不適切なユーザーインターフェースがもたらす悲劇
前回の記事にて、複雑なシステムを制御するためには適切なユーザーインターフェースが必要であるという事を述べました。昨今では人間中心設計、ユーザーセンタードなどの概念が注目されておりますので、ユーザーインターフェースの重要性に関しては評価されつつあるのだと思います。では、もし適切なユーザーインターフェースを用意出来なかった場合、どのような展開になるのでしょうか。
この記事を読んでくださっている方の中には、適切なユーザーインターフェースなんか用意しなくても、ユーザーが我慢したり、使い方を勉強すれば良いと考えている人も居るかも知れません。そのような方でも少なくとも、悪いユーザーインターフェースがもたらす悲劇にどのようなものがあるかを知識として持って頂き、そのうえでユーザーインターフェースのデザインにどれだけのリソースを割くべきかを判断していただければと思っています。
操作ミスによる事故が起こる
DAノーマン氏の「誰のためのデザイン」を読んでいただいた方には説明不要かと思いますが、スリーマイル原子力発電所事故は劣悪なユーザーインタフェースが原因のひとつであったとされています。
事故の詳細に関しては上記Wikipedia記事を読んで頂くのが良いかとは思いますが、ユーザーインターフェースが適切にデザインされていれば、防げた可能性のである事故であったと言うことがおわかり頂けるかと思います。
同様の事故は世界中で起こっています。もちろん上記スリーマイル事故に関しては異常事態発生時のケースですので、そういったシーンまでユーザーインターフェースのユーザビリティを検証するのは大変だろうなとは思いますが、規模の大小の差はあれ、世の中を見渡してみると不適切なユーザーインターフェースが引き起こすエラーは枚挙に暇がありません。
他にも例えば、飛行機事故の一番の原因は操作ミスという調査結果もあるように、ユーザーインターフェースが劣悪であるとは言えないものの、もっと良いユーザーインターフェースを提供することで、防げる事故というのは世の中に相当数あるのではないかと思われます。
なお、「操作ミスの発生は誰が悪いのか」という問題において、開発者やサービス提供者と話をしていると「ユーザーが注意深く説明を読んでいないのが悪い」「ユーザーがこのサービスについてしっかり理解せずに使うのが悪い」「ユーザーの習熟度不足」のような、まるでユーザーが悪者であるかのような意見が出る事が多々あります。
もちろん、ユーザー側にもある程度の非がある場合もゼロではないでしょうが、少なくともデザインに携わる立場の者の間では、まず自分たちがユーザーに適切なユーザーインターフェースを提供出来ているかを疑うべきであるという共通認識があり、この認識がノンデザイナーにも拡がって行くと良いなと思います。
サポートコストが増える
これは私自身の経験になるのですが、私は以前、キヤノンとシャープで働いていました。どちらもコピー機メーカーです。コピー機のビジネスというのはコンビニ等に置いてあるからおわかりかと思いますが、1枚コピーするごとに何円、1枚印刷するごとに何円頂きますね。というビジネスです。つまりユーザーに使ってもらってナンボなわけですが、コピー機は完璧ではないので、紙詰まり等のトラブルが起こったりもするし、インクも切れるし、紙も補充しなければなりません。
こういった状況になったとき、基本はユーザー自身で解決して頂くようにメーカーとしてはお願いしていますが、メーカーの都合としては、紙詰まりの解消方法がわからないからとか、インクの交換方法がわからないとか、紙の補充方法がわからないとかでサポートセンターに電話がかかってくるとコストになります。つまり、ユーザーインターフェースが不適切だとかかってくる電話が増加するので会社としてはコストが増え利益を圧迫します。逆にユーザーインターフェースが適切であればかかってくる電話の本数が減るからコスト削減になります。
大企業の場合は、サポート専門のスタッフが居る場合が多いのでまだ良いのですが、規模の大きくないスタートアップ等でよくあるのはユーザサポートに時間をさかれてプロダクト開発に集中出来ないと言った状況です。こういった状況を出来る限り回避するためにもリリース前にユーザインタフェースデザインの良し悪しを検討するのは重要です。なお、ノンデザイナーがユーザインタフェースの良し悪しをチェックする方法についても今後書いて行きます。
ビジネス上の機会損失が発生する
(サイトの導線を評価する:基本編より引用)
Web界隈の方だとファネルという言葉を聞いたことがあったり、あるいは使ったことがあるかも知れません。簡単に言ってしまうと、目的を達成するための各プロセスでユーザがどんどん離脱していくよ!って言うことです。
目的とは例えばECサイトにおける商品の購入などがわかりやすいかも知れません。例えば、なんらかの商品をユーザに購入してもらうためにはまず、ユーザーにサイトを訪問してもらい、商品をショッピングカートに入れてもらい、会計画面に進んでもらい、ユーザの情報を入力してもらい、最終的に購入ボタンを押してもらう必要があるわけです。
ところがユーザーが実際にWebサイトを使っている様子を見ていると、様々なところで操作を中断することがあり、これを離脱といいます。原因としては「操作方法がわからない」「面倒になった」など様々なものが考えられますが、適切なユーザーインターフェースを提供することで、これらの数字を改善する事が可能です。
例えば使い方がわからないのであれば、ユーザーインターフェースをわかりやすくする工夫を行う事も出来るでしょうし、ユーザーに面倒だと感じさせないユーザーインターフェースを実現することも工夫しだいで可能です。
具体的には会員登録画面等、入力しなければならない項目数が多くあるとユーザの離脱は増える傾向にありますが、項目が多すぎないように見せる工夫を行ったり、「所要時間は30秒です」などと所要時間を明示したり、そもそも最初にすべての情報を集めるのではなくサービス提供する中で必要になった際に追加で入力を求めるなど、様々な方法があります。
ユーザーの満足度/ロイヤリティの低下
(顧客ロイヤリティの向上[アフターサービス]から引用)
我々はユーザーとして使わなければならないシステムというものが多数存在します。例えばとある会社では業務を進めるためにいくつかの社内システムを使用する必要がありましたが、お世辞にも良いユーザーインターフェースであるとは言えないものが相当数ありました。
また、社外のシステムなどを見ていても、不適切なユーザーインターフェースが採用されているものは多くあります。代替手段が無かったり、スイッチングコストの問題等で使い続けていたりなど、それでもユーザーが離れない事情は様々でしょう。
これらは数字には表れにくい要素ではあるものの、ユーザの満足度や忠誠心は確実に下がり続け、より魅力的な代替手段が出てきた瞬間、多くのユーザーが離れていく事でしょうし、SNSやブログ、口コミ等で新規ユーザ獲得に貢献してくれる事も期待出来ません。
おわりに
以上、不適切なユーザーインターフェースがもたらす事例をいくつか紹介しました。これら裏を返せば、適切なユーザーインターフェースを提供すれば様々なメリットがあるということです。つまり、操作ミスに起因するトラブルを減らすことができ、事業運営コストを削減することができ、機会損失を減らす事で売上を向上させ、顧客満足度/ロイヤリティを向上させることができるわけです。
では、良いユーザーインターフェースを作り提供するためコツのようなものはあるのでしょうか?もちろんあります。次回、その方法について書いてみたいと思います。