1000文字思考 その34 「私が日本の文化の象徴になった話」
今年の春は、桜が散りきる前に一人でお花見に行くことが出来た。とても良かった。
例年、散りゆく桜の木を見て「お花見がない時...」と呟きながらアルバイトに向かってとても悲しい気持ちだったが、今年は散りゆく桜の木を見ても「お花見がある時〜〜!!わはははは!」と左右に揺れながらアルバイトに向かうことが出来た。
兵庫県の夙川という所に、桜並木の綺麗な場所がある。私の実家からも阪急電車を転がして1時間足らずで着くので、今年はそこで一人お花見をした。
夙川という場所の素晴らしさは、桜だけでなく「美味しいパン屋」が軒を連ねているという点にもある。
「花より団子」なんて言葉があるが、夙川ではそれに優劣をつけることなくどちらも享受することが可能なのである。桜の木の下でパンを頬張りたいデブにとってこれ以上ない理想郷である。
夙川はいわゆる高級住宅街で、パン一つ買うにも300円〜400円程は覚悟する必要がある。
私はこの日のためにアルバイトと映画レビューの内職で貯めた貯金を切り崩した。
阪急夙川駅の改札を出て、私はすぐさま徒歩5分程の所にある超有名パン屋の行列の最後尾を探した。40分待ちの看板が出ていた。
並んでいる間、暇なので「そういえば私、最近美味しいものを食べるために行列を厭わなくなったな〜」などと考えていた。人間は周りからの評価、自己肯定感が下がると食事に悦を求めるらしい。
私は2022年に入ってから何も良いことがない。めちゃくちゃ勉強して挑んだ試験に不合格し、好きな人に振られ、バイト中にバナナと間違えて自分の指を切った。あと痴漢にあった。
だから最近、食べることが1番楽しい。
パンのために2000円もATMでおろした。
そんなことを考えているとパン屋に入れた。私はあんぱんに目が存在しないので、トングでトレーにニヤニヤしながら運んだ。他にも色々買った。
両手をパンに塞がれて、幸せそうに手頃な木の下を探していると、とある外国人女性に話しかけられた。
「すみません、私はインドの大学生です。今日本の宴会文化を学びに来ていて、話しかけました。」
「私の目の前で、そのパンを食べてくれませんか?大学の機関紙に載せます。」
私は、インドの大学の「日本の宴会文化の象徴」になった。
私のおかげで、日本人はぼっちで桜を見ながらパンを食べるのが常だと認識されてしまった。
日本人の皆さん、春になったら一人で桜を見ながらパンを食べましょう。