被験者さんによっては身分証明証を探すために数分以上の時間を要するケースもあるかもしれませんから、本当の意味で忠実なテストであると捉えることは難しいでしょう。
このように、ユーザビリティテストを実施する際には、実際の環境とユーザビリティテスト環境の差異を意識したうえで被験者さんの行動を捉える必要があります。
ユーザビリティを絶対値でスコア付することは難しい
ユーザビリティを評価する際によく聞かれる質問のひとつに「ユーザビリティを定量的に評価することはできませんか?」があげられます。
100点満点中いくつなのか、あるいは改善前と改善後でのスコアを定量的に把握したいという気持ちがあるものだと推察されます。そうすることでチーム内で認識をあわせたり、予算や工数を確保したりすることがスムーズになる場合もあるでしょう。しかしながら実際のところ、これはなかなかに難しい。ユーザビリティを定量的に評価することをはこれまでも試みがなされてきたものの、業界で標準と言える指標は2021年現在存在していません。
この理由として、ひとつはユーザビリティ評価のばらつきの大きさがあげられます。5人で評価すれば85%の問題を見出すことができるとは言われているものの、被験者さんが変わればテストを通して得られる結果も異なります。質的調査だからそういうものと言えばそういうものではあるのですが、評価するために点数にばらつきがあってはその解釈が困難であるということも言えそうです。
とはいえ、ユーザビリティ評価を社内で推進するためには何らかの指標が欲しいというケースも当然想定されると思います。そういった場合は下記の図に示すようなレーダーチャートのようなものの提示が検討の候補になるかもしれません。つまり、絶対値で評価するのではなく、競合と比較してどうであるかを可視化するのです。
競合のサイトやアプリと比較して、自社の使い勝手がどのような状態であることを示すことによって、競合との間にどの程度の差があり、注力すべきポイントがどこであるかを明確にすることによって、チーム内で認識を合わせ、より良いプロダクトを作るためにどうすればよいかを検討することができるようになるでしょう。
おわりに
本記事ではユーザビリティテスト実施する際に注意するべき点についていくつかご紹介させて頂きました。いくつかの注意点はあるものの、ユーザビリティテストはWebサイトやアプリなどに潜むユーザビリティ上の問題点を抽出するための非常にパワフルで利便性の高い方法であることは間違いありません。
様々な現場において、プロダクト開発プロセスの中にユーザビリティテストを取り込んで頂き、プロダクトを取り巻く様々な人々にとってより価値の高いプロダクトが社会にあふれることを祈っています。
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私が代表を務めるアンカーデザイン株式会社では、デザインリサーチとプロトタイピングを通してデジタル時代のプロダクト開発に取り組んでおります。興味のある方はお気軽にお問い合わせください。
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